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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
83/101

追跡

 アキュレイト・シューティング準決勝も着々と進行し、全選手30名のうち半数が競技を終了したところで、修悟は立ち上がった。


「ごめん、ちょっと席を外すね。お手洗いに行ってくるよ」


 それからしばらくして、残る選手が智美と恵のみになった頃、蒼真は遠くから自分に向けられたある視線に気がついた。

 ただ見られているだけならば、彼は気にも留めなかっただろう。だが、蒼真にはこの刺すような視線には身に覚えがあった。

 4月の部活勧誘期間に部室付近の見回りをしていた彼に向けられた謎の人物からのものと一致していたのだ。

 すぐさま魔力を見る能力を発動させ、相手の特定を試みる。

 だか、この競技場にいるのは大小様々な魔力を保持する魔法使い達。それに加えてアキュレイト・シューティングの余波で乱れた魔素の波。

 特定することは困難ではあるが、今蒼真にとって容疑者の特定は鬼の秘密を守るためにも重要なことである。


「悪い、急用ができた」


 彼は友人達に一言告げると、すり鉢状の観客席を駆け上り、競技場を一周できる通路に出た。

 蒼真が感じた視線の発信源は広い競技場の向かい側。競技中で魔法が飛び交う中央部分を飛び越えるわけにもいかず、通路をやや早足で急いだ。

 だが、この半周が大きな時間のロスを産んだ。前回の時も一瞬で姿をくらました相手に逃げられるだけの時間を与えてしまう。

 それでも蒼真は捜索を続ける。2度逃げられたとしても、何らかの手掛かりをみつけておきたいからだ。

 行き交う人の流れ、目線の先、会話の内容。得られる情報を全て脳へ叩き込む。

 そして思い起こすのは、前回と今回での自身の周りの情景。そこからアリバイのある人物を容疑者リストから除外していく。部活勧誘期間に彼の周りにいた魔法系団体の部員達、一緒に観戦していた志乃とリサ、選手として競技場に姿を見せていた恵と智美。加えて、東京校以外の関係者は可能性が低い。

 こうして推理をする蒼真の前に現れたのは、視線の主であって欲しくないと願いながらも、決定的な証拠がなく、未だ容疑者の疑念が晴らせずにいた者だった。


「どうしたの? こんなところまで来て。ここって、みんながいるところからかなり離れてるよね」


「それはこっちのセリフだ、修悟」


「いやぁ、この競技場ってすごい広いでしょ。トイレを探してたんだけど、迷っちゃってさ」


 アハハと少し恥ずかしそうに笑う修悟からは、演技をしている様子は見受けられない。それも蒼真の先入観によるものなのだろうか。

 たびたび性別を間違えられ、穏和で優しい人畜無害な男子高校生。何よりも、4月から共に過ごしてきた大切な友人だ。そんな彼を、蒼真は敵であると決めつけることはできなかった。


「そういえば、さっきまで倉宮君と一緒にいたんだけど……見失っちゃったなぁ」


「倉宮と?」


「そうだよ。迷ってた僕を案内してくれたんだ。……あっ、ほらいたよ。おーい、倉宮君!」


 蒼真の死角となる物陰から、彼の競技におけるサポーターが現れた。

 修悟の声に気がついた鴉蘭は、多くの人混みの中、スルスルとすり抜けるように蒼真達2人の元へ歩み寄ってくる。


「心配したよ、急にいなくなって。でも、結城君と合流できたみたいでよかった」


「ごめんね。これだけ人がたくさんいるから、人の流れに押し流されちゃって。ほら、僕って背が低いから」


「それなら、手でも繋いでいてやろうか?」


「流石に高校生にもなってそれは恥ずかしいよ……」


 こうして会話をしている間にも、蒼真は2人に不審に思われない程度に周囲を観察していた。

 犯人を見つけるにはすでに遅く、絶望的な状況ではあるが、可能性が1%でもある限り彼が警戒を緩めることはない。


「そうだ、結城君。一昨日の試合ですごい活躍だったね。君の補助装置の調整役になれて、僕も鼻が高いよ」


「あれは腕の良いサポーターが高品質の補助装置を作ってくれた賜物だ。感謝している」


「そんな謙遜することないのになぁ。確かに『七元素』がいて、『副元素』がいて、派手な活躍をして、君が目立つようには見えてないかもしれないけど、君は強い。底知れない力がある。そんな君の力を、きっと誰かは見てくれる。そして、評価してくれるはずだよ」


「……そうか」


 蒼真は周りから実力を認められたいわけではない。この血筋が強さの源である魔法社会で、異様な力を持つ者は異様な境遇であることが多い。彼の裏の顔を徹底的に洗い出されれば、鬼の秘密は世に流れ、彼は今のような暮らしはできなくなるだろう。

 昔の蒼真ならば、交流戦のような公の場でチームの主戦力となるような活躍は自らに禁じていた。孤独な彼にできる秘匿の手段はそれくらいのものだった。

 だが、今の蒼真には共に歩き、戦い、寄り添ってくれる仲間がいる。そんな彼らが自分の活躍を願ってくれている。その思いを踏み躙ることができなくなるほど、彼は変わっていた。


「じゃあここからは君にお願いして、僕は席に戻るよ。競技も終わったみたいだし、村崎先輩達を待たせておくわけにもいかないしね」


 話しているうちに最終選手の恵による競技が終わり、パラパラと席を立ち競技場をあとにする観戦者が増え始めた。

 人が競技場から出てしまえば、蒼真に例の視線の主を探す手立てはない。結局、彼は2度目の機会でも犯人の特定には至らなかった。

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