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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
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アサルト・ボーダー④

「ゔっ……なかなか早いもんだな」


 刹那のパンチをモロに腹部に受けた崇は、眉間に皺を寄せながら声を絞り出す。

 並の魔法使いなら、喋るどころか立ってすらいられない程のダメージを負っていたが、彼も蒼真と同じ妖怪の血を引く術師だ。普通の魔法使いは比較の対象には入っていない。


「俺の攻撃を受けて、まだ喋っていられるとは思ってなかったよ。もしかして、相当鍛えてる?」


「まあな。お前も『七元素』の立場で胡座をかいてるだけではなさそうだ」


「そりゃあどうも。じゃあ、もう一発いくよ」


 刹那は右足を1歩分引くと腰を落とし、先程の打撃よりも力を込めた一撃を繰り出した。

 スピードも威力も上がった刹那のパンチ。大人ですら直撃すればタダでは済まないその一撃を、崇は胸の前で片手で受け止めた。

 そしてそのまま腕を掴むと、パンチの勢いも利用して背負い投げた。


「舐めるなよ。馬鹿の一つ覚えみたいに普通のパンチばっかりしやがって。それが通用するのも、お前を持ち上げてくれる温い環境でだけだ」


 地面に寝転がる刹那を崇は眼下に睨みつける。彼は刹那が意識的になのか、無意識のうちなのかはわからないが、手を抜いていることを感じていた。

 今の崇には勝敗へのこだわりはないが、目の前の相手が手抜きで戦っていることに納得がいかなかった。


「早く立て。それに、そろそろ魔法を使ってみたらどうだ。魔法無しで俺に勝つつもりか?」


「……待ってくれるんだね」


 後頭部や腕についた砂を手で払いながら、刹那は立ち上がる。自分の攻撃に完璧なカウンターを返されて土をつけられた彼だったが、未だに表情は変わらず、薄く笑みまで浮かべている。


「魔法を使えって言うけど、魔法無しの俺のスピードについて——」


「ついていけるさ」


 刹那のボディブローの意趣返しのような形で、崇は瞬く間に相手との距離を詰めると、正面から刹那の顔を掴み、地面へと叩きつけた。

 ゴッと音を立てて地面のコンクリートにヒビが入り、刹那は一瞬飛びかけた意識をすんでのところで繋ぎ止める。


「やっと使ったな、魔法」


「……」


 崇は自分の頭を指し示しながら、刹那の顔を掴んでいた手を離した。

 頭を強く打ち付けたにも関わらず、刹那が意識を保っていられるのは、ギリギリのところで自分を対象に使った強化魔法のおかげである。これが間に合わなければ、優勝候補に挙げられていた名古屋校は周囲の期待を裏切る結果となっていたばかりでなく、刹那自身も次の試合に出場できるかわからなくなっていたであろう。


「そう睨むなよ。俺も魔法は使ってない。お前が俺を殴った時と同じことをしただけだぞ」


「……趣味が悪いですね。わざわざ俺にダメージを与えるために、俺と同じ技術を使うとは」


「そこまで悪い性格をしてる自覚はないんだがな。本当に強くなりたいなら、魔法以外のことも身につける。これができないようじゃ、いつまで経っても三流だろ」


 2人が見せた瞬間移動のような動き。これは縮地による移動であった。

 地面を蹴ることなく、膝を抜いて一気に距離を詰める。初動がわかりにくい為、相手が反応する前に自分の間合いに持ち込むことができる。

 ただ、それを瞬間移動ほどのスピードまで昇華したのはセンスと努力があってのものだ。


「認めるよ。俺以外『七元素』のいない準決勝だからって、魔法抜きで勝とうと思ってた。でも、そんなこだわりは捨てないといけないみたいだ」


 この試合始めて、というよりも交流戦が開催されてから始めて刹那の目の色が変わった。

 蒼真達と言い争いをしていた時も、アサルト・ボーダー1回戦で他校の選手達が自分に向かってきた時も、彼は「どうせ『七元素』には手は届かない」とたかを括っていた。

 だが、現に目の前には自分に2度も土をつけ、攻撃を片手で受け止めた男が立っている。それも、全力とはいえずとも自分の打撃を腹に受けた上でだ。


「……名前を聞かせてもらえませんか?」


「名簿は見てないのか?」


「すみません。全部ミドリちゃんに任せていて」


「ハァ……どれだけ他人に……いや、『七元素』以外に興味がないのか。俺は鞍馬崇。盛岡魔法高校2年。チームの大将だ」


「ありがとうございます。俺は雷電刹那です」


「知ってるよ、有名人」


「こういうのは雰囲気が大事じゃないですか」


「悪いな、そう言うのにはちょっと疎いんだ」


 2人は向かい合いながら少しずつ距離を取る。

 縮地は長距離を瞬間的に移動できるような歩法ではない。自分が使う技術であるからこそ、見えてくる弱点、戦術がある。

 だが、武器を1つ封じられたからといって敗北に直結するわけではない。2人とも超一流の魔法使いだ。いくらでも戦法を持っている。

 それに、今までは魔法を使わない攻防だった。ここから始まるのは魔法使いとしての戦いだ。魔法の有無は、戦いにおいて全く別のものになる。


「さぁ、いきますよ」


「どこからでもかかってこいよ」


 今、第2ラウンドの火蓋が切って落とされた。

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