都を守る者
蒼真達、術師の一般市民には知られざる活躍により、京都には日常が戻り始めた。
外部からの侵入者のいなくなった街では、道を外れた魔法使いが違法薬物を手に入れる方法は無くなり、新たに薬物中毒となる者はいない。
しかし、すでに服用済みで体調を崩していた者は一定数存在していた。
彼らは土御門家をはじめとした、陰陽師の保護の元で病院に運ばれ、現在も治療を受けているが、全快となるには時間がかかるだろう。蒼真と光が手に入れた薬物の解析が終わり次第、より効果的な治療に移る予定だが、既に魔法能力に障害が出ている場合、元のように自由に魔法を使うことはできない可能性がある。
身体と魔法能力の治療は別物である。身体はドナーさえ見つけられれば移植により機能を取り戻すことが出来る場合があるが、魔法能力に関しては替えが効かない。
そもそも、魔力の源が体のどこにあるのかさえもまだ明らかになっていないのだ。魔力は脳に宿ると言う研究者もいるが、心臓や血に宿ると言う者もいる。魔法に関しての技術が確立した今でも、人知を超えた力である魔法に関して、不明な部分は多々あるのだ。
ただ、わからないとはいえ魔法使いの治療を行わない訳にはいかず、早期の対処をするために薬物の解析が急がれたため、蒼真や稲荷も動員されて、解析を手伝うこととなった。
そんな各々が各々の役割を与えられて必死に働く中、最も重要でハードな仕事を任されていたのは光だった。
彼の仕事は薬物の解析に加え、京都を守る結界の強化も任されていた。
安倍晴明によって作られ、そのままで効力を発揮し続けてきた結界。今まで作成者以外、誰にも触れられてこなかった領域に踏み入る訳である。到底、一筋縄ではいかない。
しかし、これは光にしかできないことだ。
十二天将を全て操る、安倍晴明に最も近づいた陰陽師。
そんな才能の持ち主であっても、伝説の陰陽師を超えるのは難しいようだ。
「こんなんどうやったら解決できんねん……。蒼真、手伝ってくれや」
「無理です。俺は結界術、見よう見まねくらいしか使えませんし。第一、俺は陰陽師じゃないので」
「アンタが苦しんでるとこ見るん、ほんま愉快やわぁ」
「……安倍晴明本人でも連れてこんと無理やろ、こんなん」
「何言ってるんですか。無理でもやってください。光さん以外で誰が出来るんですか」
「ほれほれ、頑張れ頑張れ。茶化して見といたるから」
「ほんまにムカつくなぁ、お前ら。年上には敬意を持てっちゅうねん」
後に、光は人生で最も頭を使った時間はこの結界を編み出した時と語るのだが、長い時間をかけたとはいえ結局のところ改良に成功してしまうのだから大したものである。
一方、今回の事件では結城邸に残り、出番の無かった直夜と澪であるが、2人は変わらず日々の訓練に明け暮れていた。
敵との直接的な戦闘は無かったものの、彼らに課された任務は修悟達、クラスメイトの保護だ。
その責任を放ってまで戦いに参加しようとするのならば、組織の人間として失格である。
護衛対象である彼らはというと、事件が終息したのを確認した上で輝山家の護衛と共に東京へ帰っていった。
だが、別れの時間はほんの少し。
魔法高校交流会開催日まで、あと数日にまで迫っていた。




