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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第二章
50/630

3.国境越え3  ~黄金色の食物/むずむず~

 

 ゼナイド側の山脈を徐々に標高を下げた頃、空が陰り始める。

 山の日没は早い。それを見越して昼を早めに取っていたので、直近のセーフティエリアで早々と夕食の準備を始める。

 半日飛び続けたティオは元気なもので、シアンと九尾を降ろすと、リムと一緒に狩りへと出かけた。


 シアンはメイン職種に料理人を選択し、サブ職種に吟遊詩人を取っている。後者は戦闘補助として役立つものの、そのことを失念している。普段、ティオもリムも戦闘補助を必要としないからだ。以前、他のパーティと戦闘をすることが一度あったが、何もしなかった。普段から魔法を使わないので、どういう時にどうするのかが皆目見当もつかなかった。自分が戦闘に参加するという意識を持っていない。

 これはティオとリムがシアンが戦闘に参加するのを嫌がったためでもある。シアンを少しの危険にもさらしたくはないという過保護からくるものである。

 翼を持つNPCは移動区域が広いので、パーティ戦闘範囲も広い。そのため、ティオが多少離れたところで戦闘していても、シアンにも経験値が入る。戦闘をしなくてもどんどんステータスは上昇していった。


「冬眠から覚めた熊とか出てこないかな?」

『いそうですねえ。それをさっくり狩ってきそうですなあ』

「あ、そうか。ティオならそうだよね」

 バーベキューコンロで火を熾すのは国境を越えても同じ動作だ。九尾も何くれと手伝ってくれる。

「英知たちの加護があったとはいえ、やっぱり多少は寒いから、汁物があった方がいいよね」

『全く同感です』

 あらかじめ下ごしらえを行っておいた根菜を水の内から鍋に放り込み、干し肉とソーセージを入れる。サツマイモを見た九尾が目を輝かせるのに、多めに入れておく。保存が利くので大量に持って来た野菜の一つだ。


『シアンちゃん、鍋はきゅうちゃんが見ておきますから、本格的な異界の眠りに入る前に一旦、眠って来たらどうですか? 獲物を捌いて調理して食事して片付けて、としていると時間がかかりますよ』

「よく知っているね」

『異界の眠りの主を持つ召喚獣ですから!』

 そうは言うもの、九尾はほとんどフラッシュと街の外へでたことはない。そのことに関して詳細をさほど知らなかったシアンは疑念を抱かず、九尾の提案に乗った。

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 念のため、テントを出してその中へ横たわり、ログアウトする。ログアウトをこの世界で口にすると、異界の眠りと聞こえる。

 現実世界で用事を手早く済ませ、すぐに戻り、テントを出た。

『あ、シアン!』

 ちょうどティオとリムも狩りから戻ってきており、シアンを見つけたリムが飛んでくる。九尾の他、風の精霊の姿もある。

『はい、お土産! 綺麗な花があったから摘んできたよ』

 白い小さな花が多数集まり半円を成したものを、嬉しそうに差し出す。

 根雪の下、地表が凍てつかず、早咲きの花が開いたのだろうか。

「ありがとう、リム。でも、これは毒のある植物なんだよ。種子に触っても駄目だから、一旦、手を放そうか」

 折角、嬉し気に持ってきてくれたものの、残念ながら毒草だ。


 料理人として毒草の知識は多く持つ。経験値を積むにつれ、ゲームシステムとして知識が自然と脳裡に浮かぶのだ。毒草は食用の類縁種ととても似ていることが多々あり、悲惨な結果を引き起こしかねないのだが、それもうまく回避することができている。スキルレベルが低いと、知らないうちに毒のある植物を食べることもあるらしい。シアンの場合、そうなる前に精霊に止められる。

 ティオやリムはほとんどの毒は摂取してもどうということはないらしい。自分たちは平気だけれど、シアンに弊害があるかもしれない、とよくよく気を付けてくれている。


 シアンの言葉に、リムが驚いて毒草をシアンから遠ざける。

 風の精霊がシアンの言葉を補足する。

『雪もどきはセリ科の植物でも寒さに強いものだね。雪が降り積もっているような白い小さな花がこんもりと咲くことからつけられた名称だよ。これを見分けるのは簡単だ。同じ長さのいくつもの花柄が放射状に延びて多数の花をつけた散形花序が特徴だ』

「この種子に触っちゃ駄目なんだね」

 もともと持っていた知識が、風の精霊の説明によって、さらに熟知に深まる。

『水泡や酷いやけどを負う。皮膚が黒ずんで戻らない』

 リムもティオも興味津々で小首をかしげて眺めている。

『君たちは大丈夫だろうね』

 風の精霊が幻獣たちを見て保証する。

「そうなの? すごいね、二人とも」

 そうだとは思いつつも、毒草に触れたリムが無事だと風の精霊の保証を得て、シアンは胸をなでおろした。

『シアンは気をつけてね』

『痛いとダメだからね』

 ティオの念押しに頷くと、リムも同調する。

 もともと高位の幻獣なので身体能力が高く、毒の耐性も強い二頭だが、さらに精霊の加護を得てほとんどの毒の影響を受けない。

 シアンも精霊の加護を受けてはいるが、異界の眠りを持つ異類として飛びぬけた身体能力にまでは至らない。風の精霊曰く、今後の成長いかんによっては毒の耐性などついてくるかもしれないとのことだ。


『さあさあ、陽が落ちて寒くなる前に、夕食を作ってしまいましょう』

「そうだね。リムも手伝ってくれる?」

 空腹の九尾に急かされてシアンはティオたちの狩りの獲物の攻略に取り掛かった。シアン最大の役目である。

『私も手伝う』

「英知も? ありがとう」

 以前、捌けるようになると言ったことを実践に移す風の精霊にシアンは目を丸くした。

 この世界へ来るまでは動物の肉を捌いた経験はなかった。スキルの補助があり大分慣れた行為であるものの、これを寒風吹きすさぶ場所で行うことの困難を考える。この世界では旅は単なる移動だけでなく、食料確保や調理一つとっても大変なことだ。だから、大体の旅人は保存食で食事を済ませるが、いかんせん、ティオがよく食べる。それだけの働きをしてくれているし、シアンは料理人なので、ここで役に立っておきたい。


 寒さに耐性のある幻獣たちも熱い汁ものを喜んだ。

『お汁が甘いね』

「サツマイモと玉ねぎが入っているからね。あまり好きじゃないかな?」

『ううん、美味しいよ!』

 ティオが笑うのにシアンも微笑み返す。

『お代わり貰ってもいいですか?』

 既にレードルを持ち、鍋の前に陣取りながら九尾が聞く。

「うん、どうぞ。自由にお代わりしてくれていいんだけれど、残りが少なくなってきたら、他のみんなに食べるか聞いてね」

『わかりました!』

 バーベキューコンロに乗せられた鍋は高い位置にある。後ろ脚立ちの姿勢で器用にその場に浮き上がって深皿に汁をよそう。

 九尾を同行するに当たり、彼専用の食器を新しく購入したところ、気に入った様子だ。なお、カトラリーを使って食べる。

 幻獣は意思疎通のできる獣であるものの、スプーンやフォークを使って食事をするのを見るのは初めてだ。

 そして、買い物についてきたリムも自分も使うと言い出した。光の精霊や闇の精霊に食べさせるためにフォークを使っていたものの、自分が食べる時は皿から直接食べていた。

 リムが自身で食べ物を口に運ぶには小さい方が使い勝手がいい。

 子供用の小さいカトラリーを探したら、なぜかディーノの店にあったのでリムが喜んだ。おもちゃの様に小さいけれど、握りの部分が持ちやすく窪みのついた具合が良さそうなもので早速購入した。

 そして今、深皿からスプーンを使ってサツマイモを救い上げたリムが、口に運ぶ前に言う。

『きゅうちゃんの好きなサツマイモだ!』


「きゅうちゃん、サツマイモばっかりだね」

 九尾が自分でよそった深皿にはあからさまに偏った配分で具材が入っている。

『戻した方がいいですか?』

「はは、いいよ。元々多めに入れたからね。その分は取ってくれて構わないんだけれど、次からは他の人は具材が均等になるようにしてね」

 理を説いて次からそうしてほしいと伝えると、九尾が頷いた。

『きゅうちゃん、ぼくのサツマイモをあげようか?』

 リムがスプーンに掬ったサツマイモを見せる。

『ありがとう。でも、シアンちゃんも言っている通り、リムはバランスよく色々食べてね。色んな栄養素を取り入れることでリムの体を強く健康にするためにシアンちゃんが作ってくれたんですから』

 差し出したスプーンを慌ててリムが口に入れる。

 リムをからかう傾向にある九尾を一概に叱れないのは、こうやって周囲の者たちの気持ちを慮って諭すこともあるからだ。教わったもののうち、何を取り入れ自分のものにしていくか、取捨選択の自由はリムにある。


「リムもティオも好き嫌いなく色々食べてくれるから、作り手としては嬉しい限りだよ。ティオ、お肉をもっと食べる?」

『うん、食べる。でも、ぼくはお肉中心に食べているけれど』

 火の調節をして新しく肉を焼く。食事の最中に席を立つことは行儀が悪いが、いかんせん、量が多くて一度に調理できないし、できたとしても料理が冷めてしまう。なお、他の冒険者はもっと適当だ。

 イスに座ってテーブルに向かう九尾の方がよほどテーブルマナーをわきまえている。狐がする行動ではないということを差し置いて言えば、であるが。

 リムはテーブルの上に座ってカトラリーを使っている。リム用の小テーブルを用意したいところである。その場合、テーブルの上に小テーブルを置くことになる。

「もともとお肉しか食べていなかったからね。今は色々食べるようになっているんじゃないかな? 食べてはいけないものや不要物じゃなければいいんだけど」

『幻獣の生態は明かされていませんからね。本人だって、本能の赴くままに行動していますが、それがどう作用しているかわかっていないことが多いです。ですが、ティオやリムのような高位幻獣であれば、さほど身体に影響はないでしょう』

 シアンの疑問に九尾が答える。

「そうなの? じゃあ、バランスよく、好き嫌いなんかも考えなくていいのかな?」

『ほとんどの毒が効かないような個体ですよ?』

「そうか。好き嫌いしてもいいんだね」

 してみると、シアンがバランスよく様々な材料を使って、と思っていたのも実は独りよがりだったのだろうか。

『好きなものはたらふく食べてもいいでしょうが、何でも食べられることは良いことですよ。先ほどリムにも言った通り、摂取した色んなものが総合的に肉体を作っていくのですから』

『ぼく、シアンが作るごはん、大好き! 色々食べて元気になるね!』

『ぼくもシアンの作る料理は大好きだよ。野菜がこんなに美味しいなんて思わなかった』

 九尾の言葉にリムとティオが追随する。

「ありがとう。皆、沢山食べてね」

 ティオもリムも元気よく是と答えたが、教え諭した九尾は残念そうに食べつくした深皿を見ている。

「きゅうちゃん、サツマイモはまだあるから、焼き芋を作ろうか?」

『や、焼き芋?!』

 九尾が驚愕の表情で口を開き、次いで喜色の表情で口の端を吊り上げる。

『ですが、オーブンがなければ、焼き加減が難しいのでは?』

 フラッシュ宅のオーブンはシアンが同居する以前はもしかすると、九尾が焼き芋を作るのに利用されていたのかもしれない。

「そうだね、でも、なんていうか、その、ズルしているようで気が引けるんだけれど、そこは英知と稀輝に協力してもらえれば美味しくほっくり焼けると思うんだ」

『いえいえいえっ、持てる力を使うのが何ぞ悪いことかっ! あらん限りの能力で美味しく作りましょう、焼き芋を!』

 どれだけ食に力を注ぐのか。

 しかし、好物を美味しく食べることは人生で重要なことだと思う。


 精霊の協力のもと、作った湯気が立つ熱い芋をティオもリムも気に入り、頬張っている。

「さあ、お代官様、黄金色の食物ですよ」

 ふと思いついて焼けた芋を半分に割って九尾に渡すと、赤い釣り目が光る。

『桔梗屋、そちも悪よのう』

 半透明の扇の幻影を出現させ、きゅっきゅっきゅ、と笑う。

 すぐに扇を放り投げて芋を受け取り、食べる。熱いうちが美味だ。

『まさしく、黄金の味! 甘くて美味しいです。きゅうちゃん、買収されまくります』

「喉が渇くのが難点だけどね。でも、水分補給を促すのにはいいのかな? はい、お茶をどうぞ」

 シアンは幻獣たちが美味しそうに食べる姿を見るのが好きだった。この世界で彼らと出会い、料理人として活動することが楽しい。

 世界有数の高山が連なる山脈を越えた場所とは思えぬ、呑気な食事風景だった。



 夕方以降はすることもないので、調理器具を片付けると早々に眠りについた。

 シアンはログアウトして現実世界の用事を済ませる。

 明け方まだ暗いうちにログインし、身体を起こす。

 テントを出ると、早朝の冷たく澄んだ空気が鼻腔を貫く。 

 ティオの翼で越えてきた白い頂の下、黒い岩肌に雪を塗りつけた急峻な尾根が見える。雪と岩の層が細かい筋をいくつも作って朝日に照らされている。

 美しい光景にひと時見とれる。

 テントの傍らには九尾が丸まっている。ティオもリムもいないが、狩りに出かけているのだろう。

 戻って来たらすぐに調理に取り掛かれるよう、火を熾す準備に取り掛かる。


 湯を沸かしていると、近くの木の梢が揺れ、雪がはらはらと落ちる。

『シアーン!』

「リム、お早う!」

 少し離れたところから、白い毛並みの幻獣が前脚をぴっと上げて左右に振っている。朝の挨拶をすると嬉しそうに笑う。

 リムはセーフティエリア近辺を見回っていたようだ。

 周辺を飛び回り、枝の隙間に顔を突っ込んだり、森の観察に余念がない。時折、興をそそることでもあったのか、隙間に出たり入ったりと高難度超高速もぐら叩きのもぐらになっている。

 周囲に残っている綿帽子に同化しそうだが、ちょこまかと動き回るため、どこにいるかは一目瞭然だ。

 尾を左右に揺らす楽しそうな様子を見ていると感化される。

 シアンの脳裡に旋律や和音、律動が過る。つと枝の隙間を縫って、陽の光が一筋射した。その光の粒子がちりちりと小さく輝く囁きから、徐々に鮮やかに姿を現すようなフレーズが流れていく。

 シアンが脳に覚え込ませた音楽を沈黙のうちに聞いていると、今度は風の精霊が影響されたのか、その姿を現す。

 するりと梢を揺らしてこちらへ入り込んできた冷たく清涼な風が、仄かに爽やかな緑の香りを運んでくる。シアンの眼前でふわりとほどけ、大気の粒子が少年の姿を形どる。白金の巻き毛が陽の光に当たってうっすらと輝く。理知的な眉に長い睫毛も白金色で、白い肌と相まって、頬と唇の血色の良さを際立たせている。

「おはよう、英知」

『おはよう』


 視線の隅にリムの白い小さな体が映り、そちらを見やる。木の幹に背中を押し付けている。こすり付けているようだ。

 シアンは近づいて、リムの体を持ち上げる。

「リム、怪我していない?」

 凹凸のある幹は樹皮が硬く、強く押し付けると痛そうだ。

『してない!』

「どうかしたの?」

 元気の良い返事に安心しながらも、不調かどうかを問う。

『体がなんだかむずむずするから、こすってたの』

「痒かったの? そういう時で僕がいる時は、僕に言ってね。怪我しちゃうかもしれないし、汚れるよ」

『分かった!』

 シアンの過保護な言葉にリムは嬉し気に返事をする。

「まだ痒い?」

『ううん』

「じゃあ、汚れをとっておこうね」

 リムをかかえたまま、コンロの傍に戻り、マジックバッグから布を取り出してリムの背中を中心に体を拭く。

「白い毛並みだから汚れがあると目立つからね」

『ぼく、汚れちゃったの?』

 腹に掌を差し入れられて大人しく寝そべっていたたリムが顔を振り仰いで見上げてくる。はたはたと翼が時々震える。

「ううん、綺麗になったよ。でも、毛の中にも入っているかな? お風呂には入った方がいいかなあ」

『お風呂? 暖かいお湯に浸かるの?』

「うん、昨日は入れなかったものね」


 アダレードではフラッシュ宅で風呂を貰っていた。ティオは風呂場に入れないので、時折水浴びをして汚れを取ることにしていた。風で水を汲み上げてシャワーの要領でまき散らすのに、ずぶ濡れなった。リムがはしゃいで楽しんでいた。ティオの巨躯も光の精霊と風の精霊の力を借りて乾かすのでそう手間はない。

「寒いし、入りたいところだけれどね」

 旅先ではなかなかそうもいかない。今、ティオの水浴びの余波を受けると、凍えてしまう。

『では、探しておこうか?』

「頼んでもいい?」

『もちろん』

 うっすら笑うと、幼いながらも硬質な美貌が綻ぶ。小ぶりの鼻と頬のラインはあどけなさが残るが、浮かべる表情が大人びていてどこかアンバランスで、先の成長への期待を抱かせる。

「楽しみにしているね」

 シアンも微笑んだ。


 朝食後、少し時間を貰ってピアノを弾いた。

 先ほど、音楽を思い描いたこともあるが、目の前に広がる山の峰々の美しい景観の中で演奏してみたいと思ったのだ。体調や人の耳目、何より楽器の持ち運びを気にせず演奏できる機会はない。

「このセーフティエリアなら、周囲に人がいないし、こんなに標高の高い場所で演奏なんて滅多にできることじゃないから」

 そう言うと、急ぐ旅ではないのだから存分に、という内容の応えが口々に返ってくる。

 風の精霊から贈られたピアノは神器であり、湿気温度重力気圧等々、様々な耐性を有しているそうだ。闇の精霊から授かったバイオリンも同様だ。


 ピアノの前に座ると、気持ちが吸い寄せられるように集中する。

 可愛く優しく跳ねるような出だしを弾く。

 柔らかく語り掛けてくる音に頷くように低音が呼応する。

 やや哀愁を帯びた旋律に変わり、ゆるゆると高音を奏で、再び出だしの語り掛けを可愛く優しく、柔らかく繰り返す。

 静かな内に秘めた情熱が垣間見える。

 最後は優しくも芯の通った高音の旋律を奏で、しめくくりは緩やかな語り掛けを紡ぐ。しなやかで、優しい調べだ。

 ティオもリムも九尾までも揃って音に合わせて尾を振っている。思わず笑うと、それぞれ笑い返してくれる。

 曲が終わる余韻もそこそこに、リムがいそいそとマジックバッグからタンバリンを取り出す。ティオの足元に大地の太鼓が現れる。

「何の曲にする? 一曲か二曲くらいにしておこうね」

 あれもこれもと演奏しては昼になってしまう。それも楽しいものの、いかんせん、シアンも現実世界の予定がある。どうしても二重生活の制限が付きまとう。彼らは急ぐ旅ではない。だが、シアンの状況は配慮してくれる。

 ティオとリムが好きな曲を一曲ずつ演奏して、朝の音楽は終了した。テンポの良い曲に、九尾も尾だけでなく頭も振りながら楽しんだ。一緒に楽しんでくれることが殊の外嬉しかった。




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