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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
81/101

抽選会

 アサルト・ボーダーの予選が進む裏で、他の競技も着々と決勝戦に向けたせめぎ合いが続けられていた。

 大金星が上がるわけでもなく、下馬評通りの進み具合。強いて言うならば、2年生男子のオブスタクルレース、3年生男子のドッジ・サバイバルで混戦気味になっていることくらいだ。

 しかし、この2つの競技では混戦の意味合いが異なる。有力選手がおらず、誰が勝ち進んでもおかしくないのがオブスタクルレースで、「副元素」が多く出場する中で「無元素」の選手が生き残っているのがドッジ・サバイバルである。

 オブスタクルレースでは、既に準決勝を終えて東京校の選手は1人しか残らなかったが、ドッジ・サバイバルは交流戦9日目の準決勝を前にして、90人中9人生き残っているという有力候補に躍り出た。

 また、1年生の両競技では準決勝が終了し、残すところは3位決定戦と決勝戦のみである。決勝戦では、一対一の勝負となるような組み合わせで設定されたトーナメント方式で行われているアサルト・ボーダー、シェパード・ボール、ポールダウン・ソーサリーには準決勝で敗北したとしても、3位決定戦が用意されている。交流戦の総合優勝に関わる順位ごとのポイントは第5位まで割り振られているため、各競技では優勝に手が届かなかったとしても学校への貢献を考えると、ここでも手は抜けない。

 その1年生の競技であるが、どちらも東京校は決勝戦に進出し、そこでの対戦カードはシェパード・ボールで東京校対名古屋校、ポールダウン・ソーサリーで東京校対京都校となった。

 そして残る2つの競技のうちの1つ、アキュレイト・シューティングは交流戦4日目の予選で180人から60人にまで減った選手がさらに半分の30人にまで減らされていた。交流戦9日目には、ここから10人にまで減り、決勝戦を迎えることとなる。東京校では恵、智美をはじめとした4人が残っているが、これ以上勝ち進める可能性があるのは恵と智美の2人だけだった。

 もう1つ残るスピード・ボードは、この交流戦8日目に行われているアサルト・ボーダー予選第5、6試合の裏で行われ、香織達を含む2チームが決勝戦に進出した。

 そのアサルト・ボーダーの予選であるが、予定されていた時間を大幅に短縮する結果で終了した。

 勝利したのはどちらも「七元素」が率いる名古屋校と大阪校。その注目度から、島内には留まらず日本全土に中継された試合だったが、誰もが「七元素」の実力に絶句することとなった。まさに圧倒的。立ち塞がる者を難なく跳ね除け、我が物顔で道を切り開く。一体この2校のどちらが優勝を手にするのか、と言う話題でもちきりである。

 ある一部を除いて。


「蒼真、お前はどっちと戦いたい?」


「別にどこが相手でも、やることは変わらないですよ。人殺しが禁じられた、ただのゲームですから」


「そういう言い方はやめとけ。平和に事が進むなら、それに越したことはないだろ」


 蒼真と崇が並んで座り、眺めていたのはアサルト・ボーダー準決勝の対戦カードを決める抽選だ。

 予選を勝ち抜けた6校の代表者が中身の見えない白い箱に手を入れてくじを引いていく。


「……こんなところで話していていいんですか? 崇さんって、一応盛岡校の大将ですよね」


「大丈夫大丈夫。ほら、俺ってまだ2年生な訳だしな。こういう時くらいは先輩を立てておくのも悪くないだろ」


「そこまで気を使う必要もないでしょうに……」


 そうこうしているうちに、各校の代表者6名全員がくじを引き終わり、係員に手渡された。

 そして数秒後、空中に勝ち進んだ6校の校章が浮かび上がった。

 昨年度優勝校にして、鬼が潜む東京校。

 雷の「七元素」雷電刹那が率いる名古屋校。

 土の「七元素」土岐岳が率いる大阪校。

 天狗が操るダークホース、盛岡校。

 東京校に次ぐ「副元素」の宝庫、横浜校。

 金城鉄壁、熊本校。

 6つの校章は回転し、1点に集まると、白く輝きながら2つの塊に別れていく。そこから線が伸びてトーナメント表を形作っていく。


「演出するのはいいが、さっさと発表してくれないもんかな」


「そうねぇ、ちょーっと野暮ったいわねぇ。でも、こんな焦らしプレイも嫌いじゃないわ!」


「……誰だお前!?」


 退屈そうに頬杖をつく崇の横に、音もなく滑り込んできていた丸坊主の学生が彼の独り言に相槌をうつ。

 あまりに自然に入り込んできたためか、和徳の反応も一瞬遅れたほどだ。


「対戦することになるかもしれないしねぇ……アタシは名古屋魔法高校の1年生、美鳥玄之介(みどりげんのすけ)よ。刹那ちゃんの相方と言えばわかりやすいかしら。よろしくね、お2人さん」


「玄之介でハゲでオカマかよ……。属性盛りすぎじゃねぇのかよ」


「聞こえてるわよ」


 崇の小さな呟きにも耳聡く聞きつけると、玄之介は彼を睨みつけた。


「アタシをオカマなんて括りに入れないでもらえる? 男の体で男が好きだとか、女の体で女が好きだとかそういうのじゃないのよ。アタシはアタシらしく、全ての人に愛を届けるの。それに、この頭はアタシらしさの象徴よ。悪くいうのはやめてちょうだい」


「わかったから身を乗り出すのはよせよ、玄之介。暑苦しい」


「ミドリちゃんって呼んで。アタシの名前だけど、玄之介はちょっと可愛くないわ」


「……そろそろ抽選結果が出るみたいですよ」


 崇、玄之介とは目線を合わせず、他人のふりを続けていた蒼真だったが、結果発表直前となって2人を現実に引き戻す。

 多数のギャラリーの前で浮かぶ、準決勝の組み合わせを伝える空中ディスプレイの白い光がさらに増すと、その光の下から6つの校章がトーナメント表の下に現れた。


「へぇ……うまい具合に別れたもんだな」


「片方としか戦えないのは残念ね」


「……」


 準決勝第1試合。名古屋校対盛岡校対熊本校。

 準決勝第2試合。東京校対大阪校対横浜校。

 大注目の「七元素」同士の対戦は準決勝では叶わず、観客の中からは早くも決勝戦の話をしだす者まで現れた。


「あらあら、気が早いことね。正直、アタシとしては蒼真ちゃんや一彦ちゃんと戦いたかったのだけど。蒼真ちゃん、大阪の岳ちゃんに勝ってきてくれる?」


「気が早いのはお前もだろう。目の前に準決勝の相手がいるんだぞ」


「わかってるわ。でも、きっとアタシと崇ちゃんは戦えないわ。崇ちゃんは刹那ちゃんの相手をすることになるでしょうから」


「……」


 背中を向け、去っていく玄之介に崇は声をかけなかった。

 彼が考えていたのは、今後の方針。蒼真と刹那の問題をうまく終わらせるためには、準決勝の結果が関わってくる。

 この男、口が悪く派手な見た目をしているが、なかなかのお節介焼きなのであった。

新登場人物紹介

・美鳥玄之介ー名古屋魔法高校1年生。アサルト・ボーダーに出場。

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