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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編

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 交流戦9日目。

 この日行われるのは1年生の両競技の3位決定戦と、3年生の両競技の準決勝である。

 蒼真は直夜や修悟をはじめとしたいつものメンバーと共に、アキュレイト・シューティングの会場に観戦に来ていた。

 各々の競技やミーティングの時間が重なっていたり、蒼真が呼び出しを受けていたこともあり、意外にもこれが交流会が始まって最初の全員集合となる。


「やっとみんな揃ったわね! もう半分以上も交流戦が終わっちゃったわ!」


「ごめんね。僕が前夜祭の時からここに来れてたら良かったのに」


「謝ることでも無いって、修悟。結局、自分達が競技で勝ち残って、誰かしら競技中だったってこともあるしな」


「そうだね、ありがとう。本当にみんな凄いよ」


 蒼真が参加するアサルト・ボーダーは準決勝を、直夜が参加するシェパード・ボール、澪とリサが参加するポールダウン・ソーサリーは決勝戦を控えている。


「私達はともかく、まさか志乃と白雪もこうして一緒にいられるとは思わなかったわ! 何か作らないとダメなんでしょ!?」


「大丈夫よ。先輩から、今日は休んでいていいって言われてるから」


「私も葛葉会長から許可をもらっています」


 志乃と白雪が参加するウィッチ・クラフトは、交流戦最終日に製作物の発表が行われる。

 この競技で重要なことは魔法や機械に対する知識と技術であるが、それに並ぶのが各々が自分の役割を果たすことである。過去に競技を経験した2年、3年生を中心に未経験の1年生の役割を割り振ることが最適だと言われている。それを見て学んだ1年生が、来年以降先輩としてチームを率いていくのだ。


「……本当に凄いなぁ、みんなは。それに比べて僕は……僕なんかがここにいてもいいのかな……」


 誰もがそれぞれの競技で明確な成果を挙げている中、修悟はただ1人観客席から見ているだけだった。

 自分は「特別」では無い、何の取り柄もない「普通」なのだと言い聞かせても、拭い去れない劣等感。眩しいばかりの光に囲まれてしまうと、その影も黒く濃くなる。

 だが、影を消すのもまた光なのである。


「何言ってるの! 来年はシューゴも一緒に出るの! 私がいっぱい応援するから!」


「……できるのかな、僕に。みんなと違って魔法も上手くないし、体力も無いのに」


「できるさ。人間誰しも、可能性が全くない奴はいない。それに、自分自身ができると信じてやらないことには、できるものもできなくなるぞ」


「リサさん……蒼真……。ありがとう、頑張ってみるよ。それにみんなも、また何かあったら相談してもいいかな?」


 修悟の言葉に皆が頷く。能力や境遇に差があれど、彼らが友人であることに変わりはない。大切な友人に対して遠慮することなど、なにもないのだ。


「さぁ、せっかくみんなで来れたんだもの! 早く観ましょうよ! レイ、解説お願い!」


「仕方ないわね。3年生になってこの競技に参加することになったときに、リサが下手すぎて泣きを見ないためにも解説くらいはしてあげるわ」


「もー、そんなイジワル言わないでよ! 細かいことが苦手なのは事実なんだけど……。で、でも練習するから! シューゴにあんなこと言った後に、私が諦めるようなこと言えないわ! よく見てなさい、レイよりも、シノよりも、誰よりも上手くなってやるんだから!」


 騒々しいリサを後ろから抱える志乃。それを見ながら微笑む澪と白雪。彼女らの姿を蒼真達は後ろから眺めていた。


「何だか自分、安心してるよ。あいつらにこうやって笑える友達ができてさ」


「俺もだ。昔の俺達からしてみれば、考えられないことだからな。悪くない時間だと思う」


 裏社会に身を置き、鍛錬の毎日だった蒼真、直夜、澪。

 強力な能力を身に宿したがために、自分の体ですら満足に動かせなかった白雪。

 昔の幼い彼らに今の景色を伝えればどんな表情をするだろう。未来への希望か、現在への絶望か、それともまた別の感情だろうか。

 どうなったにせよ、彼らには守るべきものが増えたことは確かである。家族、仲間、環境、そして鬼の秘密。

 守るものが増え、鬼は殺気を放つことが少なくなった。任務に忠実だった卯月時代とは違う。これを弱くなった、と捉えるかどうかは人によるだろう。

 だが、鬼の従者達は新たな力を手にしたと感じている。慈愛もまた、強い感情の1つであるのだ。


「何を2人で話してるの? 僕にも聞かせてよ」


「少し昔を振り返っていただけだ。それより修悟、来年の交流戦を目指して特訓するなら、夏休みが明けたくらいに補助装置を調整してやろうか?」


「いいの!? ありがとう! すごく嬉しいよ!」


「それと、今回の交流戦で修悟が強くなるヒントになりそうな選手が何人かいるんだが……」


 友人達と共に過ごす心地よい時間。力を追い求めることをひと時忘れ、穏やかな表情を見せる主人のの姿に直夜は心の底から安堵していた。

 今まで自分が頼っていた相手から離れる努力をしてみると、彼の視野は広がった。自分達を取り巻く環境や、自分の立ち位置。そして、自分や蒼真を頼ろうとしてくれる仲間の存在。

 この時間がいつまでも長く続けば、と直夜は願った。

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