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決戦間近

 楽しい時間はあっという間に過ぎて行くもので、観光を満喫していた修悟達は日が沈む前に結城家に戻ってきていた。


「結局来なかったね、蒼真。一緒に遊べたらな、って思ってたんだけど」


「いろいろと忙しいんじゃない? 私達が急に来ちゃったものだから」


 結城家が会社を運営しており、蒼真が術師組合に属する術師であることは既に修悟達には聞かせている。

 そのため彼らは、蒼真は学生ではあるが、京都にいる間は彼に舞い込む仕事があるため、時間に追われていることは理解していた。


「でも、ちょっと寂しいわ! 東京に帰る前に時間を作ってもらわなきゃね! ねぇレイ、ソーマに話しておいてくれない!?」


「そうね……それなら本人に直接聞いてみたら? ほら、ちょうど後ろに」


 いつのまにか、音もなく蒼真は彼らの背後から近づいてきていた。


「うわっ! いたんだね……」


「悪い、驚かせるつもりはなかった。何か話していたようだが、何かあったのか?」


「いや、今日は蒼真が一緒に来れなかったから、帰るまでにみんなで遊びたいなって話してたんだ。難しいかもしれないけど、どこかで時間とれたりしないかな?」


 修悟が期待感に満ちた眼差しで蒼真を見上げる。

 身長差のある美男子2人が向かい合う画は、性癖の腐っている方々にはありがたいものであろう。


「そうだな、あと数日……いや、2日か3日待ってくれ。この間に全部片付けてくる」


「片付けるって……こんなこと僕が言っていいかわからないんだけど、本当に蒼真がしないといけないこと? 僕達も事情を全部知ってるわけじゃないけど、危険なことに手を出すのは心配だよ」


 修悟達も「死招蜥蜴」のことは聞かされている。

 一般市民でしかない彼らが、裏社会の脅威に怯えてしまうのも無理はない。

 しかも、友人がそれに関わろうとしているのだから止めたくなる気持ちも、蒼真は十分理解できた。

 だが、蒼真には使命がある。

 良き友人達に心配をかけないためにも、問題を早急に取り除かなければならない。


「大丈夫だ。京都には術師や陰陽師が沢山いる。悪いことにはならないから、安心してくれ」


 蒼真は気を使わせることのない様に、言葉と表情を作り上げてそう言った。

 感情を悟らせないことは、彼の得意分野である。「月の忍び」となった頃に叩き込まれた技術が、今も生きている。


「じゃあ、また後でな。出来るだけ早く終わらせるから、くつろいでいってくれ」


 そう言い残すと、蒼真は部下も連れずに1人で地下室へ向かった。

 完全防音の施工がされた部屋は葛葉家だけにあるのではない。

 むしろ、裏社会の人間の家ならば秘密の部屋くらいいくらでもあるものだ。

 蒼真は地下室外からの干渉を閉ざすと、ある人物に電話をかけた。


「もしもし。そちらは上手くいっていますか?」


『あぁ、今電話しよう思ってたとこや。お前が友達使って京都中回らせたお陰で、奴らのアジト見つけたで、蒼真』


「人聞きの悪いこと言わないでもらえますか。そもそも、はじめに利用しようとしたのはあなたの方ですよ、光さん」


 利用できるものは全て利用するというスタンスは同じ蒼真と光であるが、価値観が少し異なるからかいまいち仲良くなりきれない。

 それに、今回利用されたのは蒼真の友人達である。蒼真であっても、不快に感じてしまうのも無理はない。


『で、早速やけど今晩のうちに決着つけようと思っとる。来れるよな』


「もちろんです。何人体制で行くつもりですか? 無いとは思いますが、2人で行って取り逃がすのは絶対に避けたい。せめてバックアップのメンバーは欲しい所ですね」


『それは大丈夫や。周りはうちの陰陽師と、外部からのサポートの話もつけとる。お前もよう知ってる奴や』


 少し間が空いた後、蒼真も聴きなれた声が通話に入ってきた。


『なんやえらい性根の悪いとこに来てもうたみたいやなぁ』


「……はぁ、稲荷さんですか」


 おそらく京都で最も性格の悪く、最も強い3人が集まることが確定した。

 白鬼、九尾の妖狐、十二天将を操る陰陽師が味方として一堂に会するわけである。

 平安時代は敵として相対した彼らの先祖であるが、まさか味方として共通の敵と戦うことになるとは、未来予測の能力でもない限り想像もつかなかっただろう。


『今回はこの3人でアジトを制圧する。周りの被害は土御門と葛葉のサポートチームで抑える。これを基本指針にしたいんやけど、なんか聞きたいこととかあるか?』


「俺はないです」


『……じゃあ、ウチから蒼真に1個ええか』


 稲荷からの質問に蒼真はなんとなく予想がついていた。

 思考が似通った節のある2人である。案外相性はいいのかもしれない。


『アンタ1人で来るんやな? 白雪は連れてこんのよな』


「もちろんです。白雪に限らず、直夜も澪も連れていきませんよ。東京から友人が来てるもので、今は家の警備を優先させてもらいます」


『そうか……それならええねんけど』


 稲荷にとって白雪は特別に目をかけている後輩である。

 もちろん白雪の身体の事情を知ってのことだが、それ以外にも理由はある。

 妖狐の一族に生まれ、持ち合わせた美貌と圧倒的なカリスマ性で他者を従えてきた彼女であるが、その無言の圧力で人を寄せ付けず孤独な日々を送ってきた。

 蒼真も同じように他者を寄せ付けることはしなかったが、彼には直夜や澪、白雪がいた。

 そうやって1人でいた稲荷に手を差し伸べてきたのが白雪だった。

 強者の苦悩や孤独を理解してくれたのが白雪だった。


『頼むで、あの子は守ってやってな』


 さまざまな思い、過去が渦巻く京都の地で、術師による異分子の排除が行われるまであと7時間となっていた。

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