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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
94/101

シェパード・ボール決勝戦①

「大丈夫か、ナオ!?」


「……あぁ、めっちゃ疲れたなぁ……」


 シェパード・ボール決勝戦。東京校対名古屋校の一戦は、両者一点も入ることなく前半が終了していた。だが、それは力が拮抗していたからという訳ではなく、東風涼の猛攻を紙一重のところで直夜が防ぎ切っていたからである。

 大活躍を見せる直夜だが、競う相手は「七元素」。彼の無尽蔵とも称されるほどのスタミナも大幅に削られ、今は後半が始まるまでの僅かな時間でも休憩室で横になり、体力の回復に尽さなければならなかった。


「ごめんな。俺がもっといい指示を出せていれば、ナオにかかる負担も少しくらいは減ったかもしれない。『七元素』が相手の厳しい戦いだとしてもな。それに他の守備のメンバーも、お前に全部任せっきりになってること、謝ってたぞ」


「……ヨシ……お前も散々予選の映像は見ただろ? 指示1つでどうこうできる相手じゃないだろ。それに、ただ守備の人数を増やすだけでもな」


「その化け物をお前が抑えてるんだぜ。本当に凄えよ」


 決勝戦に至るまで、名古屋校チームは圧倒的なスコアを叩き出し勝ち進んできた。そのチームの原動力である涼を止めるため、各校は様々な作戦を練っていたが、それも不発に終わってしまう。守備の層を厚くしても、縫うように間を抜かれるか、障壁など紙をめくるかのように吹き飛ばしてしまった。ならば攻撃に転じようとしても、すぐさまボールは奪われ、涼の掌の上で転がされる。

 立てた策を正面から力でねじ伏せるという彼の魔法は「七元素」と呼ぶに相応しいものであり、加減されているとはいえ当たりどころが悪ければ怪我をすることも予想されるほどだ。交流戦中に怪我人は出ていないが、これも彼がうまく魔法をコントロールしているが故である。

 この競技において、彼はたった1人で場を掌握していた。

 そんな涼にただ1人抵抗しているのが直夜である。彼は蒼真や涼のように目を瞑ったまま、周りの状況をこと細やかに知るなどという芸当はできない。魔法使いとしての彼が持っているものは、常人と同じほどのレベルの魔法能力と、後付けで手に入れた強化魔法だけだ。

 しかし直夜は視界を奪われた状態で、歓声の中僅かに聞こえる異音と持ち前の野生の勘を頼りに「七元素」と渡り合っていた。

 そうして目を見張る活躍を見せていた直夜だったが、人の集中力というものはそう長く保たれない。直夜は体力と共に気力も激しくすり減らしていた。そこへ追い打ちをかけるような知らせが入る。後半開始前の放送である。直夜は完全回復を待たずして戦いに戻ることとなってしまう。


「……後半、始まるな。立てるか? と言うか、出れそうか? 無理なら交代した方が——」


「大丈夫。自分なら出れるさ。それに、ここで退くわけにはいかないしな。初日にあんな啖呵きっておいて、ヘロヘロになって試合半分でダウンなんて情けなくて、恥ずかしくて死にそうになる」


 直夜は今にも倒れそうになる体を気合いで立て直し、フィールドへ向かう意志を見せた。その姿を見てしまえば、彼を心配していた佳孝や他のメンバーも代われなどと口を出すことはできなかった。

 彼らに見送られ、フィールドへ戻る選手達の列の最後尾からゆっくりと自分のポジションへ歩く直夜にある人物が近づいてきた。


「百瀬……満身創痍になってまで、まだやるのか? これまで俺の攻撃を防ぎ切ったことは、正直言って賞賛に値する。だからこそ、早く交代した方がいい。俺はお前を痛めつけたいわけでは無いからな」


「忠告してくれたところ悪いけど、自分はまだピンピンしてるよ、東風。そう余裕綽々で油断してると、誰かさんに足元掬われるぞ?」


「油断、か。俺は……いや、俺達はもう()()()のこと認めているぞ」


 そう言い残すと、涼は自らのチームへと戻っていった。

 そして今、後半開始のブザーが鳴り響く。

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