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術師組合

 8月18日。今日の蒼真も多忙である。

 ノーネクタイのスーツ姿で出かけたのは、京都市内の会議場。

 彼の横には、薄い水色のワンピースを纏った白雪を伴っている。

 彼らがこの場所へ来たのは、蒼真が京都へ帰ることとなった目的である幹部会の開催に次ぐ重要性のある会議、術師組合の集会に謙一郎の代理として出席するためだ。

 京都の術師を中心に構成された団体である術師組合には、数多くの術師が所属しており、蒼真や妖狐の力を持つ葛葉稲荷など、一部には魔法使いを兼ねている人物も属している。

 その中で、特に異質な存在なのが、蒼真の幼馴染の一人——氷雨白雪だ。

 氷雨家は結城家傘下の術師一家だが、水の「副元素」でもある。

 そのためか、術師と魔法使いとの間で板挟みになっている感が否めない。

 そこで彼女達を術師、魔法使いのどちらからも起こる過度な干渉から守っているのが、術師組合内でもそれなりに発言権のある結城家、そして葛葉家だ。

 と言っても、葛葉家による擁護は稲荷の独断によるところが大きく、葛葉家からと言うよりは稲荷1人による擁護と言ってもいいかもしれない。


「あの、蒼真さん……」


「どうした? 初めての集会で緊張しているのか?」


 会議場に着いてからというもの、白雪の動きがいつもより少しぎこちない。

 今回の集会は蒼真にとっては初めて出席するものだったが、それは白雪にとっても同様であった。

 今までは親に任せきりで関わることのなかった、京都の術師達から向けられるさまざまな感情が入り混じる視線。そのほとんどを白雪は集めていた。

 氷雨家の持つ「副元素」としての立場は、良くも悪くも利用するには有効なカードである。そこにつけ入ろうと考える者もいないわけではない。

 それに加えて、白雪の圧倒的な美貌である。彼女の容姿は、性別を問わず視線を釘付けにしていた。


「安心しろ。俺が付いている。不安だったらいつでも頼ってくれ」


 蒼真の手が、白雪の肩に置かれる。彼の大きな手からは、温もり、優しさが伝わるのを彼女は感じていた。


「自分らえらい仲良いなぁ。羨ましいくらいやわ」


「か、会長!? いらしてたんですね……もっと早くに声をかけてくださればよかったのに……」


 気配を殺して二人に近づいて来た稲荷に驚いた白雪は、体が触れるかという距離にいた蒼真から、赤面しつつ少し間を取った。


「いや、えらいお似合いの二人やなぁ、って思ったらなかなか声かけれんくてなぁ。いろいろ過程すっ飛ばして、夫婦にでもなったんかと思ったわ」


「か、からかわないでください!」


 赤くなった白雪の顔は更に赤みを増し、今にも湯気が出そうだ。


「白雪はホンマに可愛いなぁ。からかいがいがある後輩がおると、人生が豊かになるわ」


「それまでにしてやってくれませんか、稲荷さん。これ以上は白雪の身が持ちません」


 稲荷の視線を切るように、蒼真は二人の間に入る。


「お? 今度はアンタが相手してくれるんか? ……って冗談や、そんな怖い顔やめ。会議が始まるまでそんなに時間ないからなぁ。変な連中に捕まる前に、はよ行こか」


 ここは年長者らしく、稲荷が先導して会場内に入った。

 軽口を叩いていても、彼女ほど周りの見えている人間はいないだろう。

 伊達に葛葉家の全権を任されていない。


「アンタも大変やろ。代理とはいえ、こんなとこ来なあかんくなって」


 稲荷、蒼真、白雪の順で席に座ると、稲荷は休む暇を与えずに矢継ぎ早に話し続けた。

 そのおかげと言って良いのか、彼らへ近づいてくる者はほとんどいない。


「そうですね……。なにせ、父親が有名人なもので……」


 彼らの父親世代、つまり謙一郎の世代ならほとんどの人が知っている謙一郎の若い頃の噂。

 破天荒なその噂を聞いて、距離を取ろうとする者もいれば、より近づこうとしてくる者など反応は様々だが、いずれにしても蒼真に対する周りからの評価というのは「あの謙一郎の息子」というものが前提にある。


「難儀な話やなぁ。ウチも表出なあかん立場になってからは苦労したもんや」


 大人びているが、稲荷も蒼真と1歳しか違わない高校2年生だ。

 実力がどうであれ、若いというだけで軽んじられる年齢の壁。

 それは非魔法使いでも、魔法使いでも、術師でも変わらない。


「まぁ、いざとなったらこんな組合抜けたらええんよ。京都の術師で葛葉と結城を止めれる家って言うたら、あの()()()くらいや」


 稲荷は蒼真に顎で会場の前側を指し示す。

 蒼真達のように並んで座る組合員と、向かい合う形で置かれた組合役員の席がそこにある。

 その中心、会場の視線を1番に集める位置に座っているのが、術師組合の会長、土御門(つちみかど)正親(まさちか)だ。

 術師組合のみならず、「七元素」などのエリート魔法使いからもその名を知られ、「最高の陰陽師」の異名を持つ男である。

 その異名は、彼が使う術が実に多彩であることに由来する。

 神の名を与えられた術に加え、式神を操り、土御門家独自に編み出した術までをも駆使する。

 同じように結城家や葛葉家にも、独自の術が存在する。

 それぞれ、鬼や妖狐の特性を生かした強力な術だ。

 とは言うものの、術師同士での戦闘が起きることもなくなってからは、攻撃用の術を使える者や鍛錬をする者が少なくなっている。

 そのような中でも、正親は不測の事態に備えて息子や、土御門家が持つ道場の門下生達と技を磨いている。

 その理由は、術師の地位向上の為だ。

 現在の魔法使い中心の社会で、術師というのは非魔法使いほどではないが、「副元素」などの魔法使いからはあまり良い目では見られていない。

 正親はそんな情勢から、術師に対して「七元素」と「副元素」からの直接的な圧力がいつかかかるのではないかと危惧しているのだ。

 そのためか、普段の組合の集会では術師の今後についてや、「七元素」からの要請についての議論が行われることがほとんどであった。

 しかし、今回の議題は全く違った。


「本日もお集まりいただきありがとうございます。早速ですが皆さん、先日高速道路上で事故があった事はご存知でしょうか?」


 先日の事故。つまり、蒼真が京都に帰ってくる途中に巻き込まれた渋滞の原因になった事故だ。


「あの事故は、ある国外の組織により人為的に起こされたものです。加えて、多数の企業においてサイバー攻撃を受けたという情報もあります」


 正親がチラリと蒼真の方を見る。

 タタラスター社で起こった事件について、謙一郎から正親へその日のうちに伝えてあったのだ。


「その組織の名は『死招蜥蜴』。中国の黒社会を牛耳る中華系マフィア、『銜尾蛇(ウロボロス)』の下部組織です」


「—— 『銜尾蛇』だと!?」


 小声ではあるが、蒼真の口から声が漏れた。

 それに気づいているのは、隣に座る稲荷と白雪だけだ。


「急にどうした? 何か気になることでもあるんか?」


「いえ……」


 稲荷が声をかけるも、蒼真は拳を握りしめたまま多くは喋ろうとはしない。

 彼女から蒼真越しに見える白雪の肩もわずかにだが、震えているようである。

 明らかにこの場にいる中で、2人だけが「銜尾蛇」という言葉を聞いてからの反応が異なっている。


(ホンマ、しゃあない後輩やなぁ。今はそっとしといたるけど、後でいろいろ聞かせて貰うで)


 彼らの心情にはまだ触れず、稲荷は正親からの言葉に耳を傾けていた。

新登場人物紹介

・葛葉稲荷ー京都魔法高校2年生。生徒会長。妖狐の力を持つ。

・土御門正親ー術師の1人。「最高の陰陽師」と呼ばれる。

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