アキュレイト・シューティング決勝戦
交流戦12日目。夏の激戦もあと2日。この日は3年生男女による、2つの競技の決勝戦が行われる。
蒼真は2つ行われる競技のうち、アキュレイト・シューティングの会場に鴉蘭と共に訪れていた。
「結城君とは補助装置の調整があったおかげでいろいろ話をしたりしたけど、こうして一緒に交流戦を楽しむのが最終日前になるまで無いとは思わなかったよ」
鴉蘭はこの交流戦では、まだ彼が1年生であるため蒼真と炎珠のみのサポーターとして参加しており、彼らが使う補助装置は一から調整し直している。2年生のサポーターや一彦と遥人を担当する蓮治は、自身の学年の競技の選手の分も受け持っているため、鴉蘭も来年には多くの学生の補助装置を調整することになるだろう。
補助装置の調整に高い技術を持っている蒼真は、自分で調整したもののみを使用していたが、初めて他者の手が入ったものを手にした。その使用感はとても良く、蒼真はかなり驚かされた。
「結構長い時間、一緒にいたはずなのにな。それでも、お前と魔法談義をしたのはとても勉強になった」
「それは僕の方がだよ。魔法応用科の主席と意見交換ができたんだから。でも、今日は良かったのかい? 今日まで友達と一緒に過ごしてきたんだろう?」
この日の蒼真は澪や修悟達とは別行動をとっている。この場所にいるのは彼と鴉蘭だけだ。
「あいつらには——特に修悟にだが、ドッジ・サバイバルでの原田先輩の動きを見せておきたかった。あの人自身には『七元素』のような抜きん出た能力はないが、周りをよく見て他者の力を利用することに長けている。今年選手になれなかった修悟が、来年この位置を目指すためのいい手本になるだろう」
蒼真は魔法使いに宿る魔力の量を目視することができる。魔力の量はその人物の魔法使いとしてのポテンシャルに匹敵するのだが、誠志郎の実力は魔力とは関係のない部分の努力に起因する。蒼真は、そういった努力による実力者を高く評価していた。
「それに、俺がこれを見に来なかったら、絶対にあの人が文句を言ってくるからな」
「あぁ……厄介な人に好かれたものだね、君は……」
鴉蘭は憐れみを込めてた視線を蒼真に送った。
その蒼真はというと、4月での活躍や、生徒会での業務をこなしているうちに、風紀委員や教師陣のうちごく少数からではあるが、陰ながら「光阪恵の懐刀」などと呼ばれるようになっていた。
だが、その実態は恵の無茶振りやウザ絡みをほぼ一手に引き受ける酷な立場だということも周知の上である。
「ほら、会長さんが手を振ってるよ。振り返してはあげないのかい?」
「何で俺が……と言うより、あれは俺に向けてじゃあ無い。俺に向けてじゃあ無いと、頼むから信じさせてくれ」
蒼真の願いとは裏腹に、完全に恵は彼と目を合わせた状態で手を振っていた。ただ、彼の前に陣取っていた「光阪恵ファンクラブ」が黄色い声をあげていたため、競技場にいる周りの人達から見れば、恵は自身のファンクラブに向けて手を振っているように映っているのだろう。
実際のところは恵にしかその本心はわからないが、ただ蒼真を困らせたいと言うことだけは、彼と彼の隣に座る鴉蘭には感じさせられた。
「フッ……光坂会長がこんなに面白い人だとは思わなかったよ。『七元素』の魔法使いで、世代を引っ張る存在が、1人の後輩にこれだけ執着するなんてね」
「絡まれる側になってみろ。悠長なことは言っていられないぞ。それに、どれだけ軽く接してこられたとしても、俺とあの人では立場が違う」
蒼真は「無元素」の魔法使いである前に術師である。そして、今の結城家にとっての明確な敵は「七元素」の一員である闇斎家。
蒼真の部下となった如月や暁月を実験所に閉じ込めていた過去があり、春には暁月の確保のために闇斎家の部隊を返り討ちにした。いずれ、さらに大きな戦いが起こることが予想される中で、蒼真は闇斎家と同じ「七元素」の全ての人物に対し、少なからず警戒心を抱いてしまうのは仕方のないことではあった。
「それでもあの人が俺と親しくしようとしてくれるなら、後輩として応援しておこう」
「厄介な人だね、君も会長も」
「……」
やれやれと首を振る鴉蘭を無視して、蒼真は競技に向けて準備を始めた恵へと視線を向けた。
もう彼女の思考は蒼真の方にはなく、その目の色は変わった。今の彼女は高校生「七元素」を代表する存在であり、いつまでも後輩に構おうとする甘い姿を大衆に見せ続けるわけにはいかない。メリハリをつけ、出すべき結果を出す。これが彼女が生まれた時から課された使命であった。
ただ、それは「七元素」の為にというわけではない。「七元素」のあり方について疑問を持つようになった恵ではあるが、彼女の生まれが「七元素」でなくとも、勝ちにこだわる負けず嫌いな性格は変わらなかっただろう。強い意志と、我を押し通すことができるようになるまでの努力ができることも、良い魔法使いの資質と言える。
「さぁ、高校生活最後の交流戦の試合。……目一杯楽しませてもらうとしますか!」
大観客の視線と期待を一身に浴び、彼女は競技場へ降り立つ。
全ては勝利の為に。




