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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
77/101

アキュレイト・シューティング

『東京魔法高等学校、光阪恵選手。1分間の試技を開始します』


 会場に流れるアナウンス。アキュレイト・シューティングでは、競技本番に入る前に選手1人1人に試技の時間が与えられる。

 交流戦前まで各校で練習して来た学生達も、この会場で実際に競技を行うのは初めてである。練習の成果を存分に発揮するためにも、自分の感覚と会場の雰囲気を合致させる必要があった。

 試技と本番のどちらにしても、選手の集中の邪魔にならないように、競技中は観客は黙っておくのがマナーであるが、恵の試技の時間では抑えきれないざわめきが観客席から漏れ出していた。

 それもそのはずで、今年の交流戦で最も注目されている選手の1人である彼女が異様な行動を見せていたからである。


「……蒼真、あの人何してるんだ?」


 両手に持つ2丁の拳銃型補助装置を持ち、地面と平行になるまで腕を上げたまま、トリガーを引くこともなく、立ち尽くす恵の姿がそこにはあった。

 そんな彼女の行動に疑問を感じた直夜が、傍らにいる蒼真に問いかける。

 この日の蒼真は厄介な先輩に問答無用で連れ回されることもなく、同級生達と観戦に来ることができていた。


「距離感を測っているだけだろうな。的の射出位置も前の選手の様子を見ていたら、大まかにはわかる。それに、会長なら的がどれほど速く動いても撃ち抜くのは簡単だろう。あと1つ理由があるとすれば、『目立つから』とか思っているんじゃあないか?」


「コーサカ会長って、そんなに変な人なの!? シノも生徒会で話したりして、会長のこといろいろ知ってる?」


「変な人ってわけじゃないよ……多分。ただ、楽しいことが好きな人ではあるかもね」


 1分間はあっという間に過ぎ、結局恵は1回も魔法を発動することなく試技を終えた。

 その表情は試技前と変わることなく、それどころか笑みすら浮かべている。必死に特訓して来たものの、良い結果が出せなかった選手からすれば、苛立ちを覚えさせられるほどの余裕の表情だ。

 恵は別に他の選手達を煽りたいわけではない。ただ実力に差がありすぎるだけなのである。脳内で完全なシミュレーションをし、それを完璧に実行できるだけの能力があれば、わざわざ魔法を乱発する必要はない。実力者であればあるほど、今の恵の行動に怒りなどの負の感情を抱く者はいなかった。


「始まるぞ。今度は撃つからな、よく見ておいた方がいい。魔法を制御することの勉強になると思う」


 蒼真が見てきた中で、魔法制御の面に関して言えば、恵は上位の実力者に分類されている。彼の「守護者」である澪も高い制御能力を有しているが、恵はそれを上回る。

 蒼真はそこにいる全員に言う形をとったが、彼の本心での言葉は澪に更なるレベルアップを促すものであった。


『これより最終競技者、光阪恵選手によるアキュレイト・シューティング予選を開始します』


 アナウンスと共に響き渡るブザー音。この音が鳴り止むと同時に、複数の的が左右から発射された。

 恵は試技の時間と同じように腕を伸ばして拳銃を構えると、両手でトリガーを引いた。

 銃口から放たれたのは、2色の光の筋。右手の銃からは光属性魔法「光の矢(ライトアロー)」の白い光。左手の銃からは火属性魔法「火炎流弾」の赤い光。

 2色の光を美しく、そして楽しそうに操る恵の姿は、天使か神か、この世の理から外れた者のようにも見えた。


「凄い……『七元素』とはいえ、自分の本来の属性以外の魔法まであのレベルまで磨き上げてるなんて……まるで蒼真みたい……」


「あの調子だと、今使っている属性以外もそのうち使ってくるだろうな。まさか魔法スキルの伸ばし方がこんなにも似ているとは思ってもみなかった。俺と会長ではこの選択をした事情は違うだろうが、どれだけ大変なことかはわかる。やはり、あの人は他の『七元素』とは何か違うのかもしれないな」


 蒼真は間違いなく「天才」と呼ばれる側の才能を持つ魔法使いであるが、全属性の魔法を自分のものにするまでには血の滲むような努力と年月が必要だった。

 これは得意な属性を鍛えるよりも非効率であるし、努力がそのまま報われる保証のあるものでもない。現に、名のある魔法使いは全ての属性を鍛えるよりも、自分の属性を鍛え上げることを優先している。他の属性を鍛えるのは、自らの魔法を洗練しきってからだと順序づけているのである。

 難しい道のりではあったが、それでも蒼真が続けてこられたのは、結城家に伝わる鬼の力があったからであろう。

 だが、恵は「七元素」の血という武器があるものの、蒼真ほど異質な能力を持っているわけでは無い。彼女が多彩な魔法を操る魔法使いになるためには、蒼真以上に努力しなければならなかった。

 それでも恵は成し遂げた。蒼真は彼女の決して他人には見せない辛さやうまくいかない苦しさまで感じ取っていた。


「ほら見て! 会長が何かするみたい!」


 恵は両手に持つ拳銃型補助装置の弾倉部分を取り外していた。

 そして腰に装着していた別の弾倉に素早く入れ替えた。

 彼女が使用している拳銃型補助装置の本体ともいえる重要な部分は、この弾倉である。弾倉を入れ替えることにより、全く別の補助装置として作用するようになる。

 再び恵は拳銃を構えてトリガーを引く。今度は光は出ず、本来の銃のように無数の弾が銃口から飛び出した。

 右手の銃からは水属性魔法「氷雹(ヘイルストーン)」。左手の銃からは土属性魔法「石礫(グラベル)」。

 どちらの魔法も発動時には派手さはないが、礫が的に当たるとパンッと音を立てて砕く。

 的の破片はキラキラと照明の光に照らされながら地面に落ち、恵の競技が終わる頃には、小さな山となっていた。

 合計4種類の魔法を使いながらも、恵が撃ち漏らした的は無い。その圧倒的な実力を示して彼女は予選を悠々と突破した。

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