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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
85/101

アサルト・ボーダー③

 アサルト・ボーダー準決勝第1試合。その舞台は——。


「廃都市か……」


 ガラスが割れ、鉄筋が剥き出しとなっているビル群。倒壊した建物は敵からの死角となり、息を殺して潜むスペースはそこいらにある。

 だが、この男にとってはあまり得意と言えるようなステージではなかった。


(自然地形を活かして戦う天狗を、人工物まみれの場所に飛ばすなよ)


 元々妖怪を含む術師は、昔の自然豊かな時代に確立され、術が育まれてきた。それから約2000年経過した今では、発達した文明に合わせて術師のバリエーションも豊富になり、時代に合わせた術のあり方というものも考えられている。

 もちろん、天狗の一族も時代と共に変化してきたが、彼らの術の特性上、自然から完全に離れた進化を遂げることは難しかったのだ。


「まぁ……いいか。全員、よく聞いてくれ。この試合では絶対に無理をしないでくれ。自分よりも強い相手や、大人数に囲まれた時は逃げても構わない。どうせあと1試合残ってるんだ。楽しませてもらおう」


 試合開始直後、崇はチームメンバーにそう告げると、1人でフラフラと前へ歩き出す。

 彼にとって、この試合は重要なものではない。競技の優勝も、蒼真や「七元素」と力を比べ合うこともどうでも良かった。普段から勝利への執念がない男というわけではないが、この交流戦で彼は勝敗よりもはるかに興味のある出来事に遭遇したのだ。

 蒼真と刹那による白雪の奪い合い。崇や和徳の前では感情を曝け出すことのなかった蒼真が、1人の女の子のために「七元素」と争いを起こしている。この状況が、幼い頃から彼らを見てきたもの達にとって面白くないわけがなかった。


(兄、どうするつもりですか?)


(わかってんだろ、和徳)


 双子の弟は、にやけながら聞いてきた。


(せっかく蒼真と同じ競技に出るんやし、大爆笑必至のおもろい展開でも期待してるで)


(なかなかハードル高いな)


 同盟を組む女狐は、やけに楽しそうに笑っていた。

 思いがけない形で争いの中心人物となってしまった当の本人である、蒼真の心情は窺い知ることはできないが、彼が生み出すことになる結末に期待しているのは崇も同じだ。

 蒼真がどのような結果を求めたとしても、崇は受け入れるつもりだ。ただ彼にも、「アサルト・ボーダーを通じた闘争」というストーリーの登場人物としての役割がある。

 崇は彼自身の思い描いたシナリオを遂行するために、強者の気配が待つ方へと歩を進める。


「あら、崇ちゃんじゃない。アナタとは戦わないつもりだったのだけど、どうしましょうか」


「美鳥かよ。戦わないって点では、俺も同じことを考えてた」


 瓦礫を乗り越え、ビルを迂回して、崇がこの試合で始めて出会った敵は美鳥玄之介であった。

 崇にとって、この接敵は意図したものでは無かった。彼の魔力探知機能は普通の魔法使いと大差はなく、ある程度の魔力量がわかる程度で、個人の識別はできない。

 視認できないほどの距離にいながら魔力を読み取り、個人の特定までするという高度な芸当ができるのは、蒼真をはじめとした魔力と魔素を操り、見ることのできる鬼の一族くらいのものだ。


「予定とはちょっと違うが、どうする? 戦ってみるか?」


「残念だけど、止めておくわ。大将同士の戦いでないと、オーディエンスも盛り上がらないでしょ」


「そうかよ。なら、そっちの大将を早く呼んでくれ」


 崇は玄之介の目前で瓦礫の山の上に腰掛ける。全く警戒していないとは言えないが、ある程度の信頼はしている。

 そんな敵同士出会ったにも関わらず、一向に争いが始まろうとしない2人の様子に、中継先の観客達の間には困惑の波が広がる。だが、そんなことは当の本人達にとっては知らぬ話である。


「耳、塞いでいてね。少し大きな音が鳴るから」


 玄之介は崇に背を向けると、腕を大きく広げた。そして、そのまま勢いをつけて手のひらを打ち合わせる。

 拍手の際に生まれた衝撃を魔法で増幅し、パンッと大きな音が競技場に留まらず、遠く離れた観客席にまで鳴り響いた。

 突如の爆音に、何も知らず競技に集中していた選手達にとっては何が何やらわからず、少なからずの動揺をもたらしたのだが、ただ1名にのみ音を発した玄之介の意図は伝わっていた。

 競技中だというのに、リラックスムードが漂う2人の元へまっすぐに向かってくる雷混じりの砂埃が1つ。距離が近くなるにつれて、どんどん加速し、地鳴りのような音が大きく聞こえてくるようになってくる。


「来たわね」


 高速で動く人影は、崇と玄之介のちょうど真ん中で地面を抉りながら急停止した。


「呼んでくれてありがとう、ミドリちゃん。あとは好きにしていいよ」


「そう、じゃあごゆっくり。刹那ちゃん」


 敵の元へ到着した名古屋校大将——雷電刹那はゆっくりとストレッチを開始する。

 それを見ながら、崇も瓦礫の山から立ち上がるとプラプラと手足を振りほぐし始めた。


「もっとちゃんとストレッチした方がいいと思うよ。怪我をされたら、俺も力加減間違えたかなって思わないといけないからさ」


「余計なお世話だ。それに、年下に何されても怪我するようなヤワな体じゃねぇ」


「大した自身だね。あの『無元素』と同じだ。でも大阪校が相手な以上、俺と戦うことは無さそうだけどね」


「あまり未来のことを考えすぎない方がいいぞ。手が滑って、俺が勝っちまうかもしれないぞ」


「そんなこと、あるわけないだろ」


 瞬間移動かと見間違えるほどのスピードで、崇の懐へと踏み込んだ刹那は、強烈なボディブローを叩き込んだ。

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