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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
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ドッジ・サバイバル①

 スピード・ボード予選で水柱が現れた際に鳴り響いた轟音は、同時刻に行われていた3年生男子の競技会場まで聞こえてきていた。


「あっちは激しいレースになってそうだね。うちの学校の生徒会は活気盛んだよ、まったく」


「おい、その生徒会には俺も含まれてるんだが?」


「わかってる。だから言ったのさ」


「先輩達、仲が良さそうですね」


 競技を観戦している男子生徒が3人。一彦と蓮治が学校内で一緒にいることはしばしば目にする学生もいるが、そこへ鴉蘭が加わっている珍しい組み合わせだった。


「で、うちの選手は何人落ちた?」


「まだ1人だけだね。今年も東京校の選手は優秀だよ」


 この予選では、各校10名ずつの出場選手計180名が1つのフィールドに降り立ち、残り人数が半分の90名になるまで争い合う。

 この競技の名は「ドッジ・サバイバル」。

 胸と背中に付けた2枚のポインターの両方を専用の弾でヒットされた時点で脱落となる、生き残り型の競技だ。

 ドッジ・サバイバルは、アサルト・ボーダーと同じように肉体の接触が認められている競技ではあるが、使用する魔法については魔法庁の魔法リストに基づいて制限されている。

 これはどの競技でもいえることではあるが、未来ある高校生に重大な怪我を負わせるリスクを考えると、運営側もそうせざるを得ない。


「選手はどこの学校も、『副元素』を除けばレベルはそう変わらん。優秀なのは、バックについているサポーターだろ」


「そう言ってもらえると、補助装置を調整した側としても嬉しいよ」


 この競技に出場する東京校の選手の補助装置には、全てに蓮治の手が入っている。手先の器用さや、補助装置に関する知識の量では、彼の右に出るものはいないだろう。

 そんな彼の手がけた補助装置は、1人1人の特性に合わせて最初から作り出されている。

 同じことを蒼真もできるが、それは彼が持つ特別な能力を使った上でのことだ。しかも、蓮治は特別な能力を持たずとも蒼真よりも早く補助装置の調整をこなしてみせる。もし、蒼真がドッジ・サバイバルの選手10人の補助装置の調整を受け持っていたならば、交流戦に間に合ったかはわからない。


「今年は倉宮君にも手伝ってもらったからね。去年よりもずっと性能は上がってるはずだよ」


「そんな、僕は大したことはやってません。ほとんど全部村崎先輩が仕上げていたじゃないですか」


「そんなことないよ。倉宮君の手助けがあったから、完成まで漕ぎ着けられたんだ。ありがとう」


「……今年の1年は、必要以上に謙虚なやつばかりだな」


 仕事を成し遂げたにも関わらず、自分はまだまだだと言い張る鴉蘭を見て、一彦は生徒会の後輩を思い浮かべていた。

 4月の事件のときには、いち早く校内に現れた式に対処し、敵のリーダーである暁月を取り押さえたのが蒼真であった。

 また、校外へ被害が出なかったのも彼が恵と協力していたからである。

 事件が終わってひと段落ついた頃、一彦は当時のことについて蒼真と話したことがある。だが、彼は「運が良かった」や「先輩のおかげで」など自分の実力など、ありふれたものであるかのように述べていた。

 実際のところ、蒼真の実力を知らないものにとって、彼はただの「無元素」である。

 しかし、一彦は蒼真の力の一端を目にしている。少なくとも「無元素」のくくりで分けられるものではないと、確信している。

 だからこそ、蒼真の力を大勢にも見える形で表現できる機会を待っていた。

 そこで今回の交流戦だ。相手は「七元素」。簡単な相手ではない。手も足も出ずに負けるのならば、それまでの魔法使いだったと諦めるしかない。だが一彦は、なぜか蒼真ならば何かを見せてくれるという予感がしてならなかった。


「1年生だけじゃなくて、君や原田君も大概だと思うけどね。魔法高校の2大組織のナンバー2っていうと聞こえはいいけど、その席より上にいてもおかしくない人だよ、君達は」


「……それはどうなんだろうな」


 3人の視線の先には、競技の予選突破を目指して団結する東京校チームがいた。

 周りの対戦相手がとる行動に対して、逐一指示を出しているのが誠志郎だ。彼の指示のおかげもあって、全選手数が4分の3にまで減った中で、東京校は1人しか脱落していない。総合優勝の最大候補である東京校は、どの競技でも他校からの警戒が強い。複数校で一時的に共闘して、東京校から潰すなどの噂が聞こえてくるほどである。

 そんな中で誠志郎は、チームで協力してうまく相手の魔法を捌き続けた。中には「副元素」からの攻撃もあったが、陣形の維持をし続けられている。

 そんな芸当ができるのは、彼が特別な能力を持つからだろうと何も知らない者は言う。それは大間違いである。

 彼は魔法使いとしての才能はほとんどない。緻密な魔法を構成できないし、破壊力のある魔法などもってのほかである。彼にできるのは、魔法高校に入学し単位を取得して卒業するためだけの魔法。

 そんな彼が3年生になってもA組に在籍できているのは、座学の成績と風紀委員としての功績である。

 校内で学生間のトラブルが起こりそうになったときには、ほとんどの場合で風紀委員がそこにいる。事件を未然に防ぐことにも、誠志郎は一役買っている。

 彼は何も持たないからこそ、他人の動きを見続けた。そして確かな人を見る目を培ったのである。

 誠志郎を慕う者は生徒会で表立って働く者達ほどはいないが、一定数いる。特に風紀委員、中でも追加で選ばれた者達は彼を強く慕っている。それは、誠志郎が彼らの能力を見出して選出していたからである。

 風紀委員長である智美は、恵と共に育ってきたからこその魔法使いとしての強みがある一方で、基準点が恵に固定されているせいで、他者に求めるレベルが一般人とはズレている。それを彼女は自覚していることに加え、誠志郎が挙げる筋の通った理屈を認められるため、彼の考えを尊重している。

 また、智美は人の前に立ち、その背中で皆を引っ張り上げることのできるタイプであるが、同じ目線でまとめ上げることは苦手である。誠志郎はその逆のタイプであり、お互いがお互いを補い合うことで風紀委員はうまく運営できているのである。

 そんな実力者達からも認められるだけの努力を積んできた誠志郎が率いる東京校は、残り9人であった状態から悪化することなく、ドッジ・サバイバル予選を無事に通過した。

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