表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
2/54

1 レナトス北壁(1)


大地が夕暮れを迎える中、草原を二頭の馬が駆ける。


一頭の燃えるような赤い毛並みが特徴の馬は先行し、その後方にもう一頭の黒馬が追いかけている。


それぞれの馬には男が乗っている。


赤毛の馬に乗っている少年は背中に自分の身長ほどもある長刀を、黒馬の方に乗っている青年は長弓をそれぞれ背負っている。


「おい、シュウ! 何度も言うが襲撃されているってのは本当なんだろうなっ!?」


 黒馬の方に乗っている男は馬が風を切る音の中、大きな声でシュウと呼んだ少年に話しかける。

少年の名前は月乃瀬愁つきのせ しゅう・・・・・・といっても周りからは呼びにくいからもっぱらシュウと呼ばれている。

少年といっても17歳、大柄で身長は約1.8メートル、黒い短髪で三白眼、男らしい顔つきである為、呼び掛けた男と同じくらいの青年と呼んでも差し支えない風貌だった。


「ええ、あいつの目と耳は信じてもらっていいですよっ、ウェイン先輩!」


シュウは後ろを振り向きながら言った。


シュウに先輩と呼ばれた青年の名前はウェイン=ハント 身長は2メートル程度、金髪で精悍な顔つきの男だ。自分でもトレードマークにしているのか顎だけに髭を伸ばしている。


シュウは急ぐように前に向き直ると馬を更に速く駆けさせた。



 ここは『レナトスの町』・・・・・・町の外周を外敵からの防衛である分厚い壁に覆われた町である。

今より10分ほど前、この二人はレナトスの町の北壁にいた所、ある少年から壁の外に広がる草原、その遠方で人が襲われているとの報告を受けた。


シュウはそれを聞くやいなや、周りの報告も忘れ、赤毛の愛馬「フラム」に乗り、壁門を飛び出していった。


それを偶々見かけたウェインが後を追ったわけである。


ウェインはこの町の北壁の警備隊に務めていた。


 時々、この北壁の警備の手伝いに訪れるこの少年・・・・・シュウが来る時には「お守り」を任されていた。

危険な警備を一般人であるシュウが手伝うことは本来できないのであるが、彼は特例で許されていた。

その警備の「お守り」というのは、今回もそうだが、シュウが一人で無茶をしないかどうかを見守る為の役である。


警護隊への連絡はこの襲撃の報告をしてきた少年に頼んでいた。


 この少年はシュウと同期で名前をオルフェと名乗った。

シュウの紹介でウェインが見たオルフェの第一印象は飄々としており、お茶らけているといったものだった。

オルフェは派手な格好で頭にはうねった栗毛を隠すように大きなテンガロンハットを被っており、手に持ったアコースティックギターが印象的だった。


 たまたま今日、いつも通り朝から手伝いに来たシュウの口から「彼が自分の手伝っている警備隊を見たいらしい」と相談をシュウから受けた。

オルフェ曰く、なんでも、命がけで壁で働く人からインスピレーションを受けたいからとのことだった。


 ウェインは根が優しく、ダメと言い放つ事が中々できない人間だった。人に厳しくなれない自分の性格を分かっていたのだが、シュウとオルフェの頼みを受け、ウェインはなし崩しにオルフェの見学許可を出してしまった。

 しかし、上司に相談せずにこのお願いを受けてしまった為、他の警備兵に気取られないよう、北壁でも警備が手薄で他の人があまり常駐していない箇所での見学となった。

時々、オルフェは音色を出そうと手に持ったアコギに手を伸ばそうとするが、ウェインとシュウはそれを止めるのに苦労をした。


 そんな中、オルフェが壁外の異常に気付いてこの状況である。

シュウの独断行動に自分の無断見学許可のダブルパンチである。


頭が痛くなる。……ああ、またゴーリキ隊長にどやされるよ…


ウェインは馬を走らせながら深いため息をつき、頭を切り替え、現状を考える。


 伝令を任せたのがあの言葉が軽そうで、見た目はお茶らけているあの風貌の少年に本当に任せていいのかいささか不安であった。

しかし、ウェインは「あいつの口は軽いですが、案外きっちりしてますよ。」というシュウの言葉を信じた。

オルフェが速やかに現状を他の警備隊へ伝えてくれていたら、増援はほどなくしてくるだろう。


そうなればここで少数での独断先行せず、増援と合流し、安全を取ったほうがいいだろう。


しかし、その案は一瞬で頭からスッと蒸発する。シュウが言うことを聞くわけがないからだ。きっと自分達のことより馬車の人達の早急な人命救助を優先する。


 となれば自分がやれることはいつも通りシュウをフォローし無事に生きて帰ることを全力で取り組むことが最善であると考えたのであった。


ウェインは思考を巡らせる中、再びため息をついた後、覚悟を決めた。


「おい、シュウ! 無茶するなよっ!」


「ええ! 後ろは任せますよ先輩!」


駆ける二人は短く言葉を交わした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ