表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼の魔法使いは秘密主義  作者: 瀬戸 暁斗
魔法高校交流会編
101/101

アサルト・ボーダー決勝戦①

 交流戦もとうとう最終日。アサルト・ボーダーの決勝戦を前に、未だに前日の「七元素」——土岐岳の敗北が島中の大きな話題となっていた。

 観客目線の映像では、最初から最後まで戦う選手の姿が映ることなく、盛岡校が全てのキューブを保有することで決着がついていた。試合後に発表された情報は、横浜校と熊本校の選手のみが負傷しており、大阪校と盛岡校との間には争いがあった痕跡すら無かったということ。

 当事者である学校の大将の2人共が、試合での出来事を全く語ろうとしなかったため、部外者が知れることはほとんどなかった。ただ盛岡校が勝利し、大阪校が敗北したということ以外は。

 だが、「七元素」の2度の敗北というものは負けた岳自身だけでなく、他の「七元素」の面々にも影響を及ぼしていた。

 社会のあり方に疑問を持っていた光の「七元素」——光阪恵。彼女は後輩である蒼真に対して、対戦する「七元素」に勝利するよう依頼していたが、思わぬところで鞍馬崇という強者が現れたことに驚きと同時に今後の彼女の計画に彼を組み込むことができるか策を巡らせていた。

 第3者として2人の「七元素」が出場するアサルト・ボーダーを観察していた風の「七元素」——東風涼。彼がこの交流戦で戦った中での最大の強者は、白鬼の従者である直夜であり、勝利はしたものの彼の魔法は1度受け止められている。それに加えて涼や岳の試合を分析し、「七元素」以外の魔法使いであっても、急激なレベルアップが生じていることをひしひしと感じさせられた。

 この交流戦において最も岳と近い立場にある雷の「七元素」——雷電刹那。「七元素」としての責務やプライドを背負って生きてきた16年。彼の周りにいたのは彼らの一族を讃えるものばかりで彼の思考は偏っていた。そこへ現れた自分を上回る強者。「無元素」だとみくびっていた相手に「敗北」の2文字を目の前まで突きつけられ、価値観をひっくり返された。

 また、この場にいない「七元素」の当主や一族の魔法使いも交流戦の映像を見て、危機感を募らせていた。特に「無元素」の中で異常とも言えるほどの活躍が見られた学生は密かにピックアップされ、その処遇を各々が模索し始めていた。

 それぞれがそれぞれの思惑で動き始めているが、その前に肝心のアサルト・ボーダーの決勝戦が待ち受けている。

 刹那の対戦相手として、「七元素」をはじめとした多くの人々の注目を集めているのが東京校の大将、赤木一彦と副将の結城蒼真だ。

 蒼真は今回の交流戦で岳を倒すという金星を上げており、話題性が高いのは当然と言える。対して一彦は、戦いを共に行動していた遥人や炎珠に任せて目立った活躍はしていない。だが1、2年生の時に参加した交流戦での実績や、4月の事件の際に恵から「七元素」に報告された彼の大規模魔法など、彼を警戒すべきという声は知らないうちに少しずつ大きくなっていた。

 交流戦前までの評価では、雷電刹那という圧倒的な個の力で敵を撃破する名古屋校と、メンバー全員の総合力でキューブを守り勝つ東京校という、逆の戦略を練ってくるものだと思われていたが、蓋を開けてみればどちらも強い駒を中心に戦いを展開していくという似たタイプのチームだった。

 その2校が決勝戦という大舞台でついに相見える。どちらのチームも強敵を撃破して勝ち残ってきた強豪であり、多くの時間を割いて相手の情報を分析してきた。そこに油断は全く無い。

 集中力を高め、静かに闘志を燃やしながら試合開始の合図を待つ。各チームの待機場所を含めた、フィールド全体の地形を変える魔法が効果を発揮し始め、彼らの姿を白い光が覆い隠した。


『今年度の交流戦も、残すところあと僅か! それでは、アサルト・ボーダー決勝戦の開始を告げる10カウントです!』


 アナウンスが会場全体に鳴り響き、それに呼応するように観客席全体から大声でのカウントが始まる。


『10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1! アサルト・ボーダー決勝戦、スタートです!』


 * * *


 地形変化の魔法による白い光が晴れ、フィールドの全容が明らかとなる。

 アサルト・ボーダー決勝戦の舞台は「平原」。膝丈にも満たない草花が生い茂る平坦な地形だ。身を隠せるようなものは、数本の木と点々と配置されたキューブしかなく、実質逃げ隠れすることはできない。

 東京校と名古屋校の待機場所の間に障害物はなく、互いにチーム全員の姿が曝け出されていた。その中で、蒼真はなぜか刹那と目が合ったような感覚に陥り、1歩彼の方へ踏み出す。


「待て、結城。そう急ぐな。元々の作戦では、お前と雷電のマッチアップを援護する手筈だったが、あまりに地形が不利すぎる。奇襲もなく、正面切って戦うつもりか?」


「もちろんです。これは俺に売られた勝負ですから。どんな状況でも、逃げることは選択肢には無いですよ。それに、雷電1人に力を入れていたらきっと負けてしまう。特に、あの美鳥はかなりの策士ですよ」


 名古屋校は準決勝で崇率いる盛岡校と対戦したが、刹那と崇が勝負をしていた間、チームを指揮していたのは美鳥玄之介だった。1年生ながら、刻一刻と変化する戦況を見極めるその姿は、刹那に隠れているものの実力者の片鱗を垣間見せていた。


「……わかった。俺達はポイントを取ることを優先する。だが、お前も戦況が厳しくなったならすぐに引け。副将をみすみす失うわけには——」


「話はそろそろ終わりましたか?」


 東京校チームが作戦の手直しの為に、名古屋校チームから気が逸れた僅かな時間。だが、その僅かな時間さえあれば雷の「七元素」は力を発揮する。7属性のうち最速の魔法、それが雷魔法である。


「じゃあ行こうか。邪魔されるのはお前も嫌だろ」


 蒼真達6人の意識の隙をつき、瞬く間に彼らの目の前に現れた刹那は、今度は消えるように蒼真を連れ去っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ