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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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38 転機(6)


15年前


カイは臥せっているエリンの傍で胡坐をかいて座っている。傍には赤ん坊のシュウが何事も無いように安らかに眠っている。


妻であるエリンは憔悴しきっていた。妻の負担にならない程度にカイは話をかけ続けていた。・・・お互いに話せる時間が残り少ないと感じていた。


 「思えば、あっという間の出来事だったな。あの店でおまえを見つけて。連れ去るように一緒にこの町に戻ってきて。シュウが生まれた」


 「ふふ、そうね、あの時は本当にいきなりでびっくりしちゃったわ。」


 「あの時は看板娘を取られて、店主も常連客もさぞ慌ててたよな」


 「ええ、・・・・・・でもいずれにせよ、ずっとは働けないって分かってたもの。あそこで働いている内は元気だったからよかったけれど、・・・昔からお医者様にも言われてたもの。長くは生きれないって。


 ・・・でも、そんな私の身の内の話を聞いても、あなたは私を受け入れてくれた。私との短い時間を一緒に過ごしてくれただけで、うれしかった。ありがとう。短かったけれど、この町に移り住んでからの生活も楽しかった。」


 「ああ」


 「あなたとシュウと・・・もっともっと一緒にいたかったけど・・・残念。」


 「ああ」


「よく、あなたの冒険譚を聞かせてくれたっけ。シュウもあなたと同じように天真爛漫に自由奔放になるのかしら。ちょっと心配。あなたも私がいないとてんでダメなんだもん」


「はは、・・・将来は分からないけど、元気には育ててみせるさ。心配なんてかけないさ。君がどこかで見てると思って俺も・・・」




 エリンはそっとカイの手に触れる。そしてゆっくりと顔を見る。


昔話してくれたじゃない。


きっとあなたは、私がいなくても、これからも自分の夢を追うのでしょう?


私も、あなたの夢の実現を信じている


 今際の際、カイとエリンの間の空間が淡く光輝きだした。


 光は徐々にそれは輪郭が形取られ、カイの手にもたらされた。


まるでそれはエリンの祈りが形になったように。



 ◇ ◇ ◇



レナトス、町議館

深刻な面持ちで議会メンバー、そして警備隊の各隊長がしている。議会の出席者に外部の者が参加するのは異例である。


議案として、最近のウェアウルフ達の被害増大についてである。


「北壁では特に被害が大きい・・・ことにアスンシオンとの主街道が狙われております」

北壁警備隊隊長のゴーリキが深刻そうな面持ちで答える。


―――アスンシオン、レナトスから遥か北にあるこの大陸最大の都市である。

レナトスからは食料の輸出、そしてアスンシオンからは他の町から集められた資源等の輸入を盛んに行っている。レナトス北壁からはアスンシオンへの主要街道が引いており、往来の頻度は町一番であった。必然的に北壁周辺での亜人からの主な被害は輸送関係であった。

交易ややむを得ない仕事関係以外、一般人がレナトスから外へ出るには町の許可が必要である。


「しかも、守りがたい北壁からある程度離れた所での強襲が目立ちます。我々の今いる人員ではとても足りません。街道を通る人数をある程度隊商を組んで護衛をつけるにも限界があります」

ゴーリキは掲示してある黒板にチョークで絵をかきながら説明を行う。スキンヘッドで筋骨隆々のこの男は外見に似合わず知的である。


「アスンシオンからも暫くの間、お互いの往来を控えようという話も出ております。・・・人の被害もそうですが、輸送関係の物資がことごとく壊されております。」

町議の一人が発言した。


「特に、ここ最近街道の襲撃に際し、巨体のウェアウルフが出現するという情報があります。こいつが厄介でこの1体のみで輸送団が壊滅してしまったという事例もあります。この個体はウェアウルフの中で集団を指揮している一人だと考えております。・・・不甲斐ないですが、北壁警備隊はこれに対して打開策を見いだせていない状況です」

ゴーリキは重々しい表情で発言した。それを聞いて、ゴーリキと同じくらいの引き締まった体格でゴーリキよりも若干若い、40代ぐらいの男―――西壁支部隊長ケインも続ける。


「・・・西壁でも被害が増えております。老朽化し弱くなった所の壁を執拗に狙われることや、西壁の外は草原ですが更に西は広大な森が広がっております。そこへ豊富な木材資源の確保に出ている林業関係の人員も局所的に襲われる被害が多発しております。・・・これに関しても以前とは被害の頻度は比べ物になりません。しかも、それに関しても強力な個体が・・・」


「というと?」


「このウェアウルフは自らを『首領クロア』と名乗っております。決まって集団で忍び寄るような手口で襲ってきます。この首領を名乗る者の特徴として、ウェアウルフではほとんど使わない得物を使用しており、多数が斬殺されております。・・・しかも我々を恐れさせようとしているのか、首領の名前を我々に浸透させ数人はわざと逃がすようなこともしております」


警備隊の中でもウェアウルフの中でも統率する存在がいるだろうという予想は以前からあったが、それが初めて明らかになった。


 「現れるのが森の中というのもあるが、こいつらはかなり隠密に長けているのか、林業に従事している者たちも近づくまで分からないらしいです。・・・まあ、当たり前ですが最近では警備をつけても恐ろしくて労働者も外に出たがろうとしません。」


 町として経済活動の一部がストップすることは重要な問題点であった。もちろんいままでこの町で亜人、幻獣による被害はあったが、これほどまで、しかも1種類の亜人から受けることはこの町で初めてのことであった。

 町の人口は年々増えており、近年、町の中だけの生産活動では人口を支えることはもはやできなくなってきていた。生きるためには壁外に出て資源の確保も必要不可欠になっていた。

 

それからも話し合いは続いたが、いい案が出ることはなかった。苦肉の策であるが被害を最小限にする為に壁外の活動の著しい制限とアスンシオンから軍事の支援ができないかの依頼となった。議会はそのまま流れ解散となった。

テオ町長は側近として出席していた『御庭番』のアーチに呟いた。

 「相手が勢いずいている時は逆に隙を見せるてくるチャンスかもしれません。アスンシオンをはじめ、各地に派遣されている貴方達御庭番を一度帰ってくるように伝えてください。いつでも出れるよう、アーチさんも鍛錬を怠らないように」


 「承知しました」

アーチはそう短く答え、頷くと他の議会の参加者と同じように退席した。


 レナトスの町は数か月の間、壁外での最低限の経済活動を強いられることになった。

 食料については壁内だけでも自給率を誇っていたので、飢えの問題はそこまでではなかったが、やはり色々なものが手に入りにくくなり、生活は確実に不便となってきていた。


 一日一日を重ね、季節は徐々に移り変わっていく。少しの時間が経過し、シュウ達は学生生活からの卒業が間近となってきていた。


 


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