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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第十章
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76.仮面祭り(差し入れ作成編2)  ~きつね色談義/普通ではない/便利遣いに慣れません~

 

 大陸西のあちこちを遠出した際に教わった料理も作ることにした。

 皮つきのままのジャガイモを塩茹でし、熱いうちに皮を剥いて潰す。

『わんわん三兄弟、代ろうかにゃ?』

『し、しかし、カランは猫舌ではござりませんか』

『この場合、猫手?』

『まあ、それほど熱いものは持てないにゃね』

『吾が代ろう』

『潰れたら、塩コショウして混ぜるんだって』

 九尾は再び玉ねぎとニンニクをみじん切りする。

『きゅっきゅっきゅ、きゅうちゃんにかかれば、ちょちょいのちょいですよ!』

 素晴らしい包丁さばきではある。

『きゅうちゃんはシアンとずっと一緒にいたから、料理も上手だね』

『……』

『そうなの。ユルクもなんだかんだ言って、尾さばきは絶妙なの』

 ネーソスとユエにおだてられたユルクがその尾でもってフライパンで玉ねぎとニンニクを炒めて塩コショウする。ティオがミンサーに掛けたひき肉を入れてトウガラシペーストやコリアンダーの葉を刻んだものを加える。

「ここにスパイスを加えると聞いたんだ。ちょっと贅沢に色々入れてみようか」

『『『賛成!』』』

 幻獣たちは舌が肥えていた。それを支えるだけの物資や金銭を有していた。

『界に頼めば色々スパイスが手に入るしねえ』

『この島では多様な植生が実現するゆえな』

 オレガノ、パプリカパウダー、ターメリック、クミン、塩コショウ、砂糖を加える。

「あとはトマトケチャップも入れようね。味は濃いめが美味しいよ」

 トマトケチャップは大量に作り置きしている。

「キュア!」

 潰したジャガイモを広げ、半分に切った茹で卵、オリーブを一粒乗せ、アーモンド形になるように包む。

 小麦粉をつけて油で揚げる。

『きつね色に揚げるそうです』

『……』

『違うよ、ネーソス。きゅうちゃんの色じゃないよ。普通の狐の色だよ』

『そうにゃよ。さくっとしているのが美味しいのにゃよ』

『きゅうちゃんが普通の狐じゃないって言ったのは誰⁈』

「きゅうちゃんは綺麗な白い毛並みをしているもの。普通の狐とは違うよね」

 シアンのフォローにきゅふふんと鼻を鳴らして九尾が矛を収めた。

『肉が辛い』

『複雑な辛さ』

『ジャガイモと玉ねぎの甘さと絡み合って幾らでも入りそうだね』

『さくさく!』

『エールが進みそうで、祭りにはぴったりですな』

 九尾の言葉に、祭りに相応しい料理か、と思案する。

『シアン、ジャガイモは生クリームとも合うよね?』

「ふふ。そうだね。じゃあ、今度は生クリームを使おうか」

 水にジャガイモを皮ごと入れて茹でる。ざるに上げて、粗熱を取る。

「ジャガイモの下の部分を切って立てるようにするんだよ」

 そして、上部も切り、中身をくり抜き、潰す。細切りのベーコン、賽の目切りしたチーズを入れ、生クリーム、塩コショウを加えてよく混ぜる。

「これをジャガイモの器に入れてオーブンで焼くんだ」

『わあ、面白い!』

『器も食べられるんですな』

「うん。お祭りだからね。見目良いものが好まれるかなと思って。ジャガイモのチーズグラタン、子供や女性が好きそうだよね」

『シアン様、それでしたら、焼き菓子などはいかがでしょうか』

『なるほど!』

『それでしたら、気軽に食べれますな!』

『片手で持って祭りを楽しみながら食べれまする!』

 リリピピの発言にわんわん三兄弟が賛成する。

「そうだね。マドレーヌを焼いてみようかな」

 卵と砂糖を泡だて器でよく混ぜ、ふるいにかけた小麦粉を加え、さらに混ぜる。火にかけ溶かしたバターを回すように加えていき、泡だて器でまんべんなく混ぜる。

『粉っぽさがなくなるまで混ぜるんだよ』

「「「わん!」」」

 リムのアドバイスにわんわん三兄弟が短い尾を振る。器用なリムに助けられて、わんわん三兄弟は懸命に泡だて器を操った。

 バターを塗り、強力粉を薄くつけておいた型にタネを入れ、オーブンで焼く。

『英知! しぼんじゃわないようにして!』

 リムが膨らみを確保するために風の精霊に願う。

『……』

『慣れるしかないにゃよ。むしろ、精霊王たちはシアンやリムの手伝いをするのを楽しまれているにゃよ』

 万物を知る敬愛してやまぬ風の精霊を便利遣いするのに、鸞が表情を薄くし、カランが慰める。

 バターの香り豊かな菓子を齧りながら、九尾がリンゴを差し出してくる。

『やはり、リンゴのお菓子は外せませんよね』

 ネーソスが皮むき器にセットし、一角獣が皮を剥いたリンゴを、リムが嬉々として刻む。

「歯ごたえが残るくらいの厚さでスライスしてね」

「キュア!」

 砂糖、卵、サラダ油を泡だて器で大きく良くかき混ぜ、ふるいにかけた小麦粉、粉末ナツメグ、シナモン、重曹、塩、スパイスを加える。

「ここにリンゴとラム酒で柔らかくしたレーズンを入れて、と」

 それらのタネを型に入れてオーブンで焼く。

「甘酸っぱい方が美味しいから、レモン汁を掛けても良いんだよ」

『美味しい!』

『リンゴがざくざくしておりまする』

『レーズンが良い風味を出しているね』

『やはり、リンゴにはシナモンですなあ』

『大人の味にゃね』

『あは。アベラルド、喜んでくれると良いねえ』

『シアン、なんきんを使ったお菓子も作って!』

『サツマイモも使おうよ』

 リムが言うと、ユエも追随する。九尾は素知らぬ顔でリンゴのケーキを食べているが、尾が激しく振られている。

「ふふ。じゃあ、折角だから、なんきんとサツマイモで二品作ろうか」

『お手伝いします!』

 真っ先に九尾が名乗りを上げる。

 バターを加熱してクリーム状に練り、卵、砂糖、空気を含ませながらふるった小麦粉を加え、指でつまむようにして混ぜる。

 リムが面白がって九尾と共にせっせと混ぜる。

「耳たぶより少し柔らかめになるように、水を加えて調整してね」

『リムはシアンちゃんの肩に良く乗っているから、耳たぶの柔らかさは分かるよね』

「キュア!」

「あとはこれを乾燥しないように冷やすんだ。タネが多少柔らかくても冷やすと固めになるからね」

『深遠!』

『『『……‼』』』

『気持ちは良く分かるぞ』

 闇の精霊の顕現に固まるわんわん三兄弟に、鸞が頷く。

 強力粉で打ち粉をした上にタネを置き、上からも打ち粉をし、伸ばしてパイ皿に乗せる。シアンが綿棒にくるくると巻きつけてパイ皿に乗せ、今度はくるくると広げていくと、幻獣たちが感嘆の声を上げた。

「めん棒には粉を振らないんだ。くっつきそうになったら、タネの方に粉を振るんだよ」

 型になじませ、縁からはみ出たタネを除く。

 種を取り除き、適当に切ってふかしたカボチャの皮を剥いてすりつぶし、ふるった小麦粉、卵、砂糖、牛乳、シナモン、ナツメグ、塩を加えて泡だて器でよく混ぜる。

 このカボチャをタネの中に入れてオーブンで焼く。

『次はサツマイモでござりまするな!』

 サツマイモは皮ごと適当な大きさに切ってふかし、熱いうちに潰す。とろ火にかけて溶かしたバターを加えてよく混ぜ、練乳、砂糖、卵黄を加えて滑らかになるまで更に混ぜる。

「うーん、ちょっと柔らかいかな。まとめにくそうだから、火にかけて練ろうか」

 タネをいくつかに分けて細長く成形する。

『……』

『うん、やっぱりわんわん三兄弟は形を作るのが上手だね』

『月見の団子も綺麗に丸めてましたものね』

 ネーソスと一角獣、リリピピに褒められてわんわん三兄弟が面映ゆそうにする。

 刷毛で卵黄を塗ってオーブンで焼く。

『おお、焦げ目が実に美味しそうですな!』

 早速、精霊を交えて試食する。

『美味いが、もったりするな』

『折角甘いものを作ったんだから、金色の稀輝は銀色に変わってあげて!』

 リムがへの字口を急角度にする。あんまりな言い草に、他の幻獣たちが身を硬くする。言われた当の本人はそれもそうかと入れ替わる。

 無表情を明るくしながら食べる光の精霊にリムが溜飲を下げ、幻獣たちも安堵する。

「ふふ。折角銀色の稀輝が来てくれたんだから、もう一品、甘いものを作ろうか」

 繊細な美貌が嬉し気に綻びる。

「まずはカスタードクリームを作るね」

 小麦粉とコーンスターチ、砂糖を鍋に入れてよく混ぜ、底に牛乳を少しずつ加えて混ぜる。

『ちょっとずつちょっとずつ』

『このくらい?』

『もう少し』

 木じゃくしで練りながら弱めの中火にかけ、煮立ったら火からおろす。この三分の一の分量をほぐした卵黄と混ぜてさらに弱火にかけ、煮えたら火を止めてバニラエッセンスを加える。

『わあ、ふんわり甘い香り』

『味見したい』

『え』

 歓声を上げたリムはだが、光の精霊が強請られ、どうしようかとシアンに視線を寄越す。

「うん。良いよ。その前に、深遠、これを冷やしてくれる? ありがとう。はい、稀輝。あーん」

 匙で少し掬って光の精霊の口に入れた後、闇の精霊にもひと口やる。

『流石はシアンちゃん! 精霊王にあーん!』

『美味い。このとろっとした甘みが良い』

『うん。バニラが良いアクセントになっている』

 精霊二柱の言葉に、幻獣たちが顔を見合わせる。

 急遽、全員でひと口ずつ味わうことになった。

「沢山作っておいて良かった」

 精霊のお陰で時間が掛かるカスタードクリームを冷ますことも短時間でできる。

 バターに水と塩を加えて中火にかけ、沸騰したら空気を含ませながらふるった薄力粉と強力粉を加えて木じゃくしで練る。

「綺麗に混ざったら火を止めて、粗熱を取るんだよ」

『混ざった?』

『もうちょっと?』

 卵を一つずつ加えて粘り気が強くなるくらいまで更に強く練る。

「初めは混ぜにくいと思う。少しずつやりやすくなるからね」

『大丈夫』

 力のある幻獣たちは易々とこなす。

「粘り気は卵の量で調整するんだよ。木じゃくしを持ち上げてタネがトロットロッといやいや落ちてくるくらい」

『いやがっておりまするか?』

『とろとろでしょうや?』

 わんわん三兄弟が頭を集めてボウルを覗き込む。

「うん、このくらいで良いと思うよ」

 薄く油をなじませた天板に手早く丸く乗せていく。

「表面に凹凸がある方が綺麗に仕上がるからね」

 タネが温かいうちにオーブンで焼き、天板ごと外に出して粗熱を取り、天板を軽く揺する。生地が冷めたら真ん中より少し上のところを切る。開いた口に冷めたカスタードクリームをスプーンで入れる。

『シアンちゃん、生クリームを絞って入れても美味しいのでは?』

「うん、そうだね。生クリームで蓋をしようか」

 果たして、光の精霊は頬に生クリームとカスタードクリームをつけながら食べていた。





個人的に、幻獣たちが小首を傾げて『どう?』『もうちょっと?』

と料理の加減を見ている場面が好きです。

うん、まあ、幻獣出て来るシーンは大抵好きなんですが。

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