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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
97/101

鬼と風

 一年生の両競技で決勝戦が終わり、一夜明けた。

 前日の主役達は、もう後の競技のことを考えず休息を得ていた。


「で、お前はまだ寝てるのか?」


「誰のせいだと……って言うか、昨日まで敵だったやつのところになんで来てんだよ」


 シェパード・ボール決勝戦で大怪我を負った直夜は、未だベットの上から自由に動けずにいた。そしてその傍にやってきたのが、怪我を負わせた張本人である涼自身だ。


「別にいいだろ、それくらい。昨日までは敵で、お前達のことも認められなかった。でもな、『七元素』でも考えを改めることくらいある。それに——」


 涼は直夜から視線を上げると、窓の方へと向けた。直夜のベットの周りに座る澪や修悟達。その先にいる蒼真を。


「光の『七元素』に気に入られ、土の『七元素』を倒し、雷の『七元素』と戦おうとするお前と話をしてみたかったんだ」


「それで、次は風の番というわけか。別に俺は『七元素』に興味があるわけじゃあないんだがな。なぜか妙に縁があるようだが」


「なぁに、お前と友達になろうなんて気はさらさら無いさ。ただ、お前はおそらくこちら側の人間だ。俺や刹那なら理解者にはなってやれる」


 そう言うと、涼は部屋の隅で流れる中継映像を指し示した。


「見ろよ、2年の決勝戦だ。『副元素』も何人かいるが、頭ひとつ抜け出てるのが東京校の水土コンビ。別々のチームで出ていても、ワンツーフィニッシュだっただろうな」


 予選から1度も自分達の前を譲ることがなかった雨宮・永地・栄チーム。その圧倒的な実力で他チームをねじ伏せ、反撃の隙すらも与えない。

 結局最後まで彼女らに抵抗できるものは現れず、2位のチームと大差をつけての優勝を飾った。


「この2人、相当強い。相当強いが、『副元素』止まりだ。今の『副元素』で俺達『七元素』に匹敵しうる魔法使いを俺は見たことがない。それほどの差が『七元素』と『副元素』の間にある。だが、この数日で俺の想定をお前達は越えてきやがった」


 崇や蒼真など、この交流戦で爪痕を残した学生達の情報はそれほど時間を置くことなく「七元素」の上層部にまで届くことだろう。

 無名の学生による、前代未聞の「七元素」撃破は彼らに多大なる衝撃を与え、突如現れた新たな力への対応を迫られることとなる。

 取り込むのか、抑えつけるのか。最高権力の威厳を守るための選択を。


「それで、何が言いたい?」


「お前はこちら側に……俺達『七元素』の側に来るべきだ。上の連中も馬鹿じゃあない。土岐との対戦を見ていれば、お前が相当な実力者だってすぐに気がつく。そうなれば、『無元素』の中に紛れてフラフラしていられない」


「断る。『七元素』の思想は俺に合わない。それに、俺の実力を買い被りすぎだ。地力は到底及ばないぞ。昨日勝てたのも、条件が俺に味方したからだ」


 土岐岳との戦いで、蒼真は正面から岳に立ち向かうのではなく、罠を仕掛けて彼が術中にはまるのを待つ戦法をとった。これは岳がまだ未熟な魔法使いとはいえ、彼の土魔法に真っ向から対抗できる策が鬼人化を除き、無かったからである。

 全属性の魔法を満遍なく使うことができる蒼真であるが、自身が生まれ持った属性以外は鬼人化抜きでは「七元素」に届かないのだ。


「謙遜はやめろ。仮に地力が劣っているのが本当だとしても、それを埋め切れるだけのセンスがある。評価を下すには十分すぎる要素だとは思わないか?」


「思わないな。センスとかいう数値化できないものを持ち出す時点で、その評価は個人の主観が入った意味のないものに成り下がる。そんな他人の基準で測られるのは不愉快だ」


 涼の話を蒼真は真っ向から否定する。

 だが、涼はなぜか満足げな表情を見せていた。彼の周りにいるほとんどの者は彼の言葉に付き従うイエスマンばかりである。そんな中で目の前にいる男は、実力が及ばないとは言いつつも対等に話ができるという、涼のなかでは珍しい存在になっていた。


「なら、1つ提案をさせてくれ。お前と刹那はえっと……ここにはいないが、氷雨白雪って子を巡った賭けをしていたよな?」


 蒼真と直夜の部屋には見知った顔が並んでいたが、白雪と志乃の姿は無い。交流戦が大詰めということは、彼女達の競技であるウィッチ・クラフトの発表もまもなくということであり、この時も各校の作業に励んでいる。


「あいつを景品みたいに言うのはやめろ」


「……悪かったな。口が滑った。……それで、その賭けに1つ条件を追加させて欲しい。お前が刹那に勝てば、『七元素』のことなど気にせず自由にすればいい。ただ、刹那が勝った場合、さっきの話を真剣に考えてくれ」


「俺が負けたなら、俺の実力はその程度だったって話で終わりだ」


「もうその段階は過ぎてんだよ。わかってんだろ、お前も。土岐の野郎を完封してたくせによ」


「……勝てたら、な」


 そもそも、蒼真は刹那に負けてやるつもりはない。白雪や他の仲間達に勝利を望まれた以上、敗北は自身へ罰を与えることと同義であった。

 今どれだけ彼らが語り合ったとしても、結論は出ない。全ては交流戦最終日——2日後に待つ蒼真と刹那の直接対決の結果に委ねられた。

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