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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編

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アサルト・ボーダー⑥

 名古屋校の圧勝かと思われたアサルト・ボーダー準決勝第1試合だったが、刹那と崇の熱い闘いで観客席は興奮冷めやらぬままであった。

 この日は「七元素」同士の試合は見られないが、先程の試合の光景もあり、期待は大きい。

 こうして、さらに注目の集まることとなった準決勝第2試合、東京校対横浜校対大阪校の試合が始まった。

 舞台は木々が生い茂り、湿度の高い「密林」。東京校チームにとっては、前回の「砂漠」に対して正反対のようなステージである。


「チッ……湿気ってやがる……」


「ほら行くぞ、不知火。今は先手を取って試合を優位に進める事が先決だ。それに、お前の魔法はこれくらいの環境でも問題なく使えるだろう」


 発動された魔法は特殊な魔法を除き、魔法陣を離れた瞬間から物理法則に従うようになる。どれだけ魔法で火を生み出しても、熱や酸素を奪ってやればやがて消える。

 もちろん、炎珠は「副元素」の魔法使いであり、多少の雨や霧の中でも魔法を発動することは可能である。だが、4月に蒼真が生徒会に、炎珠が風紀委員に所属することが決まった日の小競り合いで、横から現れた香織に自身の魔法を打ち破られたことから、水に対して過敏になっている節がある。

 それでも彼がどう考えているかなどは、競技には関係がない。今は勝利のために、ミーティング通りに動くだけだ。先走っていた1回戦とは違い、気持ちを入れ替えて炎珠は一彦の後ろについて行った。それに追随し、2年生2人もスタート地点を去る。


「さて、僕らも行こうか。重大任務が待ってるからね」


 残された蒼真と遥人にも、役割がある。対「七元素」という重要な役割だ。


「……風前先輩、俺は土岐岳に勝てると思いますか?」


「さあね。このフィールドは見通しが悪いし、足下も木で凸凹してる。実力があったとしても、どう転ぶかはわからないよ。……でも、そんなことを聞きたかったわけじゃないんだろ?」


 不意に蒼真の口から飛び出した問いかけ。普段の彼ならば、任されたことを淡々とこなすだけだった。だが直前に崇達の戦いを見たことで、彼の心の奥底にある闘争心が少しばかり刺激されていた。


「そうですね。まずはこの地を活かして、奇襲でも仕掛けてみましょうか」


 蒼真の頭上に出現した水属性の魔法陣。すぐさまそこから青色の霧が発生し、瞬く間に会場全体を覆い尽くした。

 水属性魔法「五里霧中(ストレイ・フォグ)」。この魔法はただ濃霧を生み出すのみの魔法であるが、霧の中に蒼真は自身の魔力を混ぜ込んだ。これで霧が届く範囲内は、夏休み中に「死招蜥蜴」のアジトに乗り込んだ時と同じように、蒼真の支配下に置くことができる。この霧の中で魔法が使えるのは、「副元素」相当の実力を持つ者以上となるように調整した。

 彼が空間の支配に全力を尽くせば、「七元素」にしか破ることができないようにすることは可能である。だが、今は団体戦の競技中だ。攻撃の役目を負っているチームメイトまで封じてしまうのは、悪手となってしまう。


「凄いね。さっきまで感じていた赤木君達の魔力も、もう感じ取れないよ。これでも魔力感知には自信があったんだけど」


 視界を覆う青色は、人の姿形だけでなく魔力ですら包み込んでしまう。

 突然発生した霧は、他校のチームに混乱をもたらしていた。


「何だ!? 土岐君! どこにいるんだ!? 僕達はどうすればいい!?」


「全員、背中合わせで一ヶ所に集まれ! 状況を判断できるまで、一旦待機や」


 岳以外に目立った戦力がいない大阪校チームは、濃霧の中の進軍は危険と判断して立ちすくむこととなった。

 良くも悪くも岳中心のチーム構成であるため、全てのタスクを彼1人がこなさなければならない。その意識が他へ向く瞬間が、大阪校の最大のウィークポイントだった。


「……オレの魔法で砦を作る。周りからは目立つけど、霧の上に出るで」


「……」


「オイ、聞いてるんか」


 一瞬考え込み、策を練ると岳は仲間の方へ振り向き声をかけるが、返事は無い。


「嘘やろ……もうやられたんか。化けモンでも潜んどるんか、この森」


 警戒心を最大にして、ゆっくりと自分についてきていたはずの仲間の元へ擦り寄ると、彼の想像通り気絶したチームメイト5人が倒れていた。

 生き残っているのが自分1人なのだと理解すると、岳は地面に左手を置くと、土魔法「城塞都市(フォーティファイドシティ)」を発動した。

 彼を中心に半径約200メートルの円状に巨大な壁が建設される。仲間を戦闘不能に陥れた敵を逃してなるものか、という意思が伝わってくるほどの巨大な魔法だ。


「さぁ、獣狩りの時間や。オレに喧嘩売っといて逃げ切れると思うなよ」


 パチンと指を鳴らすと、壁が音を立てながら収縮を始める。

 狭まるエリアから脱出しようと壁の破壊を試みようものならば、その攻撃を岳は感知できる。また空へ逃げるならば、霧の高度よりも高い壁を越えなければならない。霧の中ならば蒼真の領域内のため、岳は魔力探知ができないが、霧を出てしまえば話は別だ。壁の付近を流れる彼の魔力によって捕捉されることだろう。


「どこに隠れてるんや。鬱陶しい霧ん中でコソコソしよってからに。はよ顔見せんかい!」


 青い霧に潜む敵に向かって叫びながら、岳は探し歩いた。小さくなり続ける壁の中で、いずれ隠れる場所が無くなり目の前に現れざるを得なくなるとはわかっていたが、彼はそれを待てるほど気が長い男ではなかった。

 歩き回り、少々苛立ちが募り始めてきた彼の側面へ、突然白い電光が走った。


「おうおう、この程度の不意打ちでオレを倒せるとでも思っとるんかいな」


 死角からの素早い雷属性魔法だったにも関わらず、岳は瞬時に対応して土壁を立てて防いでいた。


「わざわざ自分の居場所を教えてくれてありがとよ!」


 岳は魔法の発生地点まで一気に距離を詰めると、木の陰に腰を落として姿を隠していた蒼真へ蹴りを繰り出した。

新登場人物紹介

・土岐岳ー大阪魔法高校の1年生。土の「七元素」の1人。

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