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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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51 始まりの始まり(4)


3月の終わり、町長であるテオの講義を受けたシュウ達は学校の卒業を迎えていた。


光陰矢の如し。誰もが、長いようで終わってみれば、とても短く感じるだろう。だが、振り返ればそこには、語るにはとても多くのそれぞれの思い出ができているだろう。


この町ではほとんどの学生は親と手伝いだったり、なにかしらの労働の二足の草鞋の生活をしなければならなかった。何せどこも人が足りていないのだ。

ともなれば現代の学生に比べると遥かに学生生活は短く感じたであろう。


シュウ達学生はほとんどが18歳となり、めでたく卒業である。

とはいっても、この学校には卒業式という大それた行事はない。ただ登校の最終日というだけで、それぞれ仲の良かった生徒同士や教師に挨拶や最後になるかもしれない会話を交わしていき、それぞれの流れで解散という少し味気ないものである。


学校側も学校側でこのあとすぐに新しい学生の受け入れの準備で忙しいのだ。町としても新しい労働者が喉から手が出るほど欲しくてたまらなく、学生にとっては半ば、ところてんの押し出し方式のようにドライであるのだ。


町と言ってもこのレナトスは広大である。殆どの卒業生がこの町で働くことになるがそれでも今生の別れになることも少なくはない。誰しも、多かれ少なかれ、このささやかな一日を特別には感じずにはいられないだろう。


この日の授業はなく、全校生徒が各々、校内外問わず、自由に歩くことができる。

シュウとサニーはある程度時間を合わせて学校の外の広場で待ち合わせをしていた。


「シュウ。先生との挨拶は済ませた?」

「ああ、簡単にだけどな」

「友達とは?」

「そこまで仲がいいやついねぇし」

「後輩とは?」

「……」


おまえは俺の母ちゃんかとバツが悪い表情でシュウはサニーに相槌を打つ。

俺ってあんまり知り合いいなかったんだな……


シュウは少し涙ぐみながら肩を下ろし、サニーはそのいつもより小さくなった背中をよしよしと撫でていた。


そんな中、その二人を見つけたヴィダルが合流した。


「やあ、二人とも、もう挨拶は済ませたの?」

「……おう」「ええ」

「なるほど、いやぁそれにしても今日は人が多く感じるね。そういえば、オルフェは?」


ヴィダルとシュウは顔を見合わすとシュウは少し沈黙してある方向を指さした。


指さした先には一際騒がしい集団があった。そのほとんどが女性であの人込みの中心にオルフェはいるのだという。

けたたましいピンク色の声が周囲を包んでいた。人が多すぎてとてもじゃないがこの渦中の人物を視認することはできなかった。


「うわー、すごいねぇ」

「君もあれくらい人気だったらねぇ」

「……」


シュウの三白眼が虚空を描いた。


「いや、いいさ、俺にはお前達っていう数少ない友達がいるからサ」

はぁ、と恨めしそうにシュウ腰を落とし、目の前の集団を暫く眺めていた。

そんな中、ヴィダルが何かに気づきシュウの肩を叩いた。


「ねぇ、シュウ、そうでもないみたいだよ」

「ん?」


振り返るとそこには小さい少女の姿があった。


「シュウ先輩」

 「……あ」

 

 そこには以前、羊の放牧の件で出会ったベルタであった。

 「確か、ベルタちゃんだっけ?」

 「ええ、そうです。あの時のベルタです。いつぞやはお世話になりました。」

 「俺を覚えてくれてたのか?」

「もちろんじゃないですかぁ。あの時、先輩がいなかったらどうなってたか……。 そんな命の恩人たるシュウ先輩を忘れるわけないじゃないですか」


そう言うと、ベルタは持っていた花束をシュウに渡した。

「あの時はありがとうございました。そして、卒業おめでとうございます。先輩。」


こんな不意に祝ってもらえるとは露知らず、シュウはどう反応したらいいのか分からずがくがく震えながらお辞儀をした。


 いい雰囲気になっていると今度は遠くから大勢のシュウを呼ぶ大きな声がした。


 その方向を見ると大勢の筋骨隆々の男の集団がシュウの前に向かってきた。

 集団の中心には北壁支部隊長ゴーリキ、魚師団長オーランドの二人の姿があった。

 「た、隊長!?…と」

 「おじいちゃん!?」

 シュウとサニーはまさかの光景に驚いた。どうやらゴーリキとオーランドが自分達の仲間を引きずれてやってきたようだ。


その集団がシュウの方に向かってきた。まるでモーゼが海を割るかのように周囲の人達はその進路から道を開けた。オルフェを囲っていた女性たちもその波に攫われるかのように押し流され、引き潮でむき出しになった岩場のようにオルフェの姿が露わになった。


「あ、え?」

オルフェは状況が分からずその周囲を見回すが、気が付くとその筋骨隆々の男たちの一人に攫われ丸太を持つように担がれた。

オルフェの周りを囲んでいた女性たちは、憐れむような表情でそれを見送った。


 そのままシュウとサニーはその集団に囲まれた。ゴーリキとオーランドは二人を満遍の笑みを浮かべた後、目をカッと開き、

 「おめぇたちの花道に」

 「俺達が‼」

 「「「祝福してやらぁああああああああああああ!!」」」


 一斉に声を上げるとシュウとサニー、あとついでにオルフェは胴上げの計に処された。

 

 ははは、シュウ、よかったねとヴィダルが呟いていると胴上げをしている集団の中から一人、スッとやってきて君もドウゾとばかり腕掴まれ引きずりこまれた。

 「あ、ぼ、僕はえ、遠慮・・・・あああ、ボク高所恐怖症なんです優しくしてください!!」


 そうして俺達4人は仲良く大勢からの胴上げの洗礼を受けた。俺以外の3人はそこまで高くあげず、俺だけは兵士と漁師その鍛え抜かれた腕と腰の力をフルに使って2,30mは飛ばされたと思う。


 シュウはベルタからもらった花束を大事に抱えながら、サニーは着ているワンピースの股下を気にしながら手で押さえながら耐えていた。オルフェは案外余裕そうな感じで楽しんでいた。ヴィダルは泡を吹きながら体を一本の棒になり硬直していた。《実はこれが一番安全》

……これが、祝福か。

一人だけ何故か高く上げられているのを頭の片隅に追いやりながら、シュウは満足感に満ちていた。

 約一分間、この上下運動は続けられ、疲れたのか、飽きたのか、胴上げは終えた。


「ぶほぉあ‼」


 シュウは何故か最後の胴上げをキャッチしてもらえず地面にたたきつけられた。《絶対に危険なのでやめてください》


 残りの三人は優しくエスコートされるのであった。


そうしてこのレナトス二大筋肉集団はやりきった風に息を付きながらも満足気な表情でぞろぞろと去っていった。


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