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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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37 転機(5)

二人が集会場へ入ると、既に幹部連中が、座りながら話をしていた。定期的な集会の日ではなかったのだが、アルバが帰ってきたということで集落の外に出ている者以外は集まっていた。誰もが、アルバの姿を見るや否や、しんと静まり返った。


その様子を何とも思わずにアルバは部屋の奥にある、いつも座る特等席にどしっと腰を下ろすと、周囲を見回した。

 

 「よし、久しぶりの凱旋だ、みんな元気にしていたか!?」


 アルバの耳に響く大きな声にも、幹部達はあまり反応がなかった。


 おいおいどうしたという様子でアルバは様子を見ていると、一人の中年のウェアウルフが恐る恐る声を上げる。


 「・・・お頭、ちょっと俺達はアンタに言いたいことがある。最近のお頭の行動には目に余るものがある。最近はまるで頭としてみんなを率いてくれやしねぇし、自分から戦おうともしねぇ。ふらっとどこかへいっちまうのもだ。・・・大衆はお頭を慕ってるものがほとんどだが、ここ数年、戦っている若者の中には不満も溜まっとる若者も少なからずいる。

・・・最近のお頭には、本当に俺達と一緒に奴らから故郷を取り戻そうしているとはおもえねぇ。俺達が必死になってる中、お頭は何をやってるんだ?」


 アルバも、そしてクロアも黙って聞いていた。確かに、クロアも父親の行動には疑問を覚えていた。


 しばらくの間、アルバは目を閉じて考えていた。周囲はざわざわと騒ぎ始めていた。


 数分後、アルバは目を開きみんなに向かって言った。


「おまえらの思いはよくわかった。すまねぇ、お前達の言うとおりだ。」


 「お頭・・・」


 「少し俺様の昔話を聞いてくれ。・・・俺が若ぇころは、俺達は人間もどきから故郷を奪われ、皆ちりじりに暮らしていた。同胞達はみんな一人一人、故郷を取り戻そうと、何も考えずにあいつらに戦っては殺されていった。バカみてぇだった。このままではあいつらからウェアウルフと呼ばれ、絶滅も余儀なくされていた。・・・そんな中だ、俺様がさっそうと現れたのは。俺様はお前達をまとめ上げ、なるべくこちらの死人がでねぇように戦うことを心掛けた。みんな同じ所で暮らせるような場所を見つけ、こうやってそれなりに生活もできるようになった。

俺様がみんなの心が一つにまとめたからこそ、・・・うまくは説明できねぇが、この集落の外には俺達以外誰もはいってこれねぇような守りもできている。それはお前たちもなんとなく感じているだろう? 自慢じゃねぇがこれが俺様のやってきた功績よ」


薄緑の帳“ハーミットヴェイル”、ウェアウルフ以外の何者をも寄せ付けないなにか―――アルバの言葉を聞いて周りの幹部達もなんとなくは分かっていた。そしてそれは、自分達が無意識に作り出しているものだということも。


ここに集まった全員がアルバの言葉に真剣に耳を傾けていた。それはクロアも同様だった。


「だが、ここ一年、俺様は確かに変わっちまった。お前達の言う通り怠けちまったのかもしれねぇ。年も取ってきたし昔のように集団を率いるような活力がなくなってしまったのかもしれねぇ。最近の俺様は、お前達の言うように頭として失格だ。


“人間もどき”の奴らの中にも若ぇ奴が出張ってきている・・・考えてたんだが、そろそろ世代交代の時期がきたんだと俺様は感じたのさ」


ざわざわと周囲が騒ぎ出す。


「・・・そういうわけで、だ。俺様は頭をやめる!! 次期頭領はクロア・・・おまえだ」

 

 「ええええええ!!!!?」

 「!!!」


 そこにいた全員がアルバの発言に愕然とし驚いた。

 

 ◇ ◇ ◇


 まったくの虚を突かれた。父親のまさかの身を退く発言。そして自分が新しい頭領になるということ。


 「ちょっとまってください父上、辞めるのもですが、俺が頭領だなど、・・・ここにいる幹部の意向も考えずにそれはないのではないでしょうか!?」

クロアは立ち上がり、慌てるようにアルバに尋ねた。

 「いや、クロアよ。俺様はもう決めたのだ。この場でお前達の思いを聞く以前から、ある程度決心を固めていたのだ。それに・・・」


 アルバは立ち上がり、クロアの元に寄った。大きい手で肩を叩き、

「おまえは若いながらも周囲の信頼も厚いし、物事を冷静に見れるタチだ。なにより俺様の自慢の息子だ。やれるだろ?」


アルバは周囲を見渡し、その拳を握りつぶさん限りに力を込めて叫んだ。

「というわけで、おまえらぁ! この俺様がこいつを推すんだ!! 頭を辞める俺様からの最後の餞だ!! 文句はねぇだろう!!?」


 「お、おぉぉぉぉおおおおおお!!!」


 全く自己中心的で無茶苦茶な説明だったが、幹部達はその勢いとアルバの心に打たれて答えた。その歓声は集会場の外まで響き渡るものであった。


 父親の性格からして、死ぬまで今の地位は譲らないだろう。その父親から出た言葉には、それなりの決心があったのだと感じたクロアも、アルバの前に跪き、静かに頷いたのであった。


 ◇ ◇ ◇


 ウェアウルフの中で、初めてのことだが、頭の譲位を行う祭りが行われることになった。集会場の前に集落に住んでいる全てのウェアウルフが集まった。集会場の前にはアルバとクロアが並んで立っている。祭りと言っても簡易なもので、アルバから新しい頭領となるクロアを改めて周知してもらうことが目的である。

 集まった者は皆、二人を盛大に祝った。アルバは言わずもがなであるが、クロアも以前から世間の信頼とリーダーとしての魅力は十分にあった。


 アルバは集まった者に対し、

「今日まで俺様に頭として慕ってくれたお前達に感謝をしたい。俺様は本日をもって、皆から認めてもらった頭領としての地位をこの男、クロアに譲る。そして、新しい頭領は必ず皆を守りぬき、より良い明日を約束するだろう!」


 アルバは腰に下げていた小太刀“勿忘草”を手に持ち、クロアの前に掲げた。

 「これは俺様からの選別だ。名前は勿忘草と言う。こいつは俺様、いや・・・ここにいるみんなの思いが込めれれていると思っていい。こいつを見るたび、頭領として何をすべきかいつも考えるんだ。」

 「父上・・・ありがたく頂戴いたします」

 

父親からほとんど物などもらったことがなかったクロアは、怪訝な顔をしながらも、感謝の言葉を言いながら父親から差し出されたものを手に取った。


「・・・いいか、どんな時でも必ず手放すなよ」

「?」

 アルバはクロアに向かって小さく声で呟いた。クロアは、それが何を意味するか分からなかった。刀を渡すアルバの顔はいつものニヤついた笑い顔ではなく、いままで見たことがない優しいものにクロアは見えた。


 勿忘草を受けた取った瞬間、クロアの見ている景色がドクンと鼓動するように揺れた。


 なんだ? 景色が・・・


 今まで見ていた景色が霞を見ているかのように濁っていたのが、嘘のようにクリアになっていくように感じるのであった。


 ◇ ◇ ◇


譲位の祭りから数日が経ち、クロアは自分の家で寝ころんでいた。クロアは手に持った勿忘草を見ていた。


おかしい、いや、いままでがおかしかったのか、以前より自分という意識がはっきりしているのが分かる。まるで、いままでが俺じゃなかったみたいだ。


《・・・いいか、どんな時でも必ず手放すなよ》


アルバの言葉が脳裏をよぎる。


明らかにこの刀を渡されてからだった。今まで心の表層にあった淀んだ感じがない。いや、いままではその淀みが当たり前と感じていたんだろう。それが全くと言っていいほどなくなっている。


 そう、それは、俺達が誰しも抱いていた感情であるもの―――俺たちが“人間もどき“と呼んでいる者に抱いていた、やつらに対しての怒り、憎悪、嫌悪、殺意。・・・・・・今、俺にはそれが全くない・・・


 集会でもクロアは集まった者たちに違和感を覚えていた。

確かに、“人間もどき”は昔自分達の故郷を奪ったと聞かされていた。そしてたくさんの同胞を殺してきた許しがたいものである。

しかし、なんだこれは、この狂気。クロアが周りから感じる“人間もどき”に対するこの感情は常軌を逸している。


・・・この感情を俺も抱いていたのか。


クロアは周囲の異様さに表には出していないが動揺していた。


「よう、クロア」


そして、頭領の地位を座し、一幹部となった父親の目にも、以前の光がなくなっていたことに。


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