14 レナトスの町(8)
シュウ達4人は町議館を通り過ぎた所にある学校へとたどり着いた。
学校は木造作りの広い作りとなっており、関連の施設を含めれば、レナトスの町で一番の敷地を誇る建物となっており、入口にはたくさんの学生が賑やかそうに入っている。
レナトスの町は義務教育の制度を持っており、やむを得ない事情がない限り、5歳から18歳まではこの学校で読み書きから生活に必要な事までの教育を行っている。
ここで18歳まで学問を修め、卒業と同時に成人として世間に迎えられている。
週に3~4日の授業があり、週の残りは自由なのだが、ほとんどの学生は実家の仕事の手伝いに精を出している。
広いレナトスの町でこの学校から通えない遠くの子供は関連の寮へ入居している。オルフェも実家が南方の遠くにある為、シュウやヴィダルの家近郊にある寮で生活している。
「はぁ~・・・」
校内に入るやいなや、オルフェがため息をつく。
オルフェ以外の3人がまたか、とオルフェに視線を向ける。
「今日もこれから授業が夕方までみっちりあるって考えるとやになってくるぜ」
「まあまあ、オルフェ君、サボりがちなんだからがんばろうよ」
ヴィダルがいつものようになだめる。
「だってよ? どうせもうすぐ卒業だし、俺は卒業したら勉強とは関係ねー音楽隊に入るんだからさ」
音楽隊はこのレナトスの町では花形とも言える職業で、町の各所を渡り歩き演奏活動を行う集団である。
「そういえば、防壁近くの警備隊に向けて士気高揚の為の演奏会とかもやってたっけ? おまえってあれにはいるんだ?」
シュウは思い出したように言った。
「もちろんさ、俺の才能を遺憾なく発揮して、オーケストラのトップになってやるよ。
ま、俺の器はこんなところじゃ収まらねぇからな・・・いずれはレナトスみたいな田舎町から出て中央のでかい管弦楽団・・・もしくは伝説の旅の音楽集団って噂されてる『アルゴノート』ってとこに入団ってのもいいな!」
オルフェは手に持っているアコギをブンブン振り回しながら得意気に喋っていた。
そんなオルフェを見てこいつが集団行動がとれるのかと他の3人は得意気な様子の彼を白い目で眺めていた。
教室に入ると4人はそれぞれの席へと座る。
教室は簡素なもので生徒用の机と正面に黒板ぐらいしかない。
サニーはよく味気ない教室に花などを持ち込んで少しでも色を添えていることがある。
まだ授業が始まる前でそれぞれ自分の時間を過ごしている。
オルフェは椅子に浅く座り、机に脚を伸ばしてアコギの音を鳴らしている。
まるで自分の空間を作りだすように周囲に心地よい音色で満たす。
オルフェの演奏もあるのだが、オルフェ自身の端整な顔立ちから、周りには色めきあった多くの女子がオルフェの周囲を囲う。
そして女性に対して誰に対しても自分のロマンを語り、愛を奏でる。
本人曰く、自分は博愛主義なのだとシュウは本人から聞いたことがあった。
本当かと疑いの念を抱かずにはいられないシュウだったが、この人だけといった決まった相手は本当にいないようだった。本人曰く、決めた相手はいるがなかなか打ち明けることができない、とのことだった。
フランクな性格なこいつに打ち明けることができない相手とは想像がつかないシュウだった。
女性陣に人気なオルフェに対し、それを羨ましそうに眺める男子達だったが、男子達にもオルフェは人気であった。
さばさばした性格で気取った態度で周囲の話や意見を聞かないような印象を受けてしまいがちだが、気が沈んでいたり、困っている人に対し、さりげなく手を差し伸べる優しさを持ち合わせていた。
シュウ達もその優しさを知っているからこそ、親友として認めていた。
始業のベルが鳴ると、皆着席して教師が来るのを待つ。
おはよう、と挨拶をしながら教師が教室に入り、今日の授業が始まる。
3時までみっちりと教鞭を振るう。
教材などはいままでの卒業していった生徒の使いまわしだ。
教科書にはいままで使っていた人の書き込みが所々されており、シュウ達もいままで使っていた先人のメモ等の筆跡を追いながら教科書の内容を頭に入れる。時々、関係がない落書きをされているページを見つけては笑いを堪えることもあった。
この町では紙が貴重なものであったが、生徒の教育の為に古紙を筆記に必要な程度は用意されていた。