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黄昏にて  作者: にわせたか
第1章 再出発の町
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9 レナトスの町(3)

 二人は20分ほど他愛もない話をしながら歩いていくとやがて目的地に到着した。

 港近くにある大衆食堂「渚亭」。

 木造建築で一度に何百人も利用できるようにこの大きさの建物はこのレナトスの町でも指折りのものとなっている。

 人の流れは激しく、食堂の出入り口はせわしなく人の出入りがある。

 シュウとサニーの二人は大勢の人込みに慣れた様子で入っていった。



 食堂では奥が見えないくらいの広さにずらっと座席が設けられており、ほとんどがすでに埋まっていた。

 また、側面には注文のカウンターがあり、そこで食べたいものを注文する。メニューはカウンターの上方の壁面に横一列に書かれている。

 カウンターの奥には何十人といる料理人が声を荒げながら非常に忙しく料理を作っている。

 何百人といる利用人数分の腹を満たすために忙しく腕を振るうその様子は戦場ともいえよう。



 二人は注文カウンターの前まできて

「今朝はなに食うかなぁ・・・」

「私はいつものかな・・・」

 シュウはサニーの言葉に顔をすこし歪ませた。

「またあれを食べるのか・・・」

「あら、うちの名物じゃない?」


 気にもしない表情でサニーは答えて受付のおばちゃんにそれぞれ注文をする。


 注文時に二人はそれぞれ小さな木板を受付に見せる。

 これは町人の証明書であるクラティア町長の押印が押されたものであり、これがあればこの食堂で無料で食事が取れるだけでなく、様々な公共サービスが無料で受けられることになっており、大事がない限り生活には困らない。


 しかしこの証明書を受けるには条件がある。このレナトスの町に住んでいる事が前提で、子供であればほぼ無条件だが、成人をしていたら仕事についており、その仕事での利益やサービスの一定量を税金として町に収めることがその条件である。

 例えば、サニーの祖父であるオーランドの漁業団体は取れた魚のほとんどを税金として町に収めている。

 そして残りの利益を硬貨等に交換してもらいその個人の利益となる。


 二人は注文を終えたら、受付のおばちゃんが奥で調理をしている料理人に伝える。

 するとその料理人は目にも止まらぬ怒濤の勢いで二人の注文した料理を作り始める。

 二人が受付から数メートル離れた料理を受け取る場所に移動するともうその料理はできていた。

 一体どうやったらそのスピードで、しかもどう調理したら二人が注文した料理になるのか分からない方法での調理の仕方に不思議ではあるのだが特に違和感を感じることなく、二人はできた料理を受け取った。


 二人は空いている席を見つけ横並びに座る。

「「頂きます」」

 手を合わせいつも暖かい料理を作ってくれる人たちに感謝を表し。料理に手をつける。


 シュウは白いご飯に納豆、そして味噌汁である。

 シュウは箸を持ち納豆が掛かったごはんに箸を懸けようとする。

 その時、

「あーん」

 シュウが横に目をやるとサニーが料理を食べようとする光景が目に映った。


 サニーが注文したのは『サンマバーガー』というもので、焼いたサンマが丸ごと香菜と一緒にパンにサンドされている豪快なものだ。

 レナトスの町ではこのサンマバーガーは名物になっており、サンマバーガー祭り、サンマバーガー大食い選手権等のイベントがあり多くの町人のソウルフードとなっていた。

 ちなみにシュウは一度も食べたことがない。


 それをサニーはサンマの尻尾の部分が挟まっている部分からかぶりついていた。

 可愛らしい顔に似つかない食事風景を目のあたりにしたシュウは思わず箸が止まったまま呆気に取られていた。


い、いや、骨とか内臓とかあるよね・・・


 シュウの心の中のツッコミもむなしく、どんどんサニーはサンマバーガーを食べ進んでいる。

 シュウにとっては毎回見る光景であり、サンマの頭部分にサニーの口が到達する最中、サンマの口角が広がり、悲痛に叫ぶサンマの表情を幻視してしまうシュウであった。


「・・・・・・ちょっと、なに人の食事をみてるのよ・・・恥ずかしいじゃない」

「い、いや、いつも通りのたべっぷりでつい・・・」


 サニーが先に食べ終わり満足そうな笑顔でご馳走様と手を合わせると、シュウはまだ何も手を付けてないことにやっと気づき、大急ぎでごはんと味噌汁を流しこんだ。


 味噌汁を飲み込む刹那、


「よーう!! シュウ、朝飯ちゃんと食ってるかぁ!!?」

「ブフーッ!!」

 シュウは後ろからよく響き渡る大きな声と同時に背中をあいさつ代わりとバンバンと叩かれ、口の中にあるものを出さまいと必死になった。


「あ、おじいちゃん」


 味噌汁を飲み込みせき込みながら振り向くと筋骨隆々の2メートルを超える巨体が立っていた。

 笑顔で、よぉ、と手を掲げ、白い髪に白い髭を生やした所だけが年齢を感じさせるこの人物こそ、サニーの祖父であるオーランド=コスターラ、その人であった。


「これから学校か? しっかり勉強してこいよ!!!」

 ガハハハと、笑い声交じりに響く声に、とても齢70を超えるとは思えない。


「ええ、今から行くところよ、おじいちゃんは今漁から帰った所? 」

「ああ、いつもより大漁で船が戻るのが遅れてな、いまから飯にするところさ」


 オーランドはいつも夜が明ける前に漁船を出して漁を行い日が出る前には帰ってきている。


「いつもご苦労様、もう若くないんだから、あんまり無茶はしないでね。おばあちゃんにも注意してって言われてるんだから」

「お、おう、全く・・・ばあさんも心配症だな、ゴホッ!! ゴホッ!!」

「ほら!咳込んでるじゃない。 ・・・・・・休む時は休んでよ」

「わーった、わーった。こんなんなんでもないさ」

 咳き込むオーランドを心配するようにサニーは声を上げた。


 ちなみにおばあちゃん・・・オーランドの妻であるロマは漁業ではなく服の仕立てに携わっており、サニーはこちらの方にも仕事の手伝いに行っており、オーランドやシュウの衣服についてもサニーのお手製である。


 心配するサニーと心配するなとガハハと笑うオーランドのやり取りがひと段落つくと、オーランドはシュウと目が合うと思い出したように険しい顔になる。

「ああ、そうだ、シュウ。 そういえば昨日の事は噂になっていたぞ、・・・・・・男なら体を張って守んなきゃいけねぇ時もあるが、おまえはまだ未熟だし、警備隊に正式に入ったわけじゃあねぇんだ。 親代わりと言っちゃあなんだが、あんまり無茶はするなよ」


 昨日の事というのはもちろん、昨日のウェアウルフとの交戦である。

 一晩でオーランドの元まで噂が届いていることにシュウは驚きだった。

「・・・はい。 心配かけてすみませんでした。」

 シュウが歯切れが悪く答えた後、オーランドはハァとため息をついたあと、手で分かったと手振りをし、その場を後にした。


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