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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
72/101

女の時間

 2日目の競技も終わり、1年生は男女共に予選突破を果たした陰では、想定よりも苦戦している競技もあった。


「……半分も残らなかったらしいわね」


「仕方ないとは思いますけどねぇ。競技の特性上、飛び抜けた実力者がいない限りは誰が勝ってもおかしくないですしぃ。運が無かったんですかねぇ」


「アタシからしてみたら、不甲斐ないとしか言えないけどな」


 ここは宿舎の大浴場。

 恵、いろは、香織の3人は今日の2年生男子の競技——「オブスタクルレース」の結果について話していた。

 各校10人が出場する個人戦で、レースごとに都市エリアや山間エリアなどのコースが決まり、障害物の設置してあるコースを早くゴールした学生が勝利する。

 ただ、魔法使いの障害物競走であるため、単なる障害など用意はされていない。ここでも、魔法使いとしての力量が問われ、決勝に向かうにつれてその難易度は上がっていく。

 この競技に関わらず、2年生以上の競技は大人数で行う団体戦ではない。

 2年生女子のみが3人1組のチームを組む競技であるが、共通していることはたった1つの高校が表彰台を独占することも可能であるということだ。

 5位までに入賞すれば、総合優勝に関わるポイントが手に入り、さらに5人全員が同一校の学生ならば、他校に対して大きなアドバンテージを取ることができる。

 だが、オブスタクルレースにおいてはその未来を掴むのは難しいようだ。


「10レースあって、予選を通過したのが4人。しかも、1位通過は1人だけねぇ。直接私が見に行けたわけじゃないし、通過タイムを聞いただけだけど、この競技で他校をリードするのは難しそうね……」


「何を沈んだ顔してるのよ、恵。あなたらしくもない」


「智美……」


 湯船に浸かっていた恵の横に智美が入る。

 恵、智美の2人といろは、香織が向かい合う位置だ。


「ふぅ……恵の代わりにオブスタクルレースの予選を全部見ていたからかしら? なんだか肩が凝っちゃって」


「肩が凝るのは、また別の理由がありそうですけどねぇ。ご立派なものをお持ちのようですからぁ」


「アンタが言える義理じゃないだろ。付くとこには付いてるんだから」


「太ってるって言いたいんですかぁ? いくら私でも、それ以上は怒りますからねぇ」


「そうじゃないって、落ち着いて落ち着いて」


 智美の何気ない言葉から始まった後輩達の言い合いを聞きながら、恵は胸に手を当てた。


「香織さんはいっつもそうじゃないですかぁ。自分は好き勝手に過ごしてるくせに、私がちょっと香織さんに何かしたら、過剰に反応してきますしぃ。貧乳ですしぃ」


「——ウッ」


「待って、いろは! 私に言うのは別に良いけど、流れ弾が飛んでってる!」


「……だ、大丈夫よ、2人共……私はむ、胸のことなんて、気にしてないわ……」


「致命傷じゃないの」


 2年生幼馴染組の争いは、罪なき生徒会長の心を抉り、幕を閉じた。


「ほ、ほら、会長も十分大きいと思いますよ。私よりも大きいですし」


「板と比べてどうするんですかぁ?」


「いろは! 変な口挟まないで!」


「……いろはちゃん、私のこと嫌いなの?」


 必死でフォローする香織を傍目に、いろはは的確に恵の心にクリーンヒットを当てていく。

 あくまでも、いろはが攻撃しているのは香織なのだが、被害を受け続けているのは恵であった。


「気にすることじゃないでしょ。それに、恵くらいなら小さいうちには入らないわ」


「私だって、昔からずっと気にしてるってわけじゃないのよ。でも……」


「ああ、そういえばあの人達がいたわね」


 智美は、心に傷を負った恵の頭を撫でると、優しく抱き寄せた。

 昔から些細なことであっても、互いに嫌なことがあればこうして落ち着かせるのが常であり、今でも習慣として残っていた。


「……お母さんも姉さんも、何であんなになるまで育ってるわけ? 私1人だけ別物みたいじゃない」


「大丈夫よ、きっとまだ成長する余地はあるわ」


「身体はもう伸びなくなったのに?」


「……結婚すればどうにかなるんじゃない」


「相手もいないのにどうしろってのよ」


 恵は不満顔で顔を背けた。


「相手なら赤木先輩とか、結城君はどうですかぁ? 2人共真面目ですし、悪くないと思いますよぉ」


「そうねぇ。いい人達ではあるけど、そういう相手にはならないと思うわ」


 恵は浴槽の縁に腕を上げ、顔を乗せると、遠い目をしながら言う。


「私は『七元素』だからね。自由な恋愛をしていても、結ばれるとは限らないし、それに結婚相手だって勝手に決められちゃうかもしれない。仕方ないのよ、こればっかりは生まれた家に事情がありすぎたからって、受け入れるしか」


 香織やいろはは、他の学生よりも恵のことをよく知っているつもりだった。

 生徒会役員として長い時間を彼女と共に過ごし、「七元素」に近い「副元素」としての家柄を通じた知識の共有。

 それだけの関係性を構築しても、まだ恵の抱える真意には届かなかった。

 それほどまでに「七元素」と「副元素」との間にある壁は高くそびえ立つ。はるか頂上が見えないほどに。


「もうこんな話はやめやめ。ほら、交流戦の作戦会議にしようよ。オブスタクルレースで取れない点数をどこで稼ぐかとか」


 パチンと手をたたき、恵は無理矢理にでも話題を変える。

 表情、声色を意識的に明るくする。

 それが幼馴染や後輩達を心配させないために、彼女ができる最大限の配慮だった。


「会長、無理だけはしないでくださいね」


「心配しないで、香織ちゃん。私は平気よ。今までだって、姉さん達と戦ってきたんだから」


 彼女はよく笑い、よく戯ける。それは、自分の思考に影が射すのを防ぐためなのかもしれない。


「確実に優勝するためには、アサルト・ボーダーとウィッチ・クラフトで良い順位をキープして、それから——」


「「「「私 (アタシ)達が勝っていれば、問題無いわね(ですねぇ)」」」」


 4人の声が見事に重なり、大浴場全体に響いた。

 全員が負ける気など、さらさら無い。勝利への執念に、性別年齢は関係ないのだ。

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