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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
96/101

ポールダウン・ソーサリー決勝戦

 この日残っている競技もあと1つ。1年生女子によるポールダウン・ソーサリー決勝戦も佳境に入っていた。

 試合後半戦の半ばが過ぎ、点差は1対0。僅差ではあるが、澪やリサ達のいる東京校がリードしていた。

 東京校の強みはリサを中心とした機動力と一点突破能力を兼ね備えた攻撃と、澪による鉄壁の守備であり、これまでの試合では圧倒的な力を見せつけ勝利を重ねてきた。

 しかし、接戦のまま最終盤を迎えているのは、京都校の司令塔役になっている獺越真凛の働きが大きいだろう。目立つような大規模魔法は使っていないものの、要所要所で効果的な魔法を発動し、術による罠を仕掛け、魔法高校全18校中トップクラスの攻撃力を誇る東京校を最小失点で抑えていた。

 その背景にはある人物からの助言が、彼女への大きな力添えとなっていた。


『なぁ、真凛。次の決勝戦は勝とうと思わんことやな』


 いつものように真凛が稲荷の荷物を持ち、後ろをついて歩いていたとき、不意に主人は従者に話しかけてきた。


『ウチはアンタが澪に勝てるとは思ってへん。それはわかってるやろ?』


 澪も真凛も、蒼真や稲荷といった主人に仕える者という同じような立場である。だが、魔法使いとしての器は大きな差が開いていた。

 真凛は所詮、大勢いる葛葉家の従者のうちの1人に過ぎず、実力も飛び抜けていると言うわけでは無い。しかし澪は違う。彼女の魔力の本質は、蒼真や稲荷、鞍馬兄弟といった大妖怪、光のような陰陽師、そして「七元素」などの怪物達と酷似していた。まだ成長途中とはいえ、生まれながらにして持つポテンシャルを稲荷は見抜いていたのだ。


『せやから、全力で抗ってみ。こんなチャンスはなかなか無いで。相手がまだアンタと同格やと思ってくれてるうちに、胸借りて戦ってみたらええやん。勝敗なんかは気にせんでええわ。鬼の従者の本気を肌で感じたら、きっとアンタは強くなれる』


 真凛は心の中で稲荷の言葉を反芻する。普段は自らの関心があるものにしか目を向けない稲荷が、これから戦う自分に向けて送ってくれた数少ない言葉。その中には「澪の全力を引き出せ」というわがままな主人の本心が隠されていたが、今は気づかないふりをした。

 稲荷の本心がどうであれ、真凛にとって彼女は神に近しく、一生をかけて付き従うと魂に刻み込んだ人なのだから。


「行きますよ、茨木澪さん。共に偉大な方に仕えるもの同士、存分に化かし合いましょう」


 真凛が魔力を込めると、あらかじめ罠として設置しておいた術が発動され、辺りに湿っぽい空気が流れ始めた。それと同時に1本、2本と立て続けに東京校のポールが倒された。京都校による攻撃が一切されていないのにも関わらずである。

 これが獺越真凛の魔法使いとしてでも、術師としてでもなく、妖怪・(かわうそ)としての力である。術の名は「水辺の獺」。幻術により相手を化かす、まさに妖狐の傘下に相応しい能力であった。


(流石は妖怪の力……このまま獺越さんを野放しにしておくのは危険なようね)


 試合の残り時間はわずかであり、真凛が術を発動するまでは、1点のリードを守り切ることを念頭に置いていた澪だったが、そう悠長なことは言っていられなくなってしまった。味方の守備陣が幻術にかかり、魔法で制御していたポールの抑えが効かなくなったからだ。不安定になった魔法陣を無理矢理に澪の魔法陣で上書きし、複数のポールを彼女1人で受け持つことにしたが、いつまで保つかもわからない。加えて、幻術にかかった味方の動向も読めなくなっている。

 幻術に対抗するには、術師以上の魔力か、外からの衝撃によりが必要である。今の東京校チームの面々で、抵抗できるのは澪とリサくらいのものだろう。ただ、妖怪の術は特殊であり、術師の技巧によっては格上の相手であっても術中に落とすことができるのだ。

 だが、澪は普段から鬼である蒼真と共に生活し、訓練を行っていることもあり、幻を見ることはなかった。


(ここから逆転するには……)


 澪は辺りを見渡し、勝利への糸口を探した。しかし、彼女以外で唯一真凛の術に対抗できるであろうリサですら真凛の術中に陥っており、外部刺激による解除をしようにも、京都校による執拗なマークを受けており、警戒度が伺える。


「もう、私がやるしかないようね」


 覚悟を決めた澪は、手を前に突き出し、さらに3つの魔法陣を展開させた。守備のための魔法や、他のメンバーのサポートのために発動している魔法も含め、同時にこれほどの数の魔法を使える者は数少ない。


「私は蒼真ほど強くもないし、必死になれる意志も理由もない。でも、今日は勝たせてもらうわ」


 魔法陣から放たれた衝撃波がピンポイントでポールを撃ち抜いた。

 ポールダウン・ソーサリー決勝戦。4対2で東京校の優勝。

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