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鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校入学編
25/101

襲撃

 翌日の朝、東京には珍しく雨が降っていた。

 この時代、魔法で天候を操ることなど容易にできるが、天候に関しては過度な干渉はしないことが決められている。もちろん、巨大台風や干ばつなどの異常気象の場合はその限りではないが。

 そんなどんよりとしたお昼過ぎ。突然それは起こった。


 轟音と共に空間を振動が駆け抜ける。窓ガラスがガタガタと音を立てる。

 授業中で静かだった廊下には、女子生徒の悲鳴がたちまち鳴り響いた。


 その時、蒼真をはじめとした1-Aの生徒は完全防音、完全衝撃吸収性のある魔法演習室にいたため、誰も爆発には気づかなかったが、蒼真の元へ届いた恵の緊張感に溢れた連絡と、今まで集めてきた情報で、彼は全てを理解した。


『蒼真君! 今この学校が、テロリストに襲撃されてるの! 先生達だけじゃ人手が足りないから協力して!』


「わかりました。それで、そのテロリストは今どこに?」


『裏門と正門を塞がれてるわ。生徒は一番奥の講堂に避難させることになってるから。任せたわよ』


「はい。会長もお気をつけて」


 通信を切ると、クラス全員が蒼真に注目していた。

 授業中にも関わらず、生徒会長から連絡が来るくらいだから何か重要なことだと思っているのだろう。


「静かに聞いてくれ。今、この学校はテロリストに襲撃されている」


 蒼真の発言にざわめきだすクラスメイト達。ある生徒は不安がり、またある生徒は冗談だろうと軽視している。


「静かに、と言ったのが聞こえなかったのか?」


 重みのある彼の一言で、たちまち静まり返る演習室にはテロリストへではなく、蒼真に対しての緊張感が走る。


「まずは、全員講堂に避難する。移動する時は、志乃と澪の指示に従ってくれ。次に不知火、お前は俺に着いてこい」


「なぜ貴様の指図を受けなければならない! 貴様に何の権限がある!」


 蒼真の指示には従いたくはない炎珠が反抗してくるのは、彼の想像通りだ。


「お前の火属性の魔法は、人を守るより相手を倒す方に向いている。なら、講堂まで行かせるより、テロリストにお前の魔法で対抗する方が良いに決まっている」


 実際に蒼真は炎珠が放った魔法を見ている。このことが蒼真の言葉により一層の説得力を持たせた。

 不服ながらも、冷静になった炎珠は蒼真の指示を聞き入れる事にした。


「自分もそっちに着いて行こうか?」


 完全に蚊帳の外となっていた直夜だったが、おもむろに尋ねた。

 直夜のこの質問には2つの意味がある。

 主人と離れずに一緒にいた方がいいのか、そして対テロリストへの駒として、戦闘能力のある自分が行った方がいいのかというものだ。


「いや、いい。お前は澪と志乃を支えてやってくれ」


「了解。そっちも気をつけてな」


 直夜は頷くと、既に避難を始めている澪達の方へ走って行った。


「ふん。役に立たないやつを切っていくのが貴様のやり方か」


 演習室に残った炎珠は蒼真に背を向け、皮肉めいた口調で言った。


「役に立つ立たないは俺が決める。お前が知らないだけで、あいつの実力はかなり高い。魔法使いの能力はな、『名前』だけじゃ決まらないぞ」


 蒼真は炎珠の発言に、完全に「副元素」を皮肉り返す挑発的な態度を見せた。


「行くぞ」


 歩き始めた蒼真に聞こえる大きさの舌打ちをした炎珠は、渋々と彼の後ろをついて部屋から出た。

 そのまま移動しようとしたが、部屋の外は非常事態で慌てふためく生徒であふれていた。


「チッ。進めんじゃないか」


 人の波の中進めず、立ち往生している炎珠を置いて蒼真は窓の方へと駆け寄った。


「こっちだ。急げ」


 そう言うと、蒼真は窓を開けて飛び降りた。

 そのまま地面へ急降下——とはならず、彼の体は宙に浮いたまま停止している。

 魔法使いを重力から解き放つ、飛行魔法である。

 飛び始めた蒼真に少し遅れて、窓へとたどり着いた炎珠も宙へと体を投げ出した。

 2人が飛んで向かった先は正門。裏門ではなく、正門を目指したのは、蒼真が大きな魔力——「異例者」の魔力を正門近くに見つけたからだ。

 その魔力は、他の魔法使いとは異なる異常なものだった。

 いろいろな魔力の交じり合った、どす黒い魔力が体に留まらず、溢れ出ているのだ。

 そんな妙な魔力の観察をしている間に、気がつけば蒼真達は正門近くで戦う香織達の上まで来ていた。


「俺達も加勢す——」


 するぞ、と蒼真は後ろの炎珠の方を振り返り言おうとしたが、彼は既に地面に降りて戦っている最中だった。

 蒼真も降りようと下を向くと、数人の敵テロリストが空中の彼に気づいたらしく、撃ち落とそうと銃を構えているのが目に入った。

 次の瞬間、弾丸が雨のように蒼真へ襲いかかる。しかしその弾丸が彼の体を傷つけることはなく、まるで避けるかのように軌道を変えて横へそれていった。

 飛行魔法のカラクリは、重力の操作。応用すれば質量のある弾丸の軌道変更など、容易なのである。

 弾が当たらないとうろたえるテロリスト達を、地面に降り立った蒼真は次々と素手で無力化していく。


「なんだ……。このガキ……」


 蒼真が最後の一人を気絶させてあたりを見回すと、怪我人も数人出ているが、教職員、風紀委員、生徒会役員がほぼ全員のテロリストを制圧しきっていた。


「……ふぅ。疲れましたぁ」


「立てって。会長達のとこ行くぞ。って、蒼真君。そんな所にいたのか。ちょっと、いろはを動かすのを手伝ってくれ」


 正門で戦っていた生徒会役員は、蒼真、香織、いろはの3人。恵、一彦は裏門で戦っている。

 だらだらしているいろはを見ると、本当に戦っていたのかと疑いたくなるが、仮にも彼女は「副元素」の1人であり、実力は確かにあるのだろう。


「会長達もまだ戦ってるかもしれないだろ。アタシ達も行かなきゃ」


「その必要はありませんよ」


 その声の主は立花だった。


「裏門の方も終わったらしいです。お疲れ様でした」


「やっと終わったんですねぇ」


 ほっとした表情になったいろはにつられて、香織、立花も表情を崩す。

 しかし、蒼真の目にはしっかりと敵の姿が映っていた。


「まだ終わってないみたいですよ」


 蒼真の声で、一同は皆一斉に正門の方に視線を向ける。その先で悠々と校内に侵入して来たのは、眼鏡と金髪の二人の男だった。


「変わんねぇな、この学校」


「そうですね。変わったのは私達の立場くらいでしょうか。ねぇ、立花さん」


「……あなた達が事件の黒幕でしたか。(まき)、それに稲沢(いなさわ)……」


 睨みつける立花をさほど気にするようなこともなく、侵入者達は余裕のある様子を崩すことはない。


「我々が黒幕? それはちょっと考えが浅すぎるんじゃないですか?」


「稲沢の言う通り、俺たちだけじゃあこんだけの人間も、武器も調達できなかったんだよなぁ。悔しいが、全部リーダー様のおかげなんだよ」


 牧、稲沢はそう言うと、上を見上げた。

 そこへと飛んできた黒い影は、紛れもない「異例者」その人だった。

 そのまま「異例者」は彼らの頭の上を越えて校舎の方へ向かっていく。


「悪いが、止まってもらうぞ」


 誰もが「異例者」を止める事を諦めそうになる中、蒼真は空へと飛び出した。

 そして「異例者」の元まで一気に近づくと、彼らの体は突如空中に現れた黒い箱の中へと消えていった。

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