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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第十章
550/630

10.ティオとリムの宝物   ~こっそりわんわんはバレバレの巻/気になるゥ~

 

 ティオは更に感知能力が上がり、縄張りである島全体の気配を察知することができるようになったという。

『流石は大地の精霊王の加護を持つグリフォン!』

『ティオのお陰で、大量の薬草を採取できたよ』

『ティオ様は上空の気配察知も可能だとか』

『わんわん三兄弟がこっそりお手伝いして失敗したのもばればれということかにゃ』

『なっ……!』

『わ、我らはその』

『こっそりなどとは』

『どこまで強くなるんでしょうかねえ』

『ティオだからね』

『あは。ベヘルツトもきっともっともっと強くなるんだろうねえ』

 世にも稀な力や特技を持つ幻獣たちをしてさえ感心させるティオではあったが、シアンからしてみれば、覇気に溢れていることは分かるものの、やはりどこか可愛いという印象がある。

「ティオ」

 呼べば、シアンの胸にそっと頬を寄せる。抱えることもようようの大きな鷲の顔を抱きしめる。くぐもった喉を鳴らす音が腕に響く。

 この世界で常に共に在った、物理的にも精神的にも頼りになる存在だ。

 少々過保護で排他的なきらいはあるけれど、シアンの大切な相棒だ。

「今日は何をして過ごそうか」

「ピィ?」

 小首を傾げるとやはり愛らしいと思える。その背をそっと撫でた。今は畳まれている、大空に羽ばたき陽の光に輝く翼、これを失うことがなくて良かったと思う。自在に飛ぶ彼の自由がいつまでも守られることを祈った。



『ぼくね、大きくなる夢を見た!』

 そう嬉しそうにリムが話したのはいつのことだったか。

 シアンはAIの多様な可能性をつぶさに見て来た。

 リムが大きくなる夢を見たといった。

 AIは夢を見るのかという疑問を、リムならばとシアンは大らかに受け入れて来た。それは人工物が生み出した個性であったとしても、接するに好ましい存在だったからだ。

 AIの生み出した個性と付き合ううち、互いを尊重し合い、様々なものを分かち合い、それぞれが感じ入り、音楽や料理を生み出した。それは一種のコミュニケーションであり、人とAIの対等な交流だった。

 雨上がり、するすると七色の淡いが弧を繋いでいく。

『わあ、虹だ!』

『綺麗だね』

 リムの歓声にティオが頷く。

『リム、虹の根元には宝物が埋まっているという言い伝えがあるんだよ』

『地面に埋まっているの?』

 九尾の言葉にリムが小首を傾げる。

 シアンはティオに本当にそういう言い伝えがあるんだよ、と先んじておく。

『ドラゴンは宝物を守ると言われているね』

 シアンのフォローによって、ティオの制止がないことに安心した九尾が更に説明を続ける。

『宝物?』

『宝石とか黄金で作られた冠とか杯とか』

『ふーん』

 リムは九尾が挙げたものには興味がなさそうだ。

『大切で大事にしたいものだよ。リムにはまだ早いかな?』

『あるもの! ぼくが守るもの!』

 揶揄う九尾に、リムがへの字口を急角度にして反論する。

「リム、宝物があるの? あ、分かった。ユエとフラッシュさんに作って貰ったタンバリンでしょう?」

 取りなすシアンが口を挟む。

『あ、タンバリンも!』

 ぴっと前脚を上げる。

「あれ? 他にもあるの? すごいね、リムはたくさん宝物があるんだね」

『うん!』

 シアンに感心され、得意げに口元を緩める。

『他の宝物は何なの?』

 九尾も興味をそそられて尋ねる。

『んー、ひみつなの!』

『えェ、気になるゥ、教えてよォ』

 なぜか語尾を伸ばして上げる九尾に鸞がため息をつく。

『意地の悪いことを言うからだ。宝物はおいそれと教えてくれるはずがなかろう』

 そうは言うものの、リムは後から、ティオにだけこっそり教えた。秘密は共有してこそだ。

『あのね、ぼくの宝物はね、シアンとティオと音楽! あ、あと、深遠と稀輝と、雄大と英知と水明も! それと廻炎も。幻獣たちも!』

 耳打ちしてくるリムに、ティオもぼくも一緒だよ、と笑った。

 宝とは綺麗で価値あるものの象徴だ。ティオとリムは綺麗で価値あるものに沢山接してきた。黄金が不要なほどだ。

 大切で大事にしたいものが増えた。

 きっと、この先、もっと増えていく。

 心躍らせて、この世界を分かち合って、守っていく。



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