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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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36 転機(4)

 ある深い森を超えた所に、ウェアウルフの集落はある。クロア達3人は命からがらたどり着いた。

 すぐさま他のウェアウルフ達が3人に気づき、住居に案内されると、クロアをゆっくりと横に寝かすと、逃げてきた二人も倒れるように寝ころんだ。無理もなかった。体力があるとは言え、昼夜走りっぱなしなこともあり、なおかつ一人の方はフラムに蹴飛ばされて、負傷をしていた。

 やはり一番の重症はクロアだった。左腕の骨は折れ、ズタズタになっていた。しかし、ウェアウルフの集団には医療機関はなく、できことといったら、できるだけ清潔な水で洗い、木材と人間から奪ってきたと思われる布で固定するくらいしかできなかった。


 人間だと切断もやむを得ない傷だったが、クロアはいい、と意識が薄れゆく中で答え、気絶するように眠った。


 

 「兄さん!」

クロアの妹のニアが駆けつけた。兄の無残な左腕を見て、血の気が引いた。


子供であるニア達はこの集落から外に出たことがなかった。当然、人間達との争いを見たことはなかった。

自分達ウェアウルフ、そしてクロアが人間と争っていることは知っていたが、それはどこか他人事のようなことと思っていた。


 どうして? いつも平気な顔で帰ってくるのに・・・!!

 

 ニアはクロアの右手を握り、しばらく、クロアの顔色を伺った。

 ニアは自分が今できることを考え、高熱が出ていたクロアを濡れた布で拭き、看病をつきっきりで行った。


治って。不愛想だけど、冷静でかっこいい、いつもの元気な顔を見せて。


 ウェアウルフはほとんど眠ることを必要としなかったが、やがてニアも限界がきて、クロアの横で兄の事を思いながら眠りについた。




 二人が眠りにつく中、クロアの左腕は傷ついた周囲から少量の虹色に粒状の輝きが発せられていた。それはゆっくりとであるが、クロアの傷の治癒を助けるように腕を優しく包んでいた。


 

翌日、クロアが目覚めると、それに気づいたニアに抱きしめられた。


「兄さんのバカバカ!! 心配したんだから!」


「ああ、ニアか・・・ここは?」


目覚めたばかりの朧な意識の中、周囲を見渡し、クロアは状況を把握した。

 左手でニアの頭を撫でようとして激痛が走る。左腕を見て自分傷の深さを知り、ニアやみんなに心配をかけたことを痛感した。


 「兄さん・・・」


 右手で左手を抑えると、

 「ああ、心配かけた。・・・でも大丈夫だ。自分のことだからなんとなく分かる。・・・とても痛いんだが、不思議と指先まで感覚があるし、まだ動かせないけど、治るような気がする。ニアもだけど、みんなが看病してくれたんだろ? きっとそのお陰さ」


 改めて右手でニアの顔を撫でた。ニアは涙を貯めてクロアを見つめていた。


 ◇ ◇ ◇


 それから数日が経ち、なんとクロアの腕は見る見るうちに治っていった。まだ動かせはしないが、表面上の傷は塞がっていた。ウェアウルフの強靭な肉体でも際どい外傷であったにも関わらずだ。


そのころになると、クロアは外を出歩くようになり、左腕は使えなかったが、身の回りのことは自分で行った。

 


 そんな中、気まぐれのようにある人物がこの集落に帰ってきた。


 「頭!!」

 

 大勢に出迎えられ、ウェアウルフの頭領である、アルバがその巨体を露わにした。


 「ようよう!! 出迎えご苦労!! んなことしなくってもいいんだぜ?ちょっと出かけてただけだからなぁ!」


 そういうと目の前の若者に袋をぽんと投げた。中には黄金色に輝くリンゴが袋一杯に入っていた。

 がやがやとアルバに対しての歓声が響く、ただ帰ってきただけなのだがと本人は思っているが、それだけの人気がこの頭領にはあった。

 「土産だ。くえくえ。俺様ァ、集会場までいくからな」

 そう言うと、その巨体で人込みを掻き分けて、集落の奥へ悠々と歩いて行った。


 道ながらにアルバが歩いていると、クロアが声をかけた。


 「父上、今回は、ずいぶんと長く出られておりましたね」

普段、クロアは冷静で感情を殺した声なのだが、父親も前では、敬意を持った話し方になってしまう。


 「よう、クロアか、ひさしいな。・・・なぁに、やつらの人間もどきの動向を伺っていたのよ」


 アルバは嘘をついた。本当は廃園、あのリンゴの木で怠惰を貪っていただけである。


 「そうでしたか、皆も心配します。できれば、一人での急な外出は控えていただきたいです。

以前から、行先を知らせずに集落を出ることが多いことが集会でも話題に上がっております。・・・幹部達の中にも、長である父上の資質を疑っている者もおります。」


 「ああ、そうかい・・・」

 アルバは他人ごとのようにあっさりと流した。


 「ところで、クロア、その左腕はどうした?」

 アルバはその太い手でクロアの左腕をちょこんとつまんだ。デリカシーがなく強くつかみ、クロアは神経に響く激痛に我慢しながら、

 「これは、私の失態によるものです。最近、俺達の襲撃を邪魔する人間もどきの中に、長刀を振り回す厄介な奴がおりまして。そいつだけを狙う算段だったのですが、失敗し、このような深手を負ってしまいました」


 「長刀!! そうか、おまえ、あいつに負けたのか!!」

 急にクロアの話に興味を示したアルバは、

 「で、どうだった? やつは強かったか?」

 「そ、そうですね、不意打ちでやられたので何とも言えませんが、他の人間もどきとは一線を隔するものでした。・・・父上はやつに会ったことがあるので?」

 

 アルバは少し考え、

 「ああ、つい最近な、確かに、手ごたえがあるやつだったな」

 「!! 父上は奴を殺したのですか・・・!?」

 

 「・・・いや、ボコボコにしたんだがな。すんでの所、取り逃がした」

 アルバは少し言いよどんだ。

 

 「そうですか・・・」


 そう聞くと、クロアはうつむいた。


 アルバはクロアの話を聞いて、シュウとの出会いを思い返していた。

 「・・・アイツの息子と俺の息子が・・・か。時代が来たのかもしれんな」

 アルバはニヤッと笑った。

 「?」

 アルバの小さく呟いた言葉にうまく聞き取れないまま独り言かと思い、アルバと共に集会場へと歩いて行った。

 


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