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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第九章
462/630

36.お使い  ~無謀だけれど、まあ、何とかうまくいった/亀さん蛇さん人気者1~

 

 翼の冒険者に説得されて逃げると決めた者たちは、シアンが幻獣のしもべ団に連絡することによって、複数の団員が道行に付き添い誘導した。

 シアンがこの任に着くのはマウロに断固として止められた。

 シアンは長時間この世界にいることができないからというのが表立っての理由だが、シアンの安全を顧みてのことだった。実際、ログイン時間を制限されるシアンとしても常に付き添うことは難しい。

 異能保持者が一時避難のためにニカ周辺の国を集団で移動することについて、インカンデラ国王リベルトが各国に許可を得てくれた。

 許可が出ない国は通らないよう、避難する者たちに言い含めた。

 幻獣のしもべ団たちがニカへ入る際には通行許可書を示して見せた。

 なお、ニカとニカを擁する国ガルシンにはインカンデラからも翼の冒険者からも大量の献上品がなされている。ナウムも国に顔が利くらしく、ガルシン国王が翼の冒険者と会いたがり、面識のあるナウムをしきりに羨ましがっていたと送られてきた手紙に綴られていた。

 ニカはその位置から重要な役割を担った。

 ハルメトヤからほど近く、それだけに苛烈を極める異類の審問、弾圧から逃れるために多くの異能保持者を船に乗せる港町だった。

 ある日、そのニカの埠頭に現れた巨大な亀と蛇に街の人間は腰を抜かした。

 翼の冒険者から使いの者をやると連絡を受けてその場で待っていたナウムも青くなった。シアンはうっかり使いの者について説明するのを忘れていた。

 しかし、黒い蝙蝠のような被膜のある翼を持つ蛇が咥えていたものを見て、ナウムは表情を一変させる。

 徴の金属板だった。特徴的な模様に見覚えがある。シアンがあのオークションで手に入れたものだ。

 この金属板を持つ者には多くの商人たちが敬意を払った。ナウムも同じ金属板を持つ。

 次いで、蛇はマジックバッグから書簡を取り出した。

 ナウムは笑い出す。

「流石は翼の冒険者の幻獣。マジックバッグを持っておるのか!」

 差し出された書簡を恐れることなく受け取り、読んだ。

 書簡には亀の甲羅に異類を乗せて運ぶという荒唐無稽の話が記されている。

 度肝を抜かれるが、不意に腹の奥底から笑いがこみあげてくる。声をたてて笑ってみれば実に爽快な気分となる。

 ひとしきり笑ったナウムは、驚き渋る街の人間や集まって来た異能保持者を説得した。

 まず、安全を示そうと自身が乗ろうとしたが、秘書に止められ、彼が代わりに乗って同行することになった。

 心底悔しそうなナウムに、同じく徴の金属板を持つ同輩の商人が笑う。

「おお、無謀のナウムらしいがやめておけ。お前はここに残って貴光教の相手をしなくてはならないからな」

「やっぱり乗って同行したい」

 そう言って、ナウムは名残惜し気に亀を見やる。船より大きい。その傍らで蛇が鎌首をたわめている。

「そうだ、生き物なんだから食べなくてはならんだろう。何を食べるんだ?」

 ナウムは港町の名物料理をたくさん出させ、蛇と亀と商人と、そして異能保持者たちと食べた。腹を空かせていた異能保持者たちは喜んだ。中には着の身着のままの者もいたので、急ぎ、衣服を始めとする日用品を整えてやる。

 蛇は商人たちが料理を整えるのを見て、マジックバッグから海産物を出してくれた。ナウムですら見たことのないものもある。

 港町の人間が興味津々になる。

 共に食事をしたせいか、異能保持者たちはすっかり亀と蛇に慣れた。蛇などは子供たちと遊んでいた。子供たちの指の動きに合わせて鎌首を上下左右に動かし、蛇のたわめた尾の先に合わせて子供たちが顔を上下左右に動かす。勇気のある子などは亀の頭の上に乗せて貰ってはしゃいでいた。子供らの明るい笑い声は大人たちの心を明るくした。

 亀と蛇は逆に子供たちから、翼の冒険者の小さい白い幻獣から教わったのだという符丁を教わった。

「違うよ、こうだよ、こう」

「蛇さん、もっと斜めに尾を振って」

「わっ、亀さん、動きが速い!」

「すごーい!」

 そうして、異能保持者たちは亀の甲羅の上に乗せられ、蛇の護衛で海を渡った。ナウムが出した船よりも亀の方に乗りたがる者が多かったくらいだ。

 その船で戻って来た秘書が言うには、海の魔獣を蛇がことごとく退治してくれたのだそうだ。



『……』

『えっ、リムが独りでお使いに行ったように、私たちも二頭で港町へ行くの? うーん、そうだね。ネーソスがそんな風に言うなんて珍しいし、やってみようか』

「ええと、ユルクとネーソスが直接行ってくれるなら、僕はその間にあちこち回って仮移住の声掛けができるから有難いけれど。そうだ、手紙とこの金属板も持って行って。ブルイキンさんに見せたら分かると思うから」

『ネーソスとユルクなら大丈夫だよ』

『おやつにリンゴとトマトも持って行く?』

『……!』

『行ってきます!』

「気を付けてね」

『行ってらっしゃい!』

『シアン、そろそろぼくたちも行こう』

 鸞は薬の作成を、麒麟はその手伝いを、ユエは日用品の製作を、カランはその助手をしていた。九尾が天帝宮へ行っていた折の時のことだ。リリピピは各地の偵察を行い、一角獣は島の見回りと素材の調達、わんわん三兄弟はセバスチャンの手伝いをしていた。

 不幸にして彼らの無謀を止める者はおらず、同じく無謀の二つ名を持っていたニカの有力商人ナウム・ブルイキンによって受け入れられ、ネーソスとユルクの異能保持者移送は奇蹟的にうまく執り行われたのだった。

 噂を聞いたガルシン国王は自分も乗ってみたかったと悔しがったというのは別の話である。

 なお、この時、シアンからユルクが託された金属板を見て、鸞が珍しがった。その様子に感化されたユエが金属板に穴が開くほど観察し、新たな徴を形づくらんばかりだった。

 ログインしたシアンに鸞とユエが金属板を研究させてほしいとねだり、異能保持者の輸送が済んだら渡すことを快諾する。シアンとしては白熱する商人たちを止めようと金銭を放出したが、幻獣たちの様子を見るに、支払った分の価値があった様子だ。



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