8 レナトスの町(2)
レナトスの町は東西南北の内、西部は海に接しており、漁業を生業とした人たちが住んでいる。この町の主食は魚だと町人のほとんどは口をそろえて答えるだろう。
なぜかここでの漁場は季節に関係なく、安定した漁獲量があるのがこの町の主食足りえる一番の理由になっているのだ。
漁業に従事する人の割合も多い。その多くをまとめているのがサニーの祖父であるオーランドである。
南東中部では農業が盛んである。野菜や果物等の栽培もあるのだが、麦や米、芋類の穀物中心の栽培が盛んに行われている。区画当たりの生産量が多く、品種改良等も多くされているからなのか、生産者のたゆまない努力と愛情からなのか不明だが一本の苗や根から以上なくらい多くの収穫がされる。
畜産業はあまり盛んではなく肉、卵等の食材は貴重品である。
北部は町の政治、経済の中心であり、端的に言うと一番栄えている。
シュウやサニーも中央からやや離れた北西部に住んでいる。
この町は政体としては民主制をとっており、町民から選ばれた数十人の町議員とその中から選出された町長で構成された町議会によって成り立っている。
現在の町長はテオ=クラティアという30代後半の人物が町長が選ばれており、この人物が過去最高の指導者とも言われている。
町人からの不平不満の声はほとんどなく、政は滞りなく進み、汚職は徹底的な排除、罪人の厳しい処罰を行う名町長として町議を取り仕切っている。かと言って堅物で独尊的な性格なのかといわれたらそうではなく、柔軟で他者の意見を聞き、親しみやすい町長としても名が通っている。
一方で少数の声であるが全ての権限が町議会、またはこの町長が一任しているという権力が一点に集中している怖さがある。司法の取り仕切りや判決、そして町で唯一の武力集団である警備隊の権限等も町議会に一任されている。そしてその町議会のトップである町長のテオ=クラティアが町議員からの選出として町長の椅子に座っているが、その椅子は代々クラティア家の者しか選ばれてはいない。更にはこのテオという人物の有能さから町議会内部がテオによる傀儡化がされているのでは?独裁政治なのでは?といった声もある。
レナトスは海に面した西を除いた東南北は堅牢な防壁で囲まれており外からの侵入を拒んでいる。ほとんどは亜人や幻獣からの防衛の為であるが一般の人間の出入りも厳重に監視をしている。
防衛や監視目的での警護隊は年々増員をしている。レナトスは他の町よりも比較的亜人、幻獣からの被害が少ないとされているが、町の歴史から見ても古くから亜人、中でもウェアウルフからの被害に悩まされていた。
そしてここ近年ではこのウェアウルフ達からの被害が増加している。
どうやらウェアウルフ達の中で有能な統率者が現れたらしく、それまではウェアウルフ単体行動で人を襲う事が多く、単体では対処がしやすかったことから一転、ある程度の集団行動による活動になり、被害が多く、対処がし辛くなっていた。
それに対し警備隊も人の増員であったり、装備の拡充に努めていた。
しかしながら自ら命を懸けてこの職に当たるという者は多くなく、装備の拡充にも、この時代での主な装備は鉄を使用しており、この町ではほぼ手に入らず、他の町からの輸入に頼るほかなかった。
警備隊も苦労する中、町議から出された昨今の一番の課題ではウェアウルフ達はどうやら町周囲に拡散して住んでいるようではなく、一つの大きな集落をどこかに作って暮らしているという研究がされ、その場所を突き止め、ウェアウルフという種族を根元から壊滅させよというものであった。
この地域では11月~4月は夏で5月~7月は冬である。夏はとても暑いのだが冬は厳しい寒さにはならない、しかし朝晩は冷えることが多い。
常時明かりを照らすのは町の周囲を囲んでいる防壁だけであり、夜の街中はほぼ暗闇に包まれている。
町人は日が出ている時間や月がわずかに照らしてくれる光をできるだけ活用し生活している。
町人は自然がもたらしてくれる恩恵から、人の生活の大半は自然、万物の現象から切り離せないと考え、自然崇拝、信仰を拠り所としている。また、その人の生活の場により、その対象はより生活に欠かすことができない所を重視をしている。
例えば漁業者は月を、農業者は大地をといったように。
といってもその信仰自体に過剰で行き過ぎた行動や他者への介入等はなく、あくまで生活習慣や文化の慣習で人の営みの一部分になっている程度のものだ。
「・・・・・・とまあ、これが私達の町のざっとした要所ね。多分、今度テストで出るよ・・・ってシュウ聞いてる?」
「・・・ハイ・・・」
シュウとサニーが朝食に食べにいく道中でサニーの一方的な会話に耳が痛くなったシュウであった。