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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
76/101

潜む影

 交流戦4日目。

 この日行われる競技は1つのみ。3年生女子の予選である。

 例年の交流戦では、全学年混合の種目を除く競技が、1年生から3年生まで順番に予選が行われていくのだが、男女の競技はその年によって変わる。要は注目度の差である。

 今年の目玉は「黄金世代」の登場と、「七元素」光阪恵の最後の交流戦での姿であった。そのため、初日は1年生男子から始まり、満を持して3年生女子の競技が始まる。

 彼女達が行う競技の名は「アキュレイト・シューティング」。

 戦いの場は、銃型や弓型など自由な型の補助装置を手にした選手の前に示された立方体状の空間。

 この空間内に投射される的を魔法で撃ち抜く競技である。

 初戦であるこの予選では、空間の広さは10メートル四方であるが、競技が進むにつれて空間が拡大する。最終的な決勝戦では50メートル四方にまで広がり、なおかつ的を撃ち抜く際にもルールが追加される。

 的の中心を正確に射抜くほど獲得できる点数は高くなり、点数となる的に減点になる的が混ぜられる。

 広範囲の的を把握しつつ、それぞれの的を撃ちながら的の選別を行わなければならないという、ただならぬ集中と技術が必要となる。

 使用する魔法に制限はないが、中心を射抜くことが求められるこのルールでは、的を砕くことに特化した範囲魔法は的の端に当たる判定になるためスコアは伸びづらい。中心を狙うのならば、より範囲を絞った線状の魔法が好ましいのである。

 こういった細やかな魔法制御は恵の得意とするところであった。


「やっと私達の出番ね。みんなの頑張りを見てるだけっていうのも楽じゃないもの。私も早く出たくてウズウズしちゃった。なのに、私の出番が1番最後っていうのはね……。まだ待たされちゃうの? って思っちゃう」


「そう言わないの、『七元素』なんだから最後で凄い成績を期待されてるのよ。でも、恵が張り切っているのはよくわかるわ。それに、これから何をするのかもね」


 智美はライフル型の補助装置を抱えて微笑む。

 彼女の目に映るのは、後輩達に触発されて予選の段階から全力を出して観客を楽しませようとする幼馴染の姿だ。恵の実力ならば彼女に対抗できるような同学年の魔法使いはおらず、ある程度真面目に取り組むだけで上位入賞は間違いない。だか、それでは面白みがない。

 対抗馬がいないのならば、競技を楽しみ尽くして勝つ。その心意気が恵の両手に握られた2丁の拳銃型補助装置に込められていた。

 一般の魔法使いならば、補助装置は基本的に1つだけ持って運用する。

 同時に複数の魔法を発動することは難しく、それが異なる属性の魔法ともなればさらに難易度が上がる。

 普通の魔法使いにとっては、複数の補助装置など、ただの飾りにしかならないのだ。だが、光阪恵は飾りでは終わらないだけの技術を有している。


「ただ満点を取るだけなんて、つまらないでしょ。ほら、私エンターテイナーだから」


「初めて聞いたわよ、そんなの」


 2人に緊張の色はない。彼女達の実力からすれば、予選などあってないようなものだ。


「ほら行くわよ、エンターテイナー。みんなを楽しませてらっしゃ」


「はいはい、っと——っ!?」


 ただならぬ視線を感じた恵はすぐ後ろを振り返った。

 だが、そこには誰もいない。選手達が並ぶ列の最後尾で出番を待っていた彼女達の後ろに人がいるはずはないのだ。

 けれども、確かにそこに何かがいる。恵の直感はそう語っていた。


「どうしたの? 何かトラブルでもあった?」


「……大丈夫よ。何も問題ないわ。さぁ、行きましょ!」


 今の違和感もきっと気のせいだと自分に言い聞かせて、恵は会場へと向かう。

 ここは「七元素」火村家の管轄内であり、自衛隊施設となっている逢羅成島。普通の人間が立ち入れる場所ではない。

 そう、普通の人間ならば。


「……まさか気づかれるとは思ってもみませんでしたよ。流石は日本が誇る魔法使いの一族といったところでしょうか」


 何もない空間から姿を現したのは、小学生くらいの少年だ。

 だが、この人物にとって容姿などはいくらでも変えられる。


「日本の王候補達の様子を見に来たつもりが、なかなか興味深いことになっていますね。今回の王戦は激しく良いものになりそうです」


 人とは異なる理に生きるこの目には一体何が見えているのだろうか。

 そんな今は少年の姿をした異形の者に、近づく影が1つ。


「久しぶり、情報屋」


「お久しぶりです、——の王よ」


 今はまだ準備段階にある王戦であるが、世界の裏側では、王候補達が蠢き、情報屋が暗躍し開戦のその時を待っている。

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