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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校入学編
26/101

怪物

 暗闇の中、対峙する2人。

 闇に目が慣れ、それぞれの目には敵の姿がはっきりと映る。


「お前が『異例者』か」


「そう言うお前は結城蒼真とかいったな。『副元素』でもない割には優秀だそうじゃねぇか」


「どうして俺のことを知っている?」


「答える義理があるとでも思っているのか?」


 蒼真の質問に答えず、「異例者」は走り出す。走りながら、背中から生えてきたのは多数の触手。その触手が蒼真へと伸びる。

 しかし、その黒い触手が蒼真に触れることはなかった。何故か「異例者」が途中で止めて、体に戻したのだ。


「どうした。攻撃してこないのか」


「……おい。その目、その殺気……」


 ありえない、という風な顔を見せる「異例者」。その目は見開かれ、呼吸は荒い。

 蒼真が放つ殺気。それはどんな刃物より鋭く、空気が振動しているかのような錯覚を与えるほどの強いものだった。


「……一体、その歳で……何人殺してきた?」


「……」


 今度は蒼真が黙り込む。

 黙り込んだ彼はまだ動かず、次に動いたのはまたもや「異例者」だった。

 繰り出された触手は、今度は止められることなく蒼真へ伸びる。それらを全て受け流し、「異例者」へ蹴りを入れるが、腕と触手に受け止められてダメージはさほど入らない。

 そうして動きが止まった蒼真に、再び触手が襲い掛かる。今度はその中の2本を蒼真は掴んで捕らえた。


「何!? どういう事だ?」


 触手を掴まれた「異例者」が、急に力が抜けたように膝をつく。


「俺の力が……」


「1つ教えてやる。人の内側には魔力が流れている。俺の能力では人体深くの魔力までは操作できないが、お前の触手なら話は別だ。この触手は魔力が表面に流れている。人に作られたが故の欠陥というべきか」


 見ると、蒼真の手の周りがぼんやりと青く光っている。「異例者」の魔力を発散させているのだ。


「ふざけるな……。欠陥だと……。勝手にこんな体にされている俺のことなど、お前に理解できないだろう! 普通に生きることのできるお前には!」


「そうだな。()()()体を作り変えられたことはない。だがな」


 蒼真は、鬼人化して白くなった右腕を見せつけた。


「普通には生きられないさ。俺も、明るい世界を堂々と歩いていれるような人間じゃない」


「お前も裏社会の人間か。なら、俺の目的を邪魔しないで貰おうか」


「そういう訳にはいかない」


 蒼真は腕を鬼人化したまま、半身の構えをとる。


「仕方ない。この手は使いたくなかったが……」


 そう呟くとだらりと「異例者」は手を垂らし、その状態のままさらに多くの触手を背中から生やした。


「闇斎を滅ぼすためならば、俺は悪魔にだって魂を売ってやろう!」


 黒かった触手が青色に光り、全ての触手が魔力を放出しながら破裂した。


「ガァァァァ!!」


「な、何だこれは!?」


 苦しみ、叫びながら体が変化していく「異例者」の姿は瞬く間に巨大になり、人の形を保っていない。まさしく怪物となったその目は、完全に白目を剥き正気を失っている。

 敵の変化に珍しく本気で驚いた蒼真だったが、身体の異常、そして意識を失い暴走するという状態を起こす術をひとつだけ知っている。


 そう、「鬼人化」である。


「闇斎……。どこでその術を知った!」


 鬼人化がもたらすリスク。それを誰よりも知る蒼真だからこそ、闇斎家に向けた怒りは大きかった。

 そんな蒼真の感情も感じ取れない暴走した「異例者」は、魔力のこもった蒼真の肉、血を求めて腕を振り下ろす。

 その巨大な腕を、全身を鬼人化させた蒼真が受け止める。


「グルァァァァ!!」


「無駄だっ!」


 相手との大きな体格差を利用し、蒼真は「異例者」の懐へ入り込み胸に強烈な一撃をくらわせた。

 血を吐きながら壁に激突する「異例者」。その衝撃でこの黒い空間を作り出している蒼真の魔法「観測不能(シュレディンガーズ)の黒箱(・キャット)」が少し揺らぐが、破られるほど彼の魔法はもろくはない。


「グ、ガァァァッッッ!!」


 魔力をほとんど失い、ダメージを受けているにもかかわらず「異例者」はまだ立ち上がる。暴走していると死ぬまで戦い続けるのかもしれない。


「もうやめろ。俺もお前を死なせたいわけじゃない」


 蒼真が暴走する「異例者」を諭そうと話しかけるが、正気を取り戻す兆しも見えない、

 魔力を与えれば元に戻るかもしれないが、澪がいない今、魔力を分け与える手は使えない。「異例者」が触手を出していないので、蒼真であっても彼の魔力を操作する事はできない。

 それに加えて、如月に頼まれた以上「異例者」を殺す事は極力避けたい蒼真が取れる手は、ほとんど残されていなかった。

 無傷で無力化する術。8番——月読(ツクヨミ)だ。

 数ある術の中でも、特殊な術の1つである幻術である。

 ただ、問題は正気を失った相手に通用するかという事だ。


「試してみるしかないようだな」


 蒼真は手のひらに月読の魔法陣を完成させ、向かってくる「異例者」と距離を取った。

 そこから勢いをつけて飛び上がる。月読を完璧に発動させるには相手の頭に触れる必要がある。しかし、巨大化した「異例者」の頭の位置は、蒼真の身長よりもはるかに高い。

 そこで、飛んで狙ってみたが、


「くっ!」


 怪物と化した「異例者」の尻尾に弾き飛ばされる。

 飛行魔法を発動する事で体勢を立て直すが、攻撃を受けた左腕から血が出て制服が赤く滲んでいる。


「何!? 鬼人化を破るとは……」


 もちろんただの攻撃ならば、蒼真は血が出るような傷は負わなかっただろう。暴走した「異例者」は無意識のうちに魔素、魔力を吸収している。そのため、蒼真の鬼人化が乱されて防御力が下がってしまったのだ。


「勝手に魔力を吸収しているのか。ならば澪がいなくても魔力を与えれるか」


 蒼真は鬼人化を解き、式を破壊した時のように魔力を手に集める。ただし、前回と異なるのはその規模が何倍も大きい事だ。

 そしてその魔力弾を「異例者」に放った。

 青い流星のように尾を引く光が「異例者」に吸い込まれていく。


「さて、これでどうだ」


 魔力を吸収した「異例者」は体が一回りほど小さくなったが、まだまだ人のサイズよりは大きい。そして意識がはっきりしていないものの、彼の目は蒼真の姿を捉えている。


「やっと起きたか、『異例者』」


「何故……俺を殺さない……」


 虚な目のまま、小さな声で「異例者」は尋ねた。

 その声には、怪物の姿のまま生きている自分への驚きが感じられる。


「お前の事を大切に思って待っている者がいるからた。そいつが信じているなら、俺はその思いに応えたい」


「なるほどな、あいつが……」


「異例者」の脳裏には如月の姿が浮かぶ。幼く無邪気に笑う如月が、凛々しい青年に成長していくのを誰よりも見たかったのは「異例者」その人であろう。


「……悪いが俺の力では、この体をコントロールできない。なんとかしてくれないか?」


「任せておけ」


 蒼真の右手には月読の魔法陣、左手には炎を纏わせる「炎拳(フレイムブロー)」発動させている。

 そのまま腰を捻り、左手を振り抜く。

 蒼真の渾身の左ストレートは「異例者」の両腕と尻尾のガードを破壊した。

 飛び散る肉片の間を抜け、再生に手間取っている「異例者」の額に右手を当てて、月読を発動させた。


「一旦休め。すぐに迎えに行く」


 蒼真の言葉が届いたのか、目を閉じて眠る「異例者」。その顔には先程まで蒼真に向けていた殺意などは無く、体も徐々に元に戻り始めている。


「まさか、鬼人化する羽目になるとはな」


 蒼真は「異例者」が完全に元の姿に戻るのを確認してから、闇斎家の行った実験の痕跡を探して「異例者」の身体を彼の「目」でよく見た。


「なるほど……。これは……」


 蒼真が見たものは確かに鬼人化に似た魔法陣だったが、根本的なところは全く別のものだった。

 鬼人化の魔法陣は結城家の血があって初めて完成するものだが、「異例者」の魔法陣は魔力の根源と融合する事で魔力さえあれば暴走しないように改造されているのだ。

 暴走へのハードルを低くする事で、意志を奪った後にその魔法使いを操りやすくする策だろう。


「やはり、闇斎家を見過ごすわけにはいかないな。奴らをおびき寄せるために手伝ってもらうぞ、『異例者』」


 蒼真は「異例者」を担ぎ上げると、「観測不能の黒箱」を解除し、未だ戦闘が続く校門へ降りて行った。

登場魔法

・観測不能の黒箱ー闇属性の魔法。外から干渉不可能な異空間を作り出す。


・月読ー術8番。触れた対象に幻覚を見せ、体の自由を奪う。


・炎拳ー手や腕に炎を纏わせる。

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