三妖
交流戦も4日目が終わり、各学年男女の競技はそれぞれ1回戦が終了した。
迎えたこの5日目は、初戦の疲れを癒す休憩日として指定されており、競技は予定されていない。
翌日以降の試合に向けたミーティングを行うチームや、トレーニングを行う学生、普段訪れることのできない島を探索する学生など、過ごし方は人それぞれだ。中でも、既に1回戦で敗退してしまった学生は他校の学生との交流を計っているものもいるほどである。
そんな中で蒼真はというと、宿舎内のある一室を白雪と共に訪れていた。
「すみません、遅れました」
「遅刻やで、最年少。先輩に敬意を表してある程度早く来るとかしとるやろ、普通」
蒼真達を待っていたのは鞍馬兄弟、稲荷、そして稲荷の部下の真凛だった。
「悪いとは思ってますけど、俺の事情もわかってもらいたい。あの会長に会ったらどれだけ拘束されるか……」
「じゃあ、入試の時にでも手抜きしとけばよかったじゃねえかよ。そうしたら、生徒会にスカウトされることもなかっただろ?」
「手は抜いたつもりなんですけどね……」
蒼真は後ろ手で入ってきたドアに鍵をかけると、部屋の中心に置かれた円形の机の空いている席に白雪と並んで座った。鬼、妖狐、天狗の3勢力がそれぞれ視野に入る位置だ。
「葛葉さん、この部屋を用意したのはあなたと聞いていますが、盗聴などの危険は?」
「ちゃんと結界張ってるから、心配せんで大丈夫やで。それに、自衛隊内にも組合の術師が何人か紛れ込んでるからなぁ、案外簡単に準備できたわ」
「まぁ、あんたがそう言うなら少々踏み入った話をしてもいいってことだよな」
そう言うと、崇は蒼真に向き直る。この場を設けてまで共有したかったのは、蒼真が持つ情報である。
「話してくれ、蒼真。今、お前の周りで何が起こっている?」
「俺もまだ全容が把握できてるわけではないです。ただ、とてつもなく大きな何かが始まり、巻き込まれつつあることだけはわかります」
蒼真が思い浮かべていたのは、暁月を味方に引き入れた夜に現れた情報屋の姿。
全てを知り、「王」の誕生を待ち侘びる異能者。
初めて会った日から、結城家の総力を上げて情報屋について調べているものの、手がかり1つとして手に入れることができていない。
「情報屋が言うところの『王戦』……『王』とやらになるためには、『王の素質』が必要と聞きましたが、これが一体何なのかはわかりません」
「なんや、わからんことだらけやな。とりあえず、その『王の素質』を持ってるやつをしばいといたらええんか?」
「どうやって見つけるんです? 最低でも、蒼真君ともう1人の『王戦』関係者がいないと、『王の素質』の共通項が見つけられませんよ」
「共通項があればいいけどな。それに、相手が協力的とも限らんだろ。本気で『王』になろうとしてるかも知れねぇ」
術師界のトップレベルの人間が集まっても、解決の兆しは見られない。それほどまでに、情報屋の謎は深く、彼らが持つ情報は少ない。
限られた知識では、結論を出すことは難しい。
「ただ、日本国内に俺以外の王候補があと2人いるのは確かです。誰かまではわかりませんが、相当の力を持つ魔法使い、もしくは術師となればある程度候補が絞れるかと」
「そうは言うてもなぁ。その条件で言うたら、うちらか京都の色ボケ陰陽師と『七元素』くらいやないか。『七元素』がうちらに協力なんかせんやろ」
「こればっかりは、術師側に1人でも王候補がいるのを期待するしかないか。……それで、蒼真はどうするつもりだ? 『王』になるのか?」
崇の問いかけは、この場の誰もが抱いていたものだ。謎ばかりある「王戦」に現在わかっている中では唯一参加する資格がある蒼真が、どういった選択をするのか。彼の選択によっては、今後の方針も変わってくるだろう。
「俺は……今は『王戦』自体に興味はありません。『王』になることがどんなことなのかもわからない中で、目指す気にはなれませんよ。俺は、この鬼の力と仲間が守れたならそれでいい」
蒼真はチラリと横目で白雪を見た。彼の周りには白雪をはじめとした古くからの仲間達、そして新しくできた仲間達がいる。
裏社会に身を置き、血みどろの世界を目にしていたとしても、仲間の存在は彼にとって大切なものだった。
「……そうか。まぁ、気が変わったらいつでも言ってくれ。『王』にでもなんでも持ち上げてやるから」
「同盟相手ですからね。兄と共にサポートしますよ」
「まだ何もわからんし、協力はしとく。あの陰陽師を王さんにするよりはええしな」
遥か昔、京の地で争い合った妖怪達が、時を経て同じ問題に対して手を取り合う仲になるとは、当時の人々は未来視でもしない限り思いもしなかっただろう。
三大妖怪とその傘下による一大勢力が、魔法使い達の知らないところで築かれていた。




