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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第十章
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45.成獣の祝い(準備編2)  ~悪気なく褒めるの巻/使いたい放題/ここだっ!~

 

 宴会の準備もみなですると楽しい。

 カラムの畑に行き、リンゴとトマト、サトウキビなどを大量に貰ってくる。島で栽培した方が美味いというので、砂糖も自家製だ。精製には遠心分離器の他、ユエが作った器具が活躍している。

『魔晶石や魔粋石もあるし、動力源は気にしないで良いのだから、作りたい放題なの! 魔石を組み込めなくて手動になっても、力自慢が揃っているから、大丈夫!』

 サトウキビのしぼり汁をより多く精製することで上白糖、それよりも少なく精製したものがきび砂糖、さらに精製が減ったものが黒砂糖となり、徐々に色も濃くなる。不純物が多い黒砂糖は独特の香りや味がし、きび砂糖はサトウキビの風味が残っている。

 その砂糖とジョンの牧場から貰って来た卵、牛乳、ヨーグルトを薄力粉とバニラエッセンスに加えて混ぜる。

 スライスしたリンゴを深皿に並べて生地を流し入れ、レーズンを上からまぶす。オーブンで焼いた後、シナモンパウダーを振りかける。

『美味しい!』

『あっさりしているね』

『リンゴはシナモンと合いますなあ』

 試作の味見を幻獣たちとする。少しずつの賞味だが、他にも色々作るため、すぐに腹いっぱいにならないように、とあらかじめ言っておいたので、皆、次の料理への期待を持っている。

『これ、すごい速さで泳いで逃げる貝』

『ベヘルツトからは逃げられなかったよ』

『……』

 ユルクとネーソスと共に一角獣も海の狩りに参加したらしく、大きな二枚貝を狩ってきてくれた。

「確か、殻を開閉させて海水を噴き出すことですごいスピードで移動するんだよね」

 大きな貝柱をくり抜き、塩コショウしてフライパンで軽く焼く。湯に塩を加えてトマトを入れ、短時間で引き上げて水にとって皮を剥いて細かく切る。貝柱をレタスで巻き、半分に切る。トマトソースを敷いてその上に貝柱を盛る。

『わあ、綺麗!』

『あは。白い皿に赤、緑が鮮やかだね』

 リムと麒麟が皿を矯めつ眇めつする。

「おもてなしだから、目でも楽しんでもらいたいものね」

『野菜は海の幸とも合う』

『ベヘルツトの突進のお陰にゃね』

 肉の旨みがしみ込んだ野菜を好むユエが目を細めて海の幸の旨みがしみ込んだ野菜を味わい、カランも頬張ったものを咀嚼する。

『シアン、お肉は?』

「うん。肉料理も作ろうね」

 ティオの催促に肉を手に取る。

 ひと口大に切った肉を叩いて伸ばし塩コショウする。卵に粉チーズとパセリを加えた衣につけ、フライパンで焼く。

「最初は中火くらいかな。後から焦がさないように弱火にするんだよ」

『おお、炎が見る間に小さくなりました!』

『抜群の火加減!』

『流石は炎の精霊王!』

『……』

『リリピピ、あやつらはあれでも心底賞賛しているのだよ』

 シアンの言葉に見る間に勢いを弱める炎に、わんわん三兄弟が尾を振り、リリピピが悄然とし、鸞が慰める。

 レモンの他、くし切りにしたトマトやレタスを添える。

「雄大はご飯が好きだから、それも用意しよう」

「ピィ!」

 ティオが喜ぶ。

 米をスープとみじん切りしたエシャロットとカシューナッツと共に炊き上げる。そぎ切りした肉をフライパンで表面を焼いた後、海鮮醤に米酢、醤油、スイートチリソースと混ぜ合わせ、じん切りしたショウガとニンニク、小口切りした青ネギを加えたタレを塗ってオーブンで焼いて中まで加熱する。炊き上がったピラフの上に肉を盛り、香草を散らす。

『シアン、雄大の君に味見して貰わないと』

 ティオの言葉に頷いて、大地の精霊を喚び出して試食して貰う。

『あう!』

 口に合った様子で、唇を油でてからせながら咀嚼している。

『お肉がふんわり!』

『ジューシーだね』

「次は野菜とご飯の肉巻きを作ろう」

『肉入りおにぎりの逆?』

「ふふ。そうなのかな」

 青じそとニンジンを千切りにして後者は塩で揉んでごま油と合わせる。薄く切り塩コショウした肉の上にご飯を乗せて伸ばし、青じそとニンジンを包む。

「肉の端と端をくっ付けるようにして巻くんだよ」

『くっ付かないでござりまする』

『中身が多いのではないか?』

『減らして減らしてっ』

「ふふ。上手に巻いているよ。巻き終わりを下にして転がしながら焼くんだよ」

 肉に火が通ったらタレを回しかけて、全体に絡める。

 口が大きい幻獣はそのままで、体が小さい者の分は切り分ける。

『ガッツリ感がありますなあ』

『ごはんとお肉も合う』



『シアンちゃん、やっぱりお祝いにはスポンジケーキは欠かせませんよね!』

「スポンジケーキかあ」

『スポンジケーキってなあに?』

 リムは小首を傾げた。

『お祝いに食べるお菓子ですよ。小麦粉と卵などで作るふわふわの甘くて美味しいお菓子だよ』

『パウンドケーキ?』

 九尾の説明に、リムが更に問いを重ねる。

『もっとふわふわですよ』

 シアンは時折、料理で失敗する。

 初期段階ではマッシュポテトのジャガイモが煮足りなかったくらいだが、今はより高度な調理をするため、失敗こともある。なお、その時のマッシュポテトはティオが平気な顔で食べていた。いつも美味しいと言ってくれるが、失敗作も平気そうに食べるので、なるべく失敗していないものを食べてもらいたいものだ。

 さて、ケーキのスポンジは膨らまずに中央がへこんでしまった。

「ああ、へこんじゃった……」

「キュア~」

 リムも残念そうに目じりを下げている。への字口もやや角度が鋭い。

「へこんじゃった分だけ、上にたっぷりクリームを塗ろうか」

「キュア!」

 元気よく返事する。

『へこんじゃう方がいい!』

「つ、次は平らにふっくらするように焼くから」

『ふわふわ?』

「そうだね、ふわふわだね」



 卵黄と砂糖を混ぜ、バニラエッセンスを加える。

「ボウルの底の砂糖がなくなるまで混ぜるんだよ」

「キュア!」

 今度こそ、ふんわりしたスポンジを作るためにリムはやる気に満ち溢れている。

 次に、卵白を泡立てて砂糖を加えて混ぜる。

「この時は強く混ぜてね。渦巻きを作るんだよ」

『ぐるぐる~』

「うん。十分に硬くなったね。これをさっきの卵黄に何回かに分けて加えてふんわりと混ぜるんだよ」

 そこへ空気を含ませながらふるった小麦粉に加えて混ぜる。

「こうやって底から掬い上げるようにしてね」

 溶かしたバターを木じゃくしに伝わせて入れ、牛乳を加えて滑らかになるまで混ぜる。

 型にバターと油を塗り、タネを流し入れてオーブンで焼く。

『廻炎、火加減をお願いね!』

『ああ、良いぞ』

 炎が大きく揺らぎ、そこからするりと炎の精霊が姿を現す。

『英知、一緒に見てくれる? スポンジの中がね、きちんと焼けているように!』

 炎の精霊だけでは心もとないのか、という言葉は誰からも上がらなかった。リムが決意を瞳に籠めて肩を怒らせていたことや、当の本人の炎の精霊が風の精霊と共同作業ができるのを喜んだことためだ。

『精霊王二柱がついているのです。ふっくら焼けないはずはありません!』

 九尾の言う通り、最適な時機を教えられ、取り出したスポンジからは得も言われぬ甘い香りが漂ってきて、銀色の光の精霊も顕現した。

「すぐに型から外すとケーキがぼろぼろになるから底を上にして冷ましておくんだよ。冷まし過ぎるとはがれにくくなるから……」

『深遠!』

 シアンの解説を聞いたリムが闇の精霊を喚び出す。

 丁度良いくらいまで冷まして貰って型からスパテラでなぞってそっと取り出す。

『わあ! 綺麗!』

「焼きたてよりも冷ました方が甘味が強く感じて美味しくなるから」

 何かに包んで余熱を逃がそうとするシアンを余所に、再びリムが闇の精霊に願って十分に冷やして貰う。

『精霊王三柱の力を借りるのね』

『リムは贅沢にゃね』

『これで美味しく作れないはずがありません』

 ユエが恐縮して少し離れた場所から首を伸ばして眺め、カランは呆れ、リリピピがさもありなんと頷く。

 わんわん三兄弟は闇の精霊の顕現に硬直して言葉もない。ユルクがそっと厨房の隅に移動させる。

 スポンジを薄く三等分に切り分け、生クリームを塗り広げてスライスしたイチゴを乗せていく。その上にスポンジを乗せる。これを繰り返し、上のスポンジにも生クリームを塗り、最後に側面もコーティングする。

「次は生クリームの絞り出しだね。これはユエが作ってくれた革袋なんだよ」

『ワイバーンの皮膜の素材を使ったの』

『ユエも贅沢にゃね』

 これなら頑丈だから幻獣も扱うことができるとユエが胸を張り、カランは呆れた視線を傍らに移す。

 円の縁に一つ一つ絞り重ねていく。大きい口金で内部に点々と絞り出し、その上にイチゴを乗せる。白と赤が美しい。

『わあ! 綺麗!』

『生クリームがいっぱい』

『ショートケーキは王道ですなあ』



「あとはクレープでリンゴのケーキを作ろう」

『リンゴ!』

 卵、卵黄、砂糖、ヨーグルト、水、牛乳、空気を含ませながら振るった小麦粉、バニラエッセンス、溶かしたバターを順によく混ぜながら加える。

「一つ一つ丁寧に混ぜてね」

 リムと交代して九尾や鸞、カランも手伝う。

 これを冷やした後、フライパンで薄く軽く焦げ目をつくくらいに焼く。何枚も焼く。

「少し表面に焦げ目がつくぐらいの方が香りが良いね」

『……』

『え、味見? ちょっとだけね』

 器用に薄く焼くユルクにネーソスが強請り、切れ端を貰って美味しそうに食べている。

「表面に穴が沢山開いて、タネが乾いてきたらひっくり返すんだよ」

『今だっ!』

 九尾がくわっと目を見開いて裏返す。静かにできないものかと鸞とカランが目くばせし合って嘆息する。

 庭では麒麟にセットして貰った皮むき器で一角獣がリンゴの皮を剥いている。皮を剥き終わったリンゴをユエがいちょう切りにする。

「リンゴは水と砂糖と一緒に柔らかくなるまで煮てね」

 水で溶いた片栗粉を加え、火を消しブランデーを入れる。

 ティオが器用に嘴で木じゃくしを咥え、アマンドプードルを弱火で軽く焼き色がつくまでから煎りする。

 リリピピに突かれてようやく動き出したわんわん三兄弟は焼きあがったクレープの上にリンゴジャムを塗る。そこへアマンドプードルをふりかけ、クレープを重ねる。同じ作業を繰り返していく。一番上に砂糖と細かくちぎったバターをちょんちょんと置き、オーブンで焼く。

 ヨーグルトと生クリーム、粉砂糖を合わせ、切り分けたケーキの上からかける。

『タネにもヨーグルトを入れているからひと味違うな』

『ソースもあっさりしていますね』

 鸞とリリピピがしきりに啄みながら感想を言い合う。

 料理は整った。



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