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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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16 レナトスの町(10)


夜の渚亭は朝と比べても遜色ない、寧ろそれ以上の賑わいだった。


朝と比べ騒がしい声や笑い声が目立つ。大人達には酒が許されているので、余計にそうなのだろう。

夜に騒いでまた次の朝に備える。今日の疲れをここで吹き飛ばさんかのような宴がこの食堂の日常である。

まあ、毎日ここで倒れる人が多数出るのはご愛敬である。


それと相まってカウンター越しの厨房では料理人の必死の調理が行われている。

なにやら雄たけびを上げながらキャベツを千切りをしていたり、超大な釜で煮たせたスープを数人で混ぜていたりする。



シュウは料理人の事を考えて、調理がある程度作り置きで簡単にできるだろう定食をいつも夕食には注文をする。


相変わらず秒速で注文したものが出てくるのを受け取り、定位置の席に座る。

いただきますの挨拶で手を合わせると、向かいの席に別の人が同じく定食も持って座った。


男はこの町ではほとんど着ている人がいない、この時代では珍しいスーツを身に着け、40代にしては若く見える顔立ちだ。

シュウは何度か町議館で演説しているのを見たことがある。

町長のテオ=クラティアだ。



「やあ、シュウくん」

テオは穏やかな声でシュウの向かいの席に座る。

どうも、と軽く返事をし、二人は目の前の食事に手をつける。


「せんぱ・・・・・・いや、カイさんにますますソックリになってきたね」

「そう見えますか?」

「うんうん、体格とか顔つきとか」

シュウはなんとなく顔に手を当てる。

「でも性格はあまり似てないね・・・・・・まぁ、そこは似なくてもよかったかな」

「そ、そうですか」


「ところで、シュウくんはもうすぐ学校を卒業だったよね。君は卒業したらどうするのかな? カイさんは破天荒で冒険家気質でいろいろなことをしてたからね。まあ、最終的には今君が手伝っている警備隊にも入っていたけど」

シュウの父親であるカイは本当に色々なことをしていた。若い時、町から出て他の町を巡ったりする冒険者であったり、ふと町へ帰ってきたと思ったら一緒に他の町から嫁を連れてきており、農業やら建築やらの仕事を経て警護隊になったりと多種多様な事をしていた。


「一応、警備隊を希望しています」


「そっかぁ。 そうだ、シュウくん、相談なんだけど」

「・・・・・・? なんですか?」

「私の直属の警護の仕事になる気はないかい?」


「警護・・・・・・《御庭番》・・・・・・ですか」

町長・・・・・・しかもテオが町長になってから発足された役職『御庭番』

表向きは町長のボディーガードとして身の回りの警護を任された役職とシュウは聞いたことがあった。

しかし、裏では他の町の諜報活動や、表沙汰にできないような汚い仕事、中では死を厭わないようなものまであると噂がされていた。

テオと同時に食堂に来店し、シュウの後ろ向かいに座ってる男達もきっとそうなのだろう。シュウは嫌な気配は後ろから感じていた。


シュウはこの町長をどうしても好きになれなかった。

話してみるとなんでもない、誰にでも分け隔てなく接しそうな、親しみのある人だった。

しかし、これが本心から出た親近感なのかと疑ってしまう、御庭番の噂もあってか、どこか影のある人ではないかとシュウの心がそう告げていた。


「あまりガチガチした公務は自分には似合ってないと思うのでやめておきます」

「そっかー、残念だね・・・・・・まあ実は昔、カイさんも誘ったんだけどね。優秀な彼にも是非入ってほしかったんだけど・・・・・・カイさんも『堅苦しいのは嫌だね』って断られてしまったよ」

あの親父も誘われてたのかと内心思いながらも食事に手をつけていた。


こちらが半分も食べていない内にテオのほうはもう定食を平らげていた。公務が忙しいと早飯になってしまうのだろうか。


「まあ、また気が向いたらいつでも声をかけてよ。 いつでも待ってるからさ」と食器を手にテオは立ち上がった。


「ああ、そうそう、そういえば、卒業前には通例で学校で私の講義があるんだ。その時はよろしくね」

そう言い残してテオは食堂から出ていった。


「・・・・・・町長の講義?」

町長の講義なんてあまり聞きたくないなと思いながらシュウは残りの定食を平らげていった。

渚亭から家までの帰り道、シュウはフラムに乗りながら考えていた。学校を卒業したらこの町では大人とされる。卒業まで残り数か月、シュウの警備隊に入ると心には決めている。

町の人達を守りたい、それは本心だ。だが、それは町の人から敬われていた親父がそうであり、警備隊としての親父を見てきたからでもあった。それは果たして自分の本当の意思なのかというのが頭の片隅にはおかれていた。


謹慎中で時間ができていたので、シュウは家に帰ったあとも静まり返った道場に座り込み、物思いに耽るのであった。




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