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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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43 問われる歴史(5)

 未知との遭遇


 《サーキュロン》での人々の暮らしは平和とも呼べるものであった。

 まだ、通信機器が生きている間は、世界中の戦争の情報を、《月》や、《クライオスフィア》とのやり取りを行っていた。どこと通信しても、悲痛な叫びや訴えが来るばかりであり、サーキュロン側では何もすることはできなかった。

聞くに堪えない通信も、年月が過ぎると、やがて絶え絶えとなっていった。それは通信機器の故障だったり、通信している相手自体がいなくなっていったからである。

 

 《サーキュロン》に住む人々は、世界の戦争が終わったあとも滅んだ世界を見ようとはしなかった。

外界は汚染され、過酷な環境において再び人類が繁栄できることはないだろうというのがこのサーキュロン内で研究者が出した見立てであった。

 この人工島で、少ない人類が出した結論はこの島で慎ましく生きていくことだった。

 半永久的に自己循環できる設備が壊れない限り、とりあえずの生活の保障が約束されていた。

 

 そうして幾世紀も年月は流れ、人は何世代もサーキュロンの中で世代交代をし、古い歴史はサーキュロンのデータベースに残されたものだけになっていた。人々の記憶には本当の意味での戦争の記憶もなくなり、人々はこの人工島の生活が当たり前の人生観となっていた。

 そのころには世界の環境汚染は大分収まりを見せていたようだが、この島を出ようとは、もはや誰も思う者はいなかった。この小さい世界だけが自分達の居場所なのだと誰もが思っていた。


 西暦で言う9000年が経とうとしていた。サーキュロンでは設備の老朽化が深刻にはなっていた。人々はなんとかこのシステムの保全をして、自分達の生活を守ろうとしていた。

 

 そんな中である。すでに人々はこの島以外は忘れて去られている中、外界からの未知とも呼べる遭遇が起きたのは。


◇ ◇ ◇


 サーキュロンでの食料確保は島内で育てられた穀物が主であったが、他には島沿岸での漁も行われていた。

 ある日、漁の真っ最中に漁師は沖合に小さく波立つ影を見つけた。

 最初はイルカかなにかと思ったがそれは段々と自分がいる浜辺へと近づいていき、《それ》は魚影ではなく人のようだと認識を改めた。

 漁師は奇妙だなと感じてはいた。この絶海の孤島周辺は波が激しく、遊泳することすら考えが及ばない。それは島で住む人達の常識であった。

 漁師は仲間達を集め、海上に見える影を知らせた。


―――やがて《それ》は浜辺に迫り、漁師達にもハッキリと見えた。


《それ》は波打ち際からゆっくりと、浜辺に2足歩行で漁師の前へと歩いてきた。

 

 シルエットは人間そのもののである、しかし、至る所にそれは魚のようにヒレが付いており、泳ぐのに適しているようであった。体表は鱗に覆われており、青緑色をしていた。


 漁師達はその異形を目に、恐れをなしていた。―――何者なんだと、意思疎通を試みたが、《それ》からは返答がなかった。


 会話がない。沈黙した数分の緊張の後、《それ》は目をぎょろんと目の前の漁師に向けた。そして叫び声をあげながら、目の前の漁師に向かって襲い掛かった。


 一瞬の出来事だった。―――《それ》は人を超えた凄まじい腕力で漁師を締め上げて殺した。周りの漁師は何が起きたのかを判断できた時には遅かった。


 漁師達は恐怖しながら、持っていた銛で応戦をした。被害は3人、島内にも助けを呼び、数十人で《それ》をやっとの思いで殺した。


 

◇ ◇ ◇


 島中にこの話題は瞬く間に広まった。自分達の知らない海の外にこのような人の形をした化け物がいることに。恐怖は伝播し、人々は未知なる存在に怯えた。


 少しでもこの存在を調べる為に、今回の殺した《それ》は死体となってしまったが、徹底的に調べられた。


 大まかな外見だけでいえば、人間と非常に似ていたが魚に近い特徴を持つことから、《それ》を古代の歴史からの伝説からなぞらえて《マーフォーク》と命名された。


 そして、最終的に調査が終わり、研究者が驚愕した事実があった。それは、人間にない特徴を持つにも関わらず、遺伝子は全くの人間と同一のものだった。


―――それは人類が初めて亜人と接触した出来事であった。


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