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夢の先の戦場  作者: かえるんるん
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1.9 護りの《力》

 カァァァン! と何かを弾くような金属音。


「まさか!」


 驚く男の声、未だ変わらない周りの世界の感触。


 そして何より、一瞬ではあったが左手に何か新しいものが宿る感覚を得た。それは本当に瞬刻のことで、左手にあったはずのものはもうない。一体何があったのか確かめるすべは今やないが、それが銃弾を弾いたに違いなかった。


 さらに続く発砲音。しかしその動揺からか、すんでのところで当たることはなく俺の体を掠めただけだった。


 夢心地の中、何かに突き動かされるように姿勢を立ち直す。


 着地し槌を構え直し、こちらに向き直した男には半分は驚きの、半分は愉楽の表情が浮かんでいた。


「面白えじゃあねぇか、殺し合いってのはこうじゃなきゃねえ!」


 重傷を追いながらの戦闘、男に不覚を取ってしまった時の二度桜に助けられ、そして今また謎の力で命拾いした。


 三度も救われた命をこれ以上やすやすと失う訳にはいかない。


 圧倒的な実力差。これを覆すには、それ以上の力を手に入れるしかない。


 今ならまだ創り出せる。左腕の感触を思い出せ。その重量感、銃弾を弾いたあの感触、あったはずの空気を思い出せ。


 自分自身を、そして桜と美幸先輩を、俺が守りたいものを守るための《力》をその手に宿せ。


 必死の願いに応えたかのように左手がパッと光り、そこには全てを護るための力、《盾》が存在していた。


 男はまた驚愕の表情を見せる。


「ハハハ、まさか剣と盾の二つ持ちとは恐れ入った。ホントにここからが本番ってか」

「今回こそ、勝たせてもらう」

「死ぬ気でかかってこいよ、ボウズ」


 男の左肩が僅かであるが沈む。横払いの起こりだ。


 今まで回避という選択肢しかなかったが、今は受け止めるという手段が増えた。


 ズシンと重い衝撃を感じるが耐えられないものではない。そのまま槌を振り払い、反動で隙のできた男へ横斬りを試みる。


 流石にそれは読まれていたのか、バックステップで距離を取られ男の服を掠めただけだった。中途半端な距離で睨み合う。


「思ったよりしっかり受け止めてくるじゃねぇか」


 さっきの攻撃は盾の耐久力を確かめるための一撃。本気の打撃ではないのだろう。


 しかし、自分でも正直驚いていた。力を抜いているということを加味しても、あれほどの大きな打撃武器の直撃をもらっておきながら、衝撃を吸収したかのように受けた震動は小さかった。


 俺はこの武器を、使い方を、戦い方を知っている。盾の記憶と言えば良いのだろうか、鮮明ではあるのだがその光景を理解する前に、戦いの歴史が怒号のような奔流が頭の中を流れていく。


「じゃあまたこれはどうだ?」

「――ッ!」


 明らかに分かるような振り下ろし。


 上からの叩きを素直にガードすることは難しいだろう。


 先の行動を読まれた光景が脳裏に浮かんだが、恐怖を無理やり振り払って同じく男の方へ距離を詰める。槌が自身の真上に迫っているがここで止まる訳にはいかない。自身の力を信じ、思いっきり地面を蹴り斜め前方向へさらに加速する。


 空気を切る波を肌に感じるが、直撃は免れた。追撃を予想し後方を確認すると、男は地面に叩きつけたばかりだというのに、既に追撃の姿勢を見せていた。


 男は体ごと回転させ、槌が背中を追いかけて来ている。宙でぐっと体を捻り、自身とその鈍器の間になんとか盾を挟み込む。


 その前とは違う力強い衝突。着地しても速度を緩めることはできず、そのまま吹き飛ばされ地面を転がった。その中でも無理やり目を見開いて、男の行動を確認する。


 左手に握られた拳銃。躊躇なく無慈悲な発砲音が聞こえる。


「ぐっ……あ!」


 急所は外れたものの、一発は右足に直撃した。すぐ立ち上がろうと試みるが、脳天に電流が走ったような目眩を催し、膝をつく。


 それを見て、男は拳銃を投げ捨てた。男はそもそも拳銃の使い方に慣れていないからだろうか、確実な有効打を与えられた今、もう必要なくなったのだろう。


「まあ、結局はこんなもんだよな」


 少し期待はずれだというようにため息をつく。有利な状況ですぐにとどめを刺しに来ない男の性格に感謝する。桜との模擬戦もこうだった。あれは今考えれば、渾身の一撃を読まれていたのだろうか。


 痛みに耐えながら肩で息をする。ふとコツンと膝になにか硬いものが当たる。見れば男が先程まで持っていたはずの拳銃が――違う、これは男との出会い頭で剣で弾き飛ばしたものだ。幸い男は俺の足元にこれが転がっていることに気づいていない。


 一か八か、いやこのチャンスしかもう後はないのだ。


 銃弾に貫かれた右足が焼ききれるような痛みを発するが、歯を食いしばりどうにか無視して立ち上がる。盾を掲げる左手に切り札を隠し、姿勢を低くし突進の体制を取る。


「おっと、まだそんな余力が残っているなんてな。火事場のナントカってやつか?」

「……ハァ、なんとでも、言ってろ」


 あの時の、夢のような戦場ほどの苦しさではない。


 自分の決めたことを信じきるしかない。


 渾身の思いを込めて、男へ飛び掛かる。


「そんじゃあ、こっちもそれに応えてやるよ!」


 男も槌を体の前に抱え、素直に突進してくる。


 盾で攻撃を弾ききれなくても負け。


 試みが先にバレたり、相手が攻撃を変えてきても負け。


 負ける要素なんで考えればいくらでもある。


 それでも――すべてを信じるしかない。


 不安を打ち消すために、己の勝利を掴み取るために。


「ハァァァァアアア――――――!!」


 絶叫し、衝突の火花をちらした。

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