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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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49 始まりの始まり(1)


 外から注がれる光のみに照らされる道場。静けさが広がる中、たった一人、シュウは竹刀を構えて素振りをしていた。


 父親に手ほどきを受けた型を反芻するように繰り返す。近頃はこのように竹刀を握って練習することなどなくなっていたが、今一度、自分自身の考えを整理する意味で竹刀を振る。


 これまで何度も、亜人や幻獣と戦いをしてきたが、戦いの中で、教えられた型を自分と長刀の天津風に合ったスタイルに昇華していったことをシュウは改めて感じていた。


 今は竹刀を振る音だけが静かな道場に響き渡る。シュウの頭の中で色々な思考が巡る。


 ―――亜人の遺伝子は人間と変わらない。


 町長は講義の中、はっきりと言わなかったがそれは人間と亜人が同一であるということを暗に示しているのだろう。


 今までも亜人を手に掛ける中、罪悪感はあった。だが、いざこの事実を突きつけられ、今までと同じように、戦えるのだろうか。言ってしまえば自分達の町を守るために同じ人間を殺す。人間を。俺は、人間を守るために人間(亜人)を殺しているのか…


いままで亜人のことなんか深く考えてこなかったのかもしれない…


 この先も俺は今まで通り、亜人を殺せるのだろうか?


 俺は自分の意思でこの後警備隊になるつもりだ。もちろん親父の影響もあるかもしれない。警備隊になったら、ずっとこの問題と向き合わなくちゃいけない。


 多分、この答えは早く出さないと後で取り返しがつかないことになる気がする…


 竹刀を振り続けるシュウだったがその答えは出すことができなかった。


 その後もシュウは、亜人の事を考えて竹刀を振り続ける。


 『―――殺してやる!!』

 相対するウェアウルフ達からは自分に掛けられた怨嗟の言葉は自分だけにではない。全ての人に対してだ。それは呪いのようにも感じる。


 亜人からのそんな会話も受け止めて、何度も、その命を奪った。相手を斬った瞬間の手の感覚はいつまでも消えずに残っている。


 竹刀を振るシュウの手も若干の震えが出る。


 ―――今まで、そんなことを繰り返し、亜人とまともに話等通じないと自分自身が思っている中、あいつが現れた。


―――《アルバ》、あの巨体のウェアウルフはなにか違っていた。―――そう、あいつとは初めて、亜人とまともな話ができたような気がした。


 『よう、若いの、おまえさんもこのリンゴ目当てできたのかい?』

 『はぁ~~~、教えちゃくんねぇかよ。・・・・・・そうだシュウ君よ。いっちょ勝負といかねぇかな。チャンバラごっこってぇやつだ。』

『よっしゃ、決まりだな、ではいっちょ・・・・・・お相手願おうか!!』

 

……言葉は乱暴だったが、不思議とあいつと話していて嫌な感じではなかった。


 しかし、あいつとの勝負に負けて、戦いの中で本当に、死の恐怖を覚えた。

 ……なんであいつは俺を見逃したんだろう? 本当にあいつは単純に勝負を挑んだだけだった? どのウェアウルフが人間に対し恨みを募らせているのに、その親玉がそうでないわけがない…

 

 ただ、アイツが俺に投げかけてくる言葉に、そんな感情(恨み)はなかったようにあの時は感じたが…


 アルバ…あいつは一体なんだったんだろうか…


 アルバに対して複雑な感情を持ったが、それと同時にもう負けたくないという感情が勝り、竹刀に力が入る。


 ふと、父親であるカイとの剣道での稽古の思い出がシュウの中で蘇った。


 ◇ ◇ ◇ 


 『さあ、シュウ、今日は父さんが連続99勝目だな。せめて1本くらいはとってほしいな』


 『うるせー!! 子供相手なんだから手加減しろよ!!』


 『手加減したら、稽古にならないだろ? もう一戦で飯にするか。……いいか、シュウ、次は父さんの必殺技でいくからな? 覚悟しとけよ』


 『…ああ、よくわかんねーけどやってやんよ!』


 この二人は終日打ち合っていた。シュウは一度もカイに1本が取れず、逆に撃ち込まれ過ぎてすでに満身創痍になっていた。防具は着けていたが、全身に鈍痛が走っていた。


 お互いに竹刀を構える。カイは自分の合図と共にシュウに迫ってきた。


 今日のカイは執拗に上段攻めできていた。シュウはこの最後の勝負もやはり上段で来ると見込んでいた。

 カイはやはり上段から竹刀を振り下ろしてきた。これまでの連戦だろうか振りが遅く感じた。

 いままで散々頭に竹刀を受けていたシュウはこの速さなら受け止められると判断し竹刀を構える。次の瞬間、いままでカイは見せたことがない速さで竹刀を手前に引き込み、横なぎに変化させてきた。


シュウはその変化に対応できずに中段に大きな隙をみせてしまった。そこをカイは逃さずにシュウの横っ腹に竹刀を浴びせた。


『どーう!!』

『ぐっ!!』


竹刀を浴びせられたシュウはしばらく動くことができなかった。


『はっはっはー、これが必殺『フェイント』だ。上段の攻撃ばかりに慣れすぎておもしろいように決まったな。これで父さんの全勝だな』

『くそー、なんか卑怯だぞー…しかも必殺がフェイントって…』

『卑怯~? こういう読み合いも騙し合いも戦法の一つだぞ。いいかシュウ、戦いには運動能力だけじゃだめだ。それをどう使うか頭も鍛えないと強くはなれないぞ~。相手の思考心理を読み、自分が使える手筋を考えてどうすればいいか瞬時に判断できることが戦闘を有利に進めることができる第一歩だ。』


『く~~……そんな戦いの瞬間なんかに考えなんてできねぇよ…』


 横っ腹の一撃に手で押さえながらシュウはカイの話を痛みの中聞いていた。


『シュウも慣れてくればそんなことないさ、さて、お腹も空いたことだし飯にすっか。…100連勝もしたし、今日はおまえが作ってくれよな』


 『くっそー、なんでだよクソ親父…そこは負けて悔しいだろうから自分が作るんじゃないのかよ…』


 ははははと笑いながらカイは爽快に道場を歩いて出ていった。


◇ ◇ ◇


 シュウは改めて竹刀を構える。目線の先には襲い掛かってくる巨漢のアルバを想像する。


 想像しただけで、あの時の恐怖を覚える。この巨体からの力と速度。普通に考えても勝ち筋が見えてこない。


 …相手の思考を考える。自分の一手を考え、想像した相手(アルバ)と打ち合う。


 そうした打ち合いを何十回も繰り返したが、シュウは勝てなかった。


 「はぁはぁはぁ……」


 想像した相手(アルバ)との打ち合いだったが、やがてシュウは疲労で膝を付いてしまった。


 勝てないのだろうか……いや、そこであきらめるな。クソ親父にも言われたことだ。力や速度では絶対に勝てないのはしかたがない。頭を使え。考えることをやめるな。


 シュウは再び立ち上がり、目を瞑る。そして、荒れていた呼吸を整える。


目を再び開け、目の前の想像した相手(アルバ)と相対する。


この巨体にどう立ち向かう。わずかな隙は……


想像した相手(アルバ)がシュウに向かっていき、それをシュウは凝視する。その巨体の懐に、僅かな光明()を見つける。シュウはそれを気取られることがないように構えを取り、相手の攻撃に合わせ、竹刀を振りかざした。


一戦を終えたシュウは、道場に仰向けに寝転んでいた。息は上がっていたが。その表情は満足した表情になっていた。


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