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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
61/101

幕間

「うわぁ、広いエントランスですね。宿舎って聞いていましたけど、ホテルみたいですよ」


 宿舎に着き、志乃は感嘆の声をあげた。

 ロビーなどは無いものの、全ての階を突き抜ける吹き抜けが、より空間を広く感じさせる。

 2年生以上は昨年もこの場所で宿泊したわけだが、1年生にとっては初めての場所であり、更には国所有の施設である。多少気分が浮つくのも仕方ないと言えるだろう。


「そんなに驚くほど珍しいか? アタシが言うのもなんだけど、志乃ちゃんも蒼真君も富裕層側の人間でしょ。これくらいのサイズ感の建物なら、よく行ったり見てるんじゃない?」


「いや、違うんです香織さん。珍しいとかでは無いんですけど、何かホテルやリサの別荘とかとは違った違和感があって……」


「まぁ、遊びに来て泊まるような場所ではないですからねぇ。有事の際を想定した施設だと、私達の家のように設計する訳にはいかないでしょうしねぇ」


 志乃は幼い頃からリサと共に過ごしてきたこともあってか、一般家庭よりは感覚が富裕層側、更に言えば「副元素」のそれに近い。

 そんな志乃と話す、香織といろはも「副元素」。一般人と呼ぶには少し無理がある。


「それにしても、うちの生徒会は会長が『七元素』でアタシ達が『副元素』。それに『副元素』の関係者と、社長の息子か……。もしかして、赤木先輩も訳ありな家庭だったりすふんですか?」


 香織は前に立つ一彦に話しかける。

 自分から話を始めることの少ない一彦について、他の生徒会役員達はあまりよく知らない。

 だからこそ、後輩達が一彦とのコミュニケーションをとるためには、今のような何をするでもない待ち時間が有効なのだ。


「別にお前達みたいな特別な家で育ったわけではないぞ。……俺の両親は、2人共研究者をしている。そういえば、村崎の父親も同じ研究所で働いていてな。そこであいつとは知り合った」


「そうなんですかぁ。意外と世間って、狭いものですねぇ」


「ああ、俺もまさか同学年の子供がいるとは思わなかった。それは村崎の方も思ってたのかもしれんな」


「ということは、アタシといろはみたいに先輩と村崎先輩も昔からの幼馴染だったりするんですか?」


「お前達のような関係性になるまで仲良くなるほど、一緒に過ごしたわけじゃないからな。せいぜい、昔に顔を合わせていたくらいの友人だ」


 友人といいつつも、一彦と蓮治は付き合いが長く、似た境遇に置かれていたことも相まって、互いに信頼をおける仲ではある。

 普段は生徒会の仕事があり、あまり他の生徒会役員とゆっくり話をすることがない一彦だったが、今は香織やいろはの話や問いかけにきちんと向き合っていた。

 こういうところが恵から「後輩の面倒見が良い」と称され、事実として後輩からの信頼を得ている所以なのであろう。


「俺の話ばかりじゃなくて、別の話もしたいところだが……恵も戻って来たことだし、また次の機会にな」


「なになに? 私がみんなの鍵を貰ってきてる間に何の話してたの?」


「そんなに重要な話でもないぞ。個人的な、少し昔の話だ」


 離れたところにいた恵が、話している彼らの元へ走り寄ってきて、話に割り込んできた。

 彼女は立花と共に、交流会の間の期間に宿泊に使用する部屋の鍵と、会議のために借りた部屋の鍵を取りに行っていたのだ。

 会議を取り仕切るのは、前年度の交流戦の総合優勝校の生徒会。つまりは蒼真達、東京魔法高校生徒会である。

 会議中の司会、書記役をはじめ、会議室の鍵の管理などの役目も請け負う。

 負担は楽なものではないが、6人の生徒会役員で分担すればこなせないことはない。

 蒼真達は恵からそれぞれ部屋の鍵を受け取ると、荷物を置くため各自の部屋へと別れた。

 蒼真に割り当てられた部屋は、3人用だった。

 だが、この日逢羅成島へ上陸している魔法高校の関係者は生徒会役員と教師のみだ。

 交流戦の選手やサポーターの面々がやってくる翌日の昼までは、この部屋は彼1人で過ごすこととなる。

 蒼真は荷物の入った鞄をベッドの上に置くと、そのままゆっくりとくつろぎたい気持ちを抑えて部屋を出た。

 島に到着するまで稲荷と一緒だったためか、蒼真の心理的な疲労は溜まっていたが、生憎彼に自由時間は与えられていない。

 すぐに会議の準備、そして会議本番が待っている。

 蒼真は役目を放り投げるような真似をする男ではない。

 少し面倒に感じたとしても、やり遂げるまでは決して気持ちを切らさない。

 それは他の生徒会役員も同じなようで、誰か1人を極端に待つようなこともなく、会議会場前で全員が再び集合した。


「ごめんね。休憩時間もあまり取れなくて。特に1年生の2人は、初めての交流会でいろいろわからないこともある中なのに忙しくさせちゃって。とりあえず会議さえ終われば、今日の仕事は終わりだから、頑張ってね」


「大丈夫です。過密なスケジュールには慣れてますから」


 蒼真はこの夏休みは、京都の街を山を東奔西走したばかりだ。1日2日くらい予定を詰められたところで、痛くも痒くもない。


「それは頼もしいわね。じゃ、会議の準備はよろしくね。でも、会議の間は私達3年生に任せておきなさい。来年以降はあなた達がするかもしれない役目よ。ちゃんと見本を見せてあげる」


 にこやかに笑いながら、恵は言った。

 それは今年、来年と未来の交流戦優勝を見据えてのものだ。

 恵は周りの人間から見ると、楽観的で適当な態度をとっているようだが、実際のところは決して明るいだけの性格ではない。

 光阪家という日本でも指折りの名家の次女として生まれ、自分よりも両親に期待されている姉を見て育った。姉ばかりに目をかける両親からは相手にされないこともあった。

 だが、「七元素」の魔法使いとして認められるだけの能力を手に入れなければいけない責務を負っている。

 彼女の前には、いつだって親と姉という壁が立ち塞がっていた。

 それに不安感や劣等感を抱くこともあったが、いつの日か闘争心が目覚めた。姉を越え、両親を見返す。闘争こそが彼女の原動力となっていた時期もあった。

 それゆえに勝負事には、全力で勝利を掴む姿勢が身についた。たかが高校の行事1つであっても変わらない。

 彼女の笑顔の下には、誰にも見せない燃えたぎる炎のような熱い感情が隠されていた。

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