表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
79/101

火と風

 交流戦6日目。

 この日から、交流戦の目玉競技であるアサルト・ボーダーの予選がとうとう始まる。3校ずつ争われる予選計6試合が3日にわたって行われる。蒼真達東京校チームは、予選2日目に試合が予定されている。

 試合を翌日に控えたサポーターを含めたチームメンバー全員が会議室に集まっていた。試合に向けたミーティングのためである。

 また、同時に今行われている予選の様子は中継映像としてリアルタイムで確認できるよう用意は万端だ。


「明日、俺達が戦うことになるのは札幌校と神戸校だ。どちらも『副元素』が1人づつメンバー入りしている。この選手を中心にした戦法をとってくるだろ。だが、練習通りにやれば勝機は大いにあるだろう。ここまでで、何か質問はあるか?」


 相手チームのメンバー表を見ながら、一彦は確認をとった。


「……1つだけ確認させてください」


「どうした、不知火」


 軽く挙手をし、炎珠は立ち上がった。その手に握られているのは、東京校のメンバー表であった。


「なぜこいつが……結城が副将なんですか! 1年で……それに『無元素』のこいつが!」


 大将・赤木一彦の次の欄に書かれていたのは、副将として登録された蒼真の名前だった。

 アサルト・ボーダーの勝敗は、ほとんどの場合敵の大将を戦闘不能にするか、占拠したポイントの数により決められる。

 ただし、制限時間内に大将を倒しきれず占拠した数も並んでいたならば、副将の状態も審査の一因となってくる。

 予選では3チームによる乱戦となるこの競技で、副将のレベルは戦術において重要となる。


「夏休み前の練習の期間でも散々言っただろう。俺が能力や性格、競技における役割を果たせるかどうか考えて決めた、と」


 不満顔で抗議する炎珠を正面から見据え、一彦は淡々と述べた。このやりとり自体、何度も繰り返されてきたもので、他のメンバーも炎珠を今更止めようともしない。


「赤木先輩が独断で任命するのは、少し自分勝手だと思いますよ! 先輩達も何か思わないんですか!? ポッと出の1年に副将の座が取られているんですよ!」


 いつもならば一彦のひと言で不満ながらも引く炎珠だったが、今日は違った。彼の矛先は、一彦の決断を受け入れている他の上級生にまで向けられたのだ。


「特に、風前(かざまえ)先輩は赤木先輩が勝手に決めたことに、何で何も言わないんですか!」


 中でも炎珠の怒りが強く向けられたのは、一彦と同じ3年生であり、風の「副元素」である風前遥人(はると)だった。

 風紀委員に所属している彼は、本来ならば風紀委員長になっていてもおかしくない人物だった。入学直後からその実力を認められて、智美と共に風紀委員入りし、追加招集組の誠志郎ともうまく関係を築いていた。

 当然、風紀委員長にも推薦されており、智美とどちらが委員長になるのかと学校中の噂になっていたほどだ。

 しかし、彼は自分から辞退する道を選んだ。

 そのことを知った炎珠からしてみれば、実力があるにも関わらず前へ出ようとしないその姿勢が奇妙なものに思えたことだろう。


「何で、って言われてもなぁ……。赤木君が決めたことだしね、僕からいろいろ口を出す必要はないでしょ。ちゃんと結果さえ出しておけば、役割が納得いかないなんて文句は言われないよ」


「なんですか、それ。それでも『副元素』ですか!」


「残念だけど不知火君、これが僕だよ。君が派手な魔法が得意な火の『副元素』で、自分の力を見せつけたいってことは、練習の間によく見せてもらったよ。でも、そのやり方は僕には合わないな。それに、君もわかってるんじゃない? 結城君はなかなか良い魔法使いだってこと」


「っ……それは……」


 炎珠は遥人の言葉に何も言い返すことができなかった。4月の事件での蒼真の活躍を耳にし、競技の練習では実際にその力を目の当たりにした。

 炎珠も「副元素」の一員であり、魔法使いを見る目は悪くない。だからこそ、蒼真がそんじょそこらの魔法使いとは少し違うことには気がついていた。

 わかっているからこそ、気に入らない。彼のプライドが許さないのだ。


「いいかい、不知火君。僕達『副元素』に求められているのは、結果だよ。何のために『七元素』や『副元素』の制度があるのか考えてごらん? 僕達が結果を残せない有象無象なら、きっとこの国には『七元素』しか魔法使いは残っていないよ」


 穏やかな物腰ではあるが、その柔らかな言葉の中には芯が通っている。彼もまた、「副元素」の1人。自覚と信念を持つ魔法使いなのである。


「もうこの辺でこの話は終わりにしようか。2年生からも何か意見はある?」


「「ありません」」


 蒼真、炎珠、一彦、遥人の他にもアサルト・ボーダーの選手が2人いる。2年生の風紀委員、岡林翔(おかばやしかける)と、通称「トレーニングルームの主」増留剛(ますどめごう)だ。

 東京校の2年生には「副元素」はおらず、1人で十分な戦力となるほどの人材を揃えることはできない。

 そこで一彦と誠志郎が選んだのは、個性を滅してチームプレイに徹することのできる翔と、防御力に比較的長けた剛だった。


「では、練習でのフォーメーションと戦略の問題点でも考えていこう」


 机の上に広げられたマップと、その上に置かれた駒。駒を適宜動かしながら、東京校チームの作戦会議は続く。

 一方、会議室に流れる中継映像の中では、和徳が率いる盛岡校が予選を突破していた。

新登場人物紹介

・風前遥人ー東京魔法高校3年生。風紀委員会所属。風の「副元素」。

・岡林翔ー東京魔法高校2年生。風紀委員会所属。

・増留剛ー東京魔法高校2年生。三隅佳孝の先輩。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ