1.お兄さん
人から見たら、動く岩山だ。
大きく硬い。
変則的な緩急付いた動きが、対峙した者の焦りを加速させる。しなる丸太ほども太い尾が空を切る鈍い音も焦燥を募らせる。
硬く凹凸のある鱗で覆われた体、長い首を巡らせ、その視線に縫いとめられる。百二十度の角度で開く口から氷柱のような牙が覗き、ブレスが噴出される。
岩をも砕く鋭い鉤爪がついた四肢は柔軟に動く。高い魔力でもって、大空を羽ばたく。
ドラゴンと対峙するのは、死に直面すると同義だ。
種によって強さや知能は様々だが、生態系の頂点の一角を占めることは動かしがたい事実だ。
そんなドラゴンよりも二回り小さい子供たちが集まっていた。
彼らは高度知能を持つ種族で、力と知能があるだけに、単独行動することが多い。珍しい仕儀と相成ったのは、差し迫った危険と、とあるドラゴンを頼みにした結果である。
彼らが助けを求め待ち望んだドラゴンは、たし、たし、と四肢に力を入れ、ピンク色の指でしっかと大地を踏みしめる。短い四肢も細長い体も尾の先までも、ふんわりした白い毛で覆われている。黒い皮膜の翼が闇色に輝く。丸い顔に黒々とした両目が理知的な輝きを灯している。
居並ぶ仔ドラゴンたちはぱっと笑顔を浮かべる。
『リムお兄さん!』
リム、来臨す。
「リムお兄さん」
色々と破壊力のある言葉です。




