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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校入学編
27/101

無元素

 蒼真が地面に足をつけた時、行われていた戦闘はかなり一方的なものとなっていた。

 多数対2。しかも「副元素」までいる中、侵入者達が勝てる確率が高いわけがなく、魔法高校側はほぼ無傷のまま敵を追い詰めていた。


「どうするよ、稲沢。うちのリーダーさんがやられちまったみたいだぜ」


 蒼真の抱える「異例者」を見て、少なからず動揺を見せる牧、稲沢の2人。

 頼みの綱の「異例者」が戦えなくなった以上、彼らの敗北は決定的になった。それを確信した立花は彼らに近づいていった。


「もうやめなさい。あなた達ができることはもうないでしょう」


「うるさい! ありますよ、まだ!」


 稲沢がポケットから取り出したのは、「異例者」からもらっていた小さな包み。


「これ、なんだと思います? 私も貰った時はわかりませんでしたよ。これが『賢者の石』だったなんてね!」


「け、『賢者の石』!? そんなものが実在するとでも言うのか!?」


 賢者の石。それは非金属を金に変える錬金術に使われたとされる物質の名前だが、そのようなものはいくら30世紀の現在といえども実在していない。


「流石の『副元素』でも知らないみたいですね。雨宮香織さん」


「何故アタシの名前を!?」


 突然名前を呼ばれて、思わず取り乱す香織をいろはが抑え込む。


「裏社会には腕の良い情報屋がいましてね。まぁ、相手の情報くらいは調べてくるのが普通じゃないですか」


(情報屋? 詳しく聞き出す必要があるな)


 蒼真が今彼らから情報屋について聞き出すことはできない。裏社会の人間に興味を持つということは、裏の人間であるという風に取られかねない。

 そんな蒼真の葛藤をよそに稲沢は話し続ける。


「それより、『賢者の石』でしたね。これは物質を金に変えるようなものではありませんよ。こうして使うんです!」


 稲沢、牧は包みから赤い石——「賢者の石」を取り出し、握り潰した。


「ク、クハハハハ!!」


「クックック……もう止められませんよ!」


 次の瞬間、牧の左目、そして稲沢の右腕が吹き飛ぶ。

 辺りに血が飛び散り、近くにいた風紀委員も口を押さえてしゃがみ込むほど凄惨な現場となった。


「ハァァ。良イ気分ダ。痛ミモ全ク感ジネェ」


「ソウデスネェ。コレガ魔法使イの体ヲ作リ替エル賢者ノ石のチカラ……。素晴ラシイ……」


 体の一部を失っているとは思えない恍惚とした表情で宙を見上げる2人。その体からは、先程までとは比べほどにならない魔力量が感じられる。


「何故そこまでして……」


「貴様ラニワカルハズモネェサ! 血筋ニモ、才能ニモ恵マレタ貴様ラニハナ!!」


 立花の呟きは、牧の叫び声によってかき消された。


「確カニ魔法ガ使エレバ、良イ暮ラシガ出来ル奴モ居ルダロウ! ダガ、ソンナノハ才能ノアル一握リダケナンダヨ!」


「でも、こんな事を起こさなくても他に方法はあるじゃない」


「方法ダト? 魔法使イトシテノ才能ガ無ク、魔法関連デハ相手モサレズ、カト言ッテ非魔法使イハ非魔法使イ同士デシカ集マラナイ。ソンナ私達ガ一体何ヲスレバ良イ!?」


 魔法使い間の経済格差。これは社会の問題となっている。実力を上げればそれ相応の報酬が得られると言えば聞こえは良いが、魔法に関してはそうは言っていられない。実力以前に、才能の壁が立ちはだかるのだ。


「努力スレバ報ワレルト人ハヨク言ウガ、ソレハ違ウ! 努力シタ凡人ガ、努力シタ天才ニ勝テル筈ガナイダロウ!!」


「甘イ汁ヲ吸ウ『副元素』ヤ『七元素』。アナタ方ノ存在ハ、他ヲ腐ラセル」


 稲沢が一歩踏み込む。と、同時に姿が消える。


「な、何!? 何処へ……きゃっ!」


 いつのまにか現れた稲沢が立花の腕を捻り上げていた。

 その速度はまるで強化魔法による加速を使ったかのようだった。

 しかし、蒼真の目には魔法を使った痕跡は映っていない。よって、稲沢は彼自身の能力で魔法に匹敵するスピードを出したということになる。


「動カナイデ下サイ。マダ加減ガ難シインデス」


 稲沢は立花を人質にする事で、一瞬にして生徒の自由を奪った。


「……先生を離せ……」


「ダメデスヨ、雨宮サン。ソレデハ人質ノ意味ガ無イ」


 人質を取られた以上動くことが出来ず、八方塞がりになっていた生徒達だったが、遠くから聞こえてきたのはパトカーのサイレン。ようやく警察が到着したのだ。


「警察が来たみたいよ。もう諦めなさい」


「人質ハ黙ッテイテ下サイ。牧、ヤッテクレマスネ?」


「スグニ終ワラセテヤル」


 そこからの牧の動きを目で捉えていた者はほとんどいない。

 彼は拳銃を構える警官達を、まるで案山子であるかのように一歩も動かさないまま倒したのだ。


「日本ノ警察モ、魔法使イガイナイト脆イモンダ。コンナ程度ダトハナ」


 倒れた警官から拳銃をを奪って、牧は呟く。賢者の石によって手に入れた力を噛み締めるように。


(もう、俺が動くべきか? 雨宮先輩達は動きそうにないが、敵が本気を見せていない以上、鬼人化せずに無力化出来るかはまだわからないしな)


 ずっと様子を見ていた蒼真だったが、彼も動かなかった。

 鬼人化の秘密を守る事は絶対条件だが、妙に戦い慣れしているのを曝け出すのも理由を聞かれては面倒だ。

 だが、いつでもきっかけがあれば動き出せるように術と魔法のどちらも発動できる準備を整えている。

 侵入者と生徒の間に張り詰めた空気が流れる中、その声は一瞬にして場を切り裂いた。


「先生を返しなさい! 光坂の名において、この学校で悪事を働くのは許しません!」


 こちらの騒ぎを聞きつけて、裏門から恵が駆けつけたのだ。

 光坂の名。つまり「七元素」の権限は魔法使いにとってかなり大きいものだ。これを意に介さないのは蒼真のような術師一族や、海外の魔法使い、そしてテロリストくらいだろう。


「光坂ァ? 『七元素』サマガ随分ト遅レタ登場ダナァ!」


「マァ良イジャナイデスカ。落チ着キナサイ」


 興奮する牧を、なだめる稲沢。「七元素」の一人が出てきても、彼の余裕のある表情は崩れない。


「デハ、立花サンヲ返ス代ワリ二条件ガアリマス」


「何? 条件って?」


「ソレハデスネ……」


 誰もが稲沢の次の言葉に耳をすませる。そして彼は不敵な笑みを浮かべながらこう言い放った。


「アナタニ死ンデ頂ク事デス。『七元素』ヲ殺シ、今ノ魔法社会ヲマダ続ケヨウトスル政府二、宣戦布告シマショウ!!」


「そうね……。もっと可愛いお願いなら聞いてあげられたんだけど残念ね。一彦君、出番よ」


 わざとらしく首を傾げた恵が指示を出すと、立花が稲沢の腕から外れて自由の身となった。

 驚きの表情を隠せない稲沢だったが、腹に衝撃を受けて離れて立っていた牧の所まで飛ばされていく。


「グワァァッッ!! ナ、何ガッ!?」


「何か勘違いしてないかしら。あなた達の前にいるのは、『七元素』の魔法使いよ。何の策も無いまま出てくる訳ないじゃない」


 恵の声と共に立花の近くの何もなかった空間に現れたのは一彦だった。

 この仕掛けは至って単純で、恵が使った魔法は「幻影」。一彦の姿が見えないように魔法を使っていたのだ。

 この「幻影」は澪が模擬戦で使った魔法だが、流石は「七元素」と言うべきか恵の方が完成度が高い。素早く動く一彦の位置に応じて魔法を組み立て、敵味方関係なく魔法を使っている事を悟らせない技術力は見事なものだ。


「さあ、皆。反撃開始よ」


 再び戦いの幕は上がる。

カタカナの所読みにくいかもしれないけどごめんなさい

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