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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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17 亜人


人間が入り込むことはない、幾重にも木々が折り重なる深い森の中、やや拓けた土地にウェアウルフ達の住処はあった。


住居とは言えないかもしれない、木材で囲われた簡素な作りであり、雨風が凌げればそれでいいようなあばら家がほとんどであった。


そこにウェアウルフ達はある程度まとまった複数の家族で住んでいた。

ウェアウルフはほとんど睡眠、食事をほとんど取る事なく生きることができた。時々、忘れていたかのように、木の実や果物等を食べたり、川から汲んできた水を少量飲むことで事足りていた。嗜好品(特に酒)に関するものだけは狩猟採集ではなく生産がされ、嗜まれていた。

必要最低限の飲食物の採取は子供達の仕事であった。大人は男女関係なく、子供の面倒や家事、この集落の生活を守っていた。今の人類とウェアウルフの生活レベルを比べると天地ほどの差があったが、命の営みとしては同じものであった。・・・・・・激しい人に対する憎悪から起こる衝動以外は・・・・・・


この集落で一番大きく、スペースが広い住居がウェアウルフの長の家である。

その中では、10数人のウェアウルフ達の幹部達が、レナトスを陥落させようと作戦を練る為に集合していた。


「あの憎たらしい《人間もどき》を早く全員ぶっころしてぇぜ」

「俺っちはこの間武装したやつらを30人はやってやったぜ?」

「俺あの町に入って行きそうだった御車集団をやった上に運んでいた物資も奪ってやったぞ」


血気盛んな若い数人が自分の自慢のような報告を行っていた。


「ああん?おまえらは弱っちい雑魚を運よく見つけて狙っただけだろ?俺らなんか紙くずのような奴等の中でまあハリがありそうなやつらをやったんだぜ?」


「そんな本当かどうかもあやしい報告信じられねぇなぁ?俺らはぶっ潰した奴らからついでに奪った物資の中でうめぇ酒をここにもってきてるぜぇ」


売り言葉に買い言葉の一人が奪ったと思われる酒を飲みながら饒舌に話した。


言い争いに発展するかしないかの中、壮年のウェアウルフ一人が口を開いた。


「まあそんなお互いの自慢話は置いておいて、我々の被害も多くなっています。

最近の我々の少集団かつ多方面攻撃にも奴等は対応をしつつあり、長が提案してくれた作戦にも更なる工夫が必要と思われます。 ・・・・・・ところで今日は長・・・アルバ様はいづこに?」


 「たぶん、いつものさぼりじゃねぇの?」

 「はぁ・・・全く、長としての自覚はあるのかないのか・・・・・・」


アルバと呼ばれる現在のウェアウルフの長はこの集会にはいないようだ。


 「あの忌々しい《人間もどき》の町であるレナトスの周辺に我らは点在してた頃、我々は単独でやつらに果敢に戦っていたが、いずれも無残にも散っていった。 そこに長として立たれたアルバ様は点在していた我らを束ね、この不可侵の地に集落を拓いた。

単独でやつらに向かうのではなく集団でかかるよう作戦を練り、やつらに捕縛されようものならこの地をやつらに喋らぬ様、舌を噛み切ってまでこの地を死守せよとなるべく我らの被害を減らすように厳戒をしいたのもアルバ様の偉業よ。」


「ところが最近はどうだ・・・あまり集会にも姿を表さず長としての役目を失っているように見える・・・・・・」


「おい、言葉が過ぎるぞ。 クロア様もおられるというのに」


はっと殆どのウェアウルフが奥で静かに沈黙を続けている一人の若いウェアウルフに目線を向ける。



 「いや・・・・・・最近の親父の素行には目が余る。どこぞで居眠りでもしているかしらんが苦言をしておく。」


クロアと呼ばれる10台後半らしきの灰色の髪に緑色の目をした若者が口を開いた。


 クロアはウェアウルフの長であるアルバの息子であった。


「ああ、申し訳ありません、しかし、こんな時にアルバ様から勇言を頂ければと・・・」


数刻の集会はそのまま案が出ずにそのままお開きになった。

 各々、集会から出るものもいれば、立ち話で内輪の話をするものがいる中、クロアも立ち上がり、部屋から出ようとする中、数人の若いウェアウルフ達が話が耳に入ってきた。

「そういえば、最近、やつらの中でバカにつえぇ奴がいるんですよ。」


「ガキのくせにバカでけぇ刀を物ともせずにぶん回して、俺たちに負けず劣らずの動きで斬りかかってくるっていうのが生き残った奴らからの噂でして・・・・・・」


「そのバカ刀をなんとかしないとこちらも動きが取りにくい状況でして・・・・・・」


それを聞いたクロアの眉がぴくっと動いた。


「ほぅ、そのでかい刀を持ったおかしなやつはどのへんに出るんだ?」


クロアは間に入り情報を求めた。


「たしか、レナトスの北方面に頻繁にでるらしいです。」


数人の内の一人が答えた。


「北か・・・・・・」


クロアは次の得物を定めたかのように目を鋭く光らせた。


幹部達はその後も情報交換や人間に対しての恨み節を数時間に渡り言い合った。


「いずれにせよ、《人間》である我らを《ウェアウルフ》などと呼称し、自分たちを人間と称して憚らない、《人間もどき》が我らが故郷を奪って幾星霜・・・。この恨み憎しみをなんとしてもはらし、先祖の大地を取り戻すのじゃ」

壮年のウェアウルフがそう重々しく話し、集会は流れ流れ解散となった。


・・・得物がでかいだけの子供一人相手に手こずるとは・・・なんとかせねば。

 自分の家(正確にはアルバのだが)で行われた集会を後にしたクロアは、集会で噂されていた「大刀持ち」の事を考えながら歩いていった。



するとクロアの目の前に水桶を両手で抱えながら覚束ない足取りで歩いてくる少女がいた。


「あ、兄さん。もう集会は終わったんですか?」


「ああ」


クロアは短く答えた。


彼女の名前はニア。クロアとは歳が離れた妹である。短い茶色いに薄いピンクがグラデーションが掛かった珍しい髪色をしている。


「またしばらく留守をする。家を頼んだぞ、ニア。」


「えー、また出かけるのー? 兄さんも父さんもほとんど家にいないし、二人がいないからいつも家のことや周りの頼み事も全部私にくるんだよ!?」


そう言って顔を膨らませながらニアはふてくされた。


彼女は歳に相応しくなく、ウェアウルフの中の同世代の中でも年甲斐もなくしっかりしていた。


特に同世代や年下のグループからはリーダー的存在になっていた。


その後も妹からの愚痴を長々と聞かされた兄は反論もせず黙って聞いていた。それがこの場を収める一番の方法だと知っているからだ。


「・・・・・・年上の人から長は?若はおられるか?とか、私は私で忙しいだから自分達でなんとかしてほしいよね?って聞いてるの兄さん!?」


「ん?ああ、ニアにはいつも助けられっぱなしだな。」


クロアはそっけなく言うと自分の手をぽすっとニアの頭に乗せ、ぞんざいに撫でる。


「もう・・・そうやっていつもお礼を言えばいいと思ってません?」


妹にはそう言われていたが、クロアにとってニアのことを内心ではとても大切に思っていた。


クロアは顔を逸らすとそのまま歩いていった。


「じゃあな」

「うん・・・いってらっしゃい兄さん」




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