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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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31 エクローグ (2)

羊達の放牧は問題なく進んだ。時々、群れからはぐれそうになった個体はすぐさまポーラが気が付き、群れの中に返すように吠えて誘導を行った。


 フラムも、羊と同じく草を食べながら悠々と過ごしている。シュウとベルタはほとんど見ているだけでよかった。


 ベルタは先が湾曲した、背丈よりも長い杖を持っていた。クルークという名前らしい。シュウも持って扱ったが軽くて誰でも扱えるような杖だった。主に危険な動物が来た時に身を守るためのものらしい。ベルタはそれに小さな鐘を取り付けていた。普段は軽く振ってもならないように縛られて固定されているが、力強く降ると固定が外れ鐘が鳴るようなっているらしい。羊に対してこの鐘を鳴らすと餌をもらえると刷り込まれており、緊急時に羊の群れを集めて危険な動物を数で圧倒させる・・・ような想定で作っているが、羊は臆病なので想定通りいくとは限らないらしい。

 

 シュウも天津風は常に手元に置き、周囲を警戒していた。ただ、周りを見るとのんびりとした風景が広がり、とてもなにかが起きるような雰囲気ではなかった。


 昼を過ぎてもシュウの警戒を他所に周囲は平和そのものだった。お昼ご飯にしましょうとベルタの提案を受け、近場のちょうどいい岩場に二人は座り、昼食にすることにした。


 昼食はベルタがサンドイッチを渚停で作ってもらったものを持ってきていたものを二人で食べた。

 二人は爽やかな風が流れる中、広々とした景色で食べる昼食をおいしそうに平らげた。


 サンドイッチの匂いに釣られて、群れから離れた一匹の子羊がベルタのもとにきた。

 

 「・・・あら、生まれて1年未満くらいかしら。・・・サンドイッチは残念だけど食べさせられないわ」


 目の前のサンドイッチをあきらめたのか子羊はベルタの周りに草を食べ始めた。

 その子羊はやたら毛がモコモコしており、他の羊に比べて小さくて真ん丸な印象だった。

 

 ベルタはその子羊のあまりの可愛さに心を打たれ、撫でまわした。

 「うう、かわいいー。あまりの可愛さに名前を付けて寮で飼いたいわ」


 シュウは寮でのペット飼育はだめだと伝えると、ベルタは非常に残念がるのであった。

 

 「ま、まあいいわ、でもこの子は今日でお別れかもしれないけど名前をつけましょ。・・・そうね。かわいいから『モモちゃん』にしましょ」

 

 ベルタはその子羊と目を合わせてそう名付けた。


 モモちゃんはベルタに懐いたのか、ずっとベルタの周囲にいるようになった。

 

 昼飯後も周囲で特に問題は起こっていなかった。一番忙しく動き回っているのは牧羊犬のポーラだろう。シュウは警戒以外に特にやることもなかったのでベルタと雑談をしていた。


 ベルタは羊についてその年にそぐわない博識ぶりであり、様々なことをシュウに教えた。

 この町で羊毛、乳、肉として羊がどれだけ役にたっているか。夏になる前の羊毛刈りはとてもたいへんなこと。


 「ベルタは大人になったら羊飼いになるのかい?」


 ふとシュウはベルタに質問した。ベルタは少し考えて、

 「今はそう思ってます。羊の世話も好きですし。家族も全員そうですし。でも、そうですね。まだ働くって実感は私の中ではないですわ。今やっていることもほとんど遊びのような感覚ですし。・・・もし、私が先輩くらいの年になったら、また考えも変わっているかもしれませんね」


 その言葉を聞いてシュウも自分の将来について考えた。


 俺も卒業したら警備隊・・・警備隊だよな。


 ふと、シュウの頭に今まで周囲で働いている人の姿が思い浮かんだ。

漁港の漁師、渚停の料理人、学校の職員、町を通る中で働いている人々。町長にも勧誘があったよなぁ・・・サニーやオルフェ、ヴィダルも将来の仕事は決めてたっけな。


 俺は、親父の背中を見て育った。最終的に親父も警備隊をやっていてそれを俺は追っているだけじゃないのか?俺自身、本当にやりたいのはそれなのだろうか?


 シュウは珍しく深く考えてしまった。


 ◇ ◇ ◇


 それから時間が経過し、そろそろ羊達を門の中に戻そうという話になった。


 羊達のリーダーをポーラが追い立てて大門のほうに誘導する。それにつられて他の羊達も朝と同じように続々と流れていった。


 本日二度目の大移動だが、シュウはその集団が流れる様を珍しい様子で眺めていた。

 大半が大門を通った所で、ベルタはあの子羊が周りにいないことに気が付く。


 モモちゃん・・・? ふと遠くをみると、その小さく真ん丸の姿が少し大き目な岩場の影に移動する姿を発見した。


 「先輩、ちょっと待っててください、羊さん達がちゃんと入るか見ておいてください」


 そうシュウに伝えると、ベルタはモモちゃんを追いかけていった。


 ベルタはモモちゃんが移動した岩場までたどり着くと、モモちゃんを発見した。

 

モモちゃん、見つけた!


モモちゃんは少し震えて萎縮しているようだった。そこで、ようやく、ベルタはモモちゃんの前にいるものに気が付いた。


◇ ◇ ◇


「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!!」


突然、シュウはその叫び声に気が付いた。


しまった。間違えなくベルタの声だ。


ベルタの何気ない一言にシュウはいままでの仕事内容の根幹を忘れてしまっていた。


くそう、どんなときでも、あの子の護衛が今日の俺の役割だろう!!

声はそんなに遠くない、すぐそこだ!


自分の過失を悔やみながら、シュウは叫び声のしたほうに全速力で走った。


 大きな岩場の麓、シュウはベルタを発見した。


 そこにはベルタを抱きかかえた、合計3人のウェアウルフがいた。



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