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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第十章
588/630

48.成獣の祝い(宴の後編)  ~宴会は続くよ、何度でも/頭を狙われる国王~

 

 リムが言い出したのは立て続けに催した宴会が楽しかったからだと最初は思った。

「お誕生日会?」

 リムと九尾が並ぶのを見比べる。

『そうなの! きゅうちゃんがね、生まれて来てくれてありがとうって祝う日なんだって教えてくれたの!』

 顔を輝かせるリムに、このわくわくした可愛らしい姿で言われると断れないなとシアンは頷いた。

「ただ、リムの誕生日はまだ先だよ。ティオはいつだろう?」

『んーん、深遠の! ぼくは大きくなったのをもう祝って貰ったもの!』

 それも二回も、とどんぐり眼で言う。

「深遠のお誕生日会?」

『ぼくもシアンもティオや幻獣たち、魔族のいっぱいは深遠が生まれてくれて嬉しいんだよ、存在してくれるのが嬉しいんだよ、っていうことを教えてあげたいの』

 だから、闇の精霊の誕生日会をしたいという。

「ああ、良いね。生まれてきてくれてありがとうっていう気持ちを伝えるんだね」

『そうなの! 深遠はね、たまに生まれてきてごめんなさい、って思ったり、魔族の人たちがそれを気にしていたり、自分たちのせいだって思っているでしょう? だからね、深遠、生まれてきてとっても嬉しいんだよって伝えて、おめでとう、ってお祝いするの!』

 深い言葉にシアンは不意に目頭が熱くなる。

 常に伝えていくことは大事なことだ。

「良いね。ふふ、きゅうちゃんはとても素敵なことを教えてくれたんだね」

 シアンの同意にリムと九尾は顔を見合わせて嬉し気に笑う。

『では、光の精霊王に助力を願って闇の精霊王に準備を分からなくしてもらいますか?』

 もちろん、リムに教えた九尾も乗り気だ。

「折角だから、準備は深遠にも手伝って貰おうよ。準備を一緒にするのも楽しいよ。それに、自分にだけ内緒にされて他のみんなでこっそり何かやられると寂しいよ」

『ダメ!』

「ね? 深遠にも手伝って貰おう。あ、誕生日っていつなのかな?」

 そも、精霊とはいつ生まれたのか。この世界の創造神話からさかのぼるのではないか。

 リムが浮き浮きと闇の精霊を喚び出して尋ねる。

『シアンに深遠という名を貰った日だよ』

「え?」

『私はシアンにそう名付けられた時に深遠となったのだから』

『じゃあ、稀輝も同じ日が誕生日?』

『シアンちゃん、折角だから、光の精霊王の誕生日も祝わせて頂きましょう』

 そっとシアンに囁く九尾に頷く。

「そうだね」

『賛成!』

『誕生日がどうかしたの?』

 シアンたちのやり取りを、闇の精霊が不思議そうにする。

『あのね、誕生日会をするの! 深遠とね、稀輝がね、生まれてきてくれてありがとう、君たちがいてくれて嬉しいよ、って祝うんだよ!』

「リムがね、魔族のみなさんは深遠が生まれて来てくれて、存在してくれて嬉しい。それを深遠に伝える日として祝いたいって言ったんだよ」

『ああ、この間のリムの成獣の祝いと同じことだね』

 満面の笑みで言うリムの言葉とそれを補足するシアンの言に、闇の精霊も少しずつ気持ちが高揚してくる。

「そうなんだよ」

『魔神たちをご招待!』

『闇の精霊王の祝いだったら、何を置いても駆けつけてくるよ』

 九尾の言葉に、いつの間にかやって来たティオが重々しく頷く。

 幻獣たちにも話すと、楽しそうな催しに沸き立つ。もちろん、手伝いを申し出る。

『稀輝が好きなケーキやチョコレート、いっぱい作ろうね!』

『シアン、折角だから、準備も魔神たちに手伝って貰おうよ』

『良いワインや酒が手に入りそうにゃね』

『天狐たちにも声を掛けてお酒を貰ってきますよ』

 ティオの提案に思わずつぶやいたカランの声を拾って九尾が言う。

『九尾、雄大の君のために美味しい米も貰ってきて』

『承りました!』

 珍しく名を呼んで頼むティオに、九尾が姿勢正しく受け答えした。

「英知、当日は叔母さんも喚べないかな?」

『……伝えておくよ』

 リリピピが笑顔になる。

 意外なことに、闇の精霊のお誕生日会は初手から難航した。

「リム、そんなに沢山の人を呼ぶの?」

『でもだって、きゅうちゃんがお誕生日会はいっぱいの人にお祝いして貰う方がいいって言っていたもの! 魔族も必要だもの! ディーノと、魔神たちとアベラルドとリベルト! 後はジャンとルドルフォと魔族のみんなにもおめでとうって言って貰うの! 深遠が生まれて来て、こうやって会えてね、色んな話をしてね、一緒に美味しいものを食べて、楽しいことをして、嬉しいよ、って伝えたいの!』

 リムが後ろ脚立ちし胸を張り、ふんす、と鼻息を荒くする。もはやシアンが考えるパーティからは逸脱する。

「うーん、じゃあ、他の人に相談してみようか。魔神さんたちも忙しいだろうし」

 リムが呼べばすぐさま飛んでくる。しかも内容が内容だ。何を置いても飛んでくる。

『きゅうちゃんに聞いてみる?』

「きゅうちゃんか……。きゅうちゃんとセバスチャン両方に聞こう」

 賢明な判断だ。

『あ、あの。わたくし、炎の上位神様をお喚びしたく』

 リリピピがおずおずと願い出る。

 いつも炎の精霊に振り回される炎の上位神にもねぎらいを兼ねて招じたいと言った。

『実は、その、炎の精霊王の下知により、炎の神殿にシアン様のことを悪く伝えたことを気に病まれていまして』

「そうなの? 気にしていないのに」

『遠い昔のことすぎて、そんなこともあったなあ、という感じですね』

「はは」

 東南の大陸に渡り、砂漠を超え、火山へ赴いたのは一昨年のことだ。それから様々なことがあった。東南の大陸で大地の民と出会い、魔神を茶会に招待し、幻獣全員と共に大陸西のあちこちを遠出し、流行り病と天変地異による物資配布を行い、異類排除令から異類を逃し、魔族の病のために特効薬を作った。

『魔神と炎の上位神ですか。いっそ、他の上位神もご招待しましょうか?』

「それはどうなんだろう」

『いっぱいが良い!』

 みなで相談した結果、魔神と炎の上位神を招待するならば、他の神もそうした方が良いだろうとなった。

『他の神々もまた、シアンたちに並々ならぬ興味を抱いている。それを精霊王らの下知で接触を控えるよう差配してくださったのだ。一部の者だけその禁を破っては、同輩の方々は面白くなかろう』

 鸞の言葉に一同は頷いた。

『神威は人の身には重圧にゃよ』

 アベラルドやリベルトを始めとする魔族は招待できないとなって、リムは消沈した。

『リム、アベラルドは島の転移陣の登録をしたから、またいつでも来て貰えるよ』

『そうだよ。浜辺で一緒にバーベキューをしようよ』

『湖で舟遊びも良いですね』

『み、水遊び以外も楽しいと思いまする』

「リベルト陛下にも随分お世話になったし、もし良かったら、一度島に来て貰おうよ」

『うん……』

『……』

『私の頭と乗り比べするの? 人間の中で一番偉い人だよね? 乗せてくれるかなあ』

『……』

『そうだね。ネーソスに乗せて島に連れてきてあげたら、お返しに乗せてくれるかもしれないね』

『きゅぷっ。頭の上に亀を乗せる国王!』

『ネーソスに狙われているにゃよ』

『ニカの国王はネーソスに乗りたがっているらしいから、頼めば乗せてくれるかもしれないの』

『ニカの国王もつるつるなの?』

『どうだろうねえ』

 ひとまず、気持ちを持ちなおしたようで、シアンは安堵した。これでこの話は終わったと思っていた。まさか、リムの希望が叶うなどとは思いもよらなかった。



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