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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校入学編
32/101

救出

新登場人物紹介

・水戸守洋行ー「七元素」である水戸守家の序列三位。

 留置所内に非常事態を知らせる警報が鳴り響く。それと共に発砲音、痛みを堪えるうめき声もそこらかしこからあがる。


「一体何が起こっているのだ……」


 水戸守洋行(ひろゆき)は突然の異常に動揺を隠せずにいた。

 彼は水戸守家当主水戸守達洋(たつひろ)の弟であり、水戸守家序列第三位の肩書きを持っている。そして、今回の「異例者」輸送作戦の責任者でもある。


「侵入者の情報はまだ掴めんのか!」


「それが、新たに別の侵入者も現れたようで……」


「何だと!? 防衛システムはどうなっている!」


「それが何者かに無効化されているようで、システムの復旧には少し時間がかかるかと……」


「何ということだ……奴らは一体何者なんだ……」


 洋行は握りしめた拳を壁に叩きつけた。激しい怒り、焦りによって掻き乱された感情で、彼の魔力及び周辺の魔素の動きが不自然な乱流状態になっていた。

 魔法使いにとって、この状況はあまり良くない。並の魔法使いだと、魔力の安定度によって魔法の発動に支障をきたす恐れがある。

 しかし彼は「七元素」の一員。その程度で魔法発動に失敗するような事はないが、不自然な魔力の流れは、魔力が「見える」蒼真の行く先を示すものになってしまった。


「こうなれば私が奴らを——」


「い、一体何者だ!?」


 頭に血が昇った洋行よりも先に異変に気がついたのは、そばにいた留置所担当の警察官だった。

 彼らの前に現れたのは、大きなフードで顔の大部分が隠れた五人の集団。「異例者」を回収しに来た闇斎家の刺客だ。


「そこの罪人を渡してもらう」


「やはりこいつが目的か……」


 洋行はハンドサインで、そばの警察官を自分から離れるように指示を出した。


「貴様ら……私の管轄内で好き勝手しおって!」


 怒りを込めた洋行の水魔法「激流(ラピッドストリーム)」が、刺客に襲いかかる。激しい水の流れは彼らを飲み込み、流し去った。狭い廊下でこの魔法に対抗するのは困難なように思われる。


「『七元素』を舐めるんじゃない! 今降伏すれば、命までは奪わないでおいてやる」


「その甘さが命取りだぜ、水戸守洋行」


 不意にどろりと彼の視界が歪んだ。平衡感覚を保っていられなくなった彼は、思わず膝をつく。


「この程度の幻惑魔法に引っかかるほどとは、水戸守家の底が知れるな」


「何……だと……いつからこの魔法を……」


「いつからだって? 察しが悪いなぁ。最初からに決まってるだろ。アンタはずっと無駄にキレて、発動できない魔法を無駄に使ったと思い込んでたんだよ」


 五人の中で、最も背の低い刺客は洋行の目の前で舌を出し、笑いながら煽るようにそう言った。


「まぁこちらもアンタとゆっくり話せるほど余裕があるわけじゃないんでな。奴は頂いて行く」


「ま、待て……」


 前も後ろもわからない状態で、懸命に手を伸ばす。責任者として、「七元素」として逃がしてはならないという強い思いが彼にはあった。


「止めなければ……奴を渡してなるものか……」


 自由の効かない体を懸命に動かし、這いつくばったままジリジリと進む。そんな速度では追いつけるはずもなかったが、彼には追わずに止まるという選択肢はない。


「大丈夫ですか!?」


 声とともに、伸ばした自らの手を誰かが掴んだのを洋行は感じた。


「私のことはいいから、侵入者を追え! 奴らは被疑者を連れて逃走中だ!」


「……だとよ。いいこと聞いたな」


「……貴様ら、まさか警官ではないのか?」


 洋行の顔から血の気がサッと引く。彼が漏らした情報は味方の警察官ではなく、新たな侵入者に渡ってしまったのだ。


「行きましょう、若。目標はもうすぐです」


 蒼真達が進む方向は、闇斎家の刺客によって倒された警察官が示してくれている。人が倒れている方向に進んでいけば追いつけるはずだ。

 硝煙と血の匂いが充満する通路を走り抜け、壁に開けられた多数の穴をくぐり抜け、彼らは留置所の外まで出てきた。


「なぁ、こんなこと言いたくないけどさ……外で待ってればよかったんじゃね?」


「出てくるのが地上とは限らなかっただろ? 出口さえあれば、地下から逃げられる可能性もあった」


「それもそうだな」


 直夜は簡単に納得した。


「それに、俺達が後ろから追うことで澪達の班と奴らを挟み撃ちできるだろ」


 彼の言葉通り、闇斎家の刺客の進行スピードは援護班の妨害によりかなり遅くなっていた。

 敵との距離は残りわずか。蒼真の目に、肩に担がれてぐったりと力なく眠っている「異例者」の姿がはっきりと見えた。


「さぁ、そろそろお前の出番だ……起きろ!!」


 蒼真の声が響く。その声は「異例者」にかけられた術——月読の解除条件に指定したものだった。


「……随分と寝ていたみたいだな」


 ゆっくりと目を開けた「異例者」は、手首にはめられた手錠を引きちぎり、体を捻って自らを肩に担ぐ刺客の体勢を崩させると、その顔面に強烈な肘打ちを叩き込んだ。


「『異例者』さん! ご無事でよかった……」


「心配かけたな、『最終実験体』……いや、今は如月だったか。それと、あの時は悪かった。お前を殺そうとした事は謝って済む問題じゃないが、償いきれない事をしてしまった」


「いいんです。僕はこうして生きていますし、あなたのことは信頼しています。今の僕がここにいるのは、あなたのおかげです」


 如月の言葉で、「異例者」の頬に一筋の涙が伝い、肌を濡らした。

 これほどまでに自分を信じてくれている感謝と、それを裏切る行為をしてしまった罪悪感が彼の中で渦巻く。


「これからは一緒に行きましょう。僕達はあなたの味方です」


「如月の言う通り、俺達はお前と共にある。それに、お前は『闇斎を滅ぼすためなら、悪魔にでも魂を売る』とか言っていたな。なら、今ここで鬼にその命預けてみろ!」


 敵の巧みな連携攻撃をかわしながら、蒼真は「異例者」に叫んだ。


「悪魔ではなく鬼に、か。いいだろう、俺の命を上手く使ってくれよ」


「若、『異例者』さん、早く終わらせましょう」


 如月は魔法の使えない「異例者」に強化魔法を使い、蒼真と入れ替わる様に敵との戦闘に繰り出した。

 入れ替わった蒼真は、「異例者」に背中を預ける向きで話しかける。


「どうだ、良いチームだろう」


「まったく、どいつもこいつも化け物じみた強さだ。流石は鬼が率いているだけある」


 ニヤリと笑いながら「異例者」は言う。軽口を叩けるほど、結城陣営の勝利は目に見えていた。やはり実力差以前に、5対多数という数の差が大きく響いていたのだ。


「そろそろ終わらせよう。おい『異例者』。俺が3人を受け持つから、お前は2人を生捕りにしてくれ。闇斎の情報を聞き出したい」


「了解、ボス」


 蒼真の指示を受け、「異例者」は自身の触手を如月が戦っている方面へと伸ばした。

 強化魔法によりスピードもパワーも増した彼の触手は、いとも容易く2人の刺客を絡めとり、首を絞めることで意識を刈り取った。


「なかなかやるな。やはり、仲間に引き入れて良かった」


 指示通りの働きを見せた「異例者」を確認した蒼真は軽く息を吐くと、地面に巨大な魔法陣を形成させた。その大きさは、現在戦闘を行っている全員の場所を覆い尽くす程で、蒼真の術を初めて見る「異例者」が戸惑うほどだった。


「遊びの時間はもう終わりだ、闇斎。……2番『伊弉諾(イザナギ)』」


 術の発動と共に魔法陣内の地面が隆起、沈降し始める。


「遥か昔、神話の時代。イザナギとイザナミがこの地を作ったとされている。この術は魔法陣内の地面を自在に操るものだ」


 動く地面は、逃げようとする敵の足の自由を奪い地面の中へと体を引き摺り込んで行く。

 自分たちの動きを阻害しようとする地面に向かって魔法を放ち、脱出を目論んだ刺客達であったが、相手は大地。払っても払っても捕縛する無限とも言えるその力の前に屈する他なかった。

 やがて抵抗も虚しく地面に埋め込まれ、首から上だけを残した晒し首状態にまで抑え込まれた。


「おいおい、部下が皆化け物みたいって言ったが、うちのボスは段違いの怪物じゃねぇか……」


「でも、あのレベルの魔法使いや術師はまだまだたくさんいるんですよ」


「……そんな奴らが本気で戦ったら、都市くらい簡単に滅びそうだな……」


「まぁ、軍艦くらいなら若一人で沈ませられますから。都市の一つや二つ地図から消えるでしょうね」


「ん? 軍艦って……流石に聞き間違えたか……」


「聞き間違い? 何がです?」


 初めて見る蒼真の術の前に、唖然とする「異例者」と呑気に話す如月であった。


 閑話休題。

 戦いが終わり、集まった百鬼夜行の面々が見下ろすのは地面に埋まった闇斎家の刺客達。彼らにはもはや抵抗する意志は残っていなかった。


「……殺すなら早く殺せ。俺たちの正体くらいはもう知っているだろう」


「俺はもう無駄な人殺しはやめたんだ。いろいろと話してもらうぞ、闇斎の犬ども」


「甘いなぁ、闇の住民がそんな調子で——っぐあぁぁ!!」


 刺客の一人が煽る様な表情から一転、痛みで脂汗を浮かべる。


「殺さないさ。だがな、この地面は俺の支配下。死なない様にいたぶる事くらいはできるぞ」


 刺客の地中の体は、蒼真の術により締め付けられ、骨を砕いた。


「覚悟はいいか? 拷問の時間だ」

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