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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第九章
459/630

33.開拓  ~のほほんと難題解決~

 

 たっぷり土産を貰ったシアンたちは王宮を出ると、荒地へと向かった。

 国都から離れているが、ティオの飛翔能力に一角獣も軽々とついて行く。

 話に聞く通り、荒涼たる場所で、赤茶けた地面は硬く、背の高い木はあまり育たない様子だ。

『わあ、何もない!』

 周囲を見渡してはしゃぐリムの言う通り、がらんと開けた場所だった。

 遥か向こうに山が見え、その裾野には樹木も植わわっている様子だ。奥に一層高い山々が連なっているのが見える。

 おそらく、ドラゴンが住まう山脈なのだろう。

 この荒地内にセーフティエリアがいくつもあると聞いている。

 シアンと九尾をセーフティエリアに残し、ティオとリム、一角獣は早速先住者たちの説得に取り掛かった。

 ティオは初手から気配を薄くすることなく、ただ魔獣や非人型異類と対峙してひたと見つめた。力があるだけでなく知能も高い者たちはみな首を垂れ、膝を折る。

『あのね、この場所にね、いっぱい人を連れて来て住まわせたいの。だからね、食べないであげてほしいの』

 リムは出会う魔獣や非人型異類に気後れすることなく、いつもの調子で語り掛ける。そこには力の誇示や見下しはなく、同等の立場での願いがあった。

『代わりにこの土地を恵み豊かで住みやすいようにするから』

 ティオがただとは言わないと付け加える。

 要は住み分けをしてほしい、それができるだけの動植物を用意して見せると言うと、弱肉強食の世界観に支配されていた荒地だったからか、力がある者の言葉に従う者が殆どだった。

 中には、突然やってきて勝手なことを言うなと聞く耳を持たない者もいた。

 当然のことではある。

『じゃあ、この辺りには近寄らないようにするね』

『ふん、好き勝手を言う。そんなやつらが大挙してくるのであれば、これ幸いだ。ひと呑みにしてやろう』

 言いつつ、甲羅を背負った鰐型の非人型異類がくわ、と口を大きく広げたかと思うと、見る間に大きくなっていく。

 それだけで、相対する者の肝をつぶしてきたのだろう。

 しかし、彼らはすでに島のように大きくなる亀を知っていた。その甲羅に乗って海を渡ったことさえある。

 鰐型の非人型異類は丘ほどにまで巨大化する。開けた口は巨躯を誇るティオが翼を広げて内部を飛翔できる大きさだ。

『洞窟みたいだ』

『中にスケルトンたち、いるかな?』

『ああ、大瀑布の裏の洞窟にいたアンデッドたちのこと?』

 ティオの言葉にリムが口を覗き込み、一角獣が頷く。一角獣はシアンと他の幻獣たちとの冒険を聞くことを好んだ。地面から噴き出る熱水や大瀑布といった見たことのない景色があり、みなで驚いたりどんなところだろうと想像して語り合うのが殊の外楽しかった。その中に、巨大な洞窟に住まうスケルトンも登場した。

 非人型異類の開けた口もまた大きな洞穴だった。

 まさしく水滴が円錐を作り上げた洞窟のように上下から牙が飛び出しており、リムの大きさではそれらに隠れてしまう。そんなところも大瀑布の裏の洞窟を想起させるのだろう。

 戸惑ったのは鰐型の非人型異類だ。

 大抵は驚き逃げ惑うが、泰然とされていたり、あまつさえ興味津々で覗き込まれたりされているのだ。

 気を取り直してけしからぬ者どもに向けて咆哮し、ひと呑みにしてやろうと思った。その矢先、意識が途切れた。

 一角獣が殆ど距離がない場所から突進を行ったのだ。

『あんなに大きなものでも貫くんだね!』

『すごいね』

 リムが四肢を跳ねさせ、ティオが悠然と頷く。

 鰐型の非人型異類は洞窟サイズのままこと切れた。正体は大きい方だったのだろう。

 甲羅を背負った鰐がぱっくり口を開けたまま、脳天付近に穴が開いている。

 すぐに動物たちのちょっと風変わりな住処となるだろう。

 さて、共存の呼びかけから戻って来た三頭から鰐型の非人型異類の話を聞いたシアンと九尾は驚いた。

『物語では飲み込まれた先の胃袋の中とかで何か発見するんですけれどねえ』

「そのまま強力な消化液で溶かされそうだね」

 シアンは三頭がいない間、水の精霊と大地の精霊に河を作ってくれるように頼んだ。山の水を水源に、見る間に流れが迸る。張り切りすぎた精霊のおかげで、山を始点に幾つかの支流ができ、そのうちの数本が海まで到達した。

 合流したティオが大地を叩き、精霊の恵みを願う。

 大地を潤し、恵みを祈った後、樹の精霊から譲り受けた苗木を植えた。リムの号令の下、みなでキュアぽんするとすぐさま芽吹く。

 芽は苗になり、苗は見る間に育ち、大樹となった。その周辺から緑が大地を覆い始める。

『後は自然に育っていきそうですな』

「それにしても、すごいね。何もなかったのに、もう木も草も生えて」

『シアンが河を引いてくれたからだね』

『ティオも大地の精霊に呼びかけてくれたものね』

『リムもいっぱい魔獣を狩っていたよ』

『ベヘルツトも丘のように大きな非人型異類を一撃だったそうですな』

「ふふ、みんな、お疲れ様。魔獣や非人型異類は他の皆へのお土産に持って帰ろうか」

 ここまで来たのだから、海路を確認がてら、ニカへ行って商人にも挨拶をして、そこから転移陣を踏んで島に帰ろうとなった。

 ニカの有数の商人であるナウム・ブルイキンは忙しい。特に、異類排除令からこちら、寝る間も惜しい。しかし、翼の冒険者が面談を求めて来たとあれば別だ。

 奇しくも、初対面の時と同じ幻獣たちを連れていた。

 シアンは商人たちの活躍に対して礼を述べ、手土産だとばかりに魔獣を渡す。幻獣たちが荒地で狩った獲物だ。

 見たこともない魔獣にナウムが目を輝かせる。

 そこで、異類の保護と移送について話した。

「開墾する必要はありますが、そこで人の街ができ、こういった魔獣の素材が採れるのであれば、新たな交易が発生するのではないでしょうか」

 ナウムは興味を持って頷く。

 今まではドラゴンの山脈など恐ろしくて近寄れないし、得るもののない荒地には用はなかった。魔族の国はあまり積極的に交易に関わろうとしなかったので、南の航路というのは旨味がなかった。だが、荒地が人の住める土地になり、一時的とはいえ異能保持者が住むというのならば話は別だ。何より積極的に取引を行うようになった魔族の国と隣接している。新たな交易先が増える。

「航路の確保は非常に有益となりますでしょう。ただ、問題がありましてな」

「何でしょうか?」

「海に出現する大型の魔獣です。翼の冒険者は以前クラーケンを倒してくださったと聞いています」

 ティオが水切りの石よろしくひと蹴りで倒した。そして、幻獣や精霊たちと食した。非常に美味であった。

『クラーケン!』

『美味しかったですな』

『大きいから食べでがあったね』

 幻獣たちが鳴き声を上げたのをナウムは違うように捉えた。

「そうでしょうとも。海の中の巨大生物です。しかも力も魔力もある。翼の冒険者も討伐にさぞ骨折りだったでしょう」

『一撃でしたなあ』

『ああ、あれ、ティオが倒したんだ』

 九尾がしみじみと言い、一角獣がそうなのかと頷く。

 きっと、一角獣ならば水の中へも突進していって一撃で倒すのだろうとシアンは考える。

「クラーケンの他にも馬の姿をしたものが船を海に引きずり込んだりするのです」

『それ、我が倒した』

『そっちも一撃だったよね!』

 一角獣にリムが元気に答える。

「その他、巨大クラゲやシーサーペイントなどもおります」

『ふむ。シーサーペイントは形からしてユルクのおじいちゃんのことかもしれませんね』

『じゃあ、あとはクラゲくらい?』

『でも、そっちもユルクが眷属にも話しておくって言っていたし』

 九尾の類推にティオが小首を傾げ、一角獣が鼻息を漏らす。

「ええと、あの、そういった諸々の海の魔獣の件は心配いらないようです」

 幻獣たちの会話にシアンは苦笑するのを堪えた。

「な、何と……。いや、流石は翼の冒険者ですな。クラーケンを倒した貴方方ならば容易いことなのかもしれない」

 恐らく、商人の想像よりも容易に狩る。美味であれば嬉々として向かっていくだろう。このところ食い扶持が増えたのを幻獣たちも感じているので、積極的に狩りを行っているのだ。荒地も片付けた。陸地の次は海だった。

「後はそうですな。荒地は強力な魔獣が跋扈するのだとか」

「あ、それも粗方狩りました」

 なので食料は十分にあると言うシアンに、そう言う問題ではないとナウムは口を半開きにする。

「あ、あの広大な土地全土ですかな?」

 言いながら、シアンが土産にと渡した魔獣を見下ろす。現物があるというのは説得力のある物的証拠だ。

「はい。狩った獲物は、移住してきた方々に捌く仕事にして貰おうかと思っています」

 風の精霊が無菌状態で保存してくれている。その辺りは濁しておいた。

「な、なるほど。後はそうですな。飲み水となり得る河が少ないことと何より荒地で食物が育たないとか」

「それに関しては水を引き、悪環境に強い植物を植えて育てているところです」

 まさか精霊が発奮して土地が豊かになりましたとは言えなかったのでそういう風に伝えた。シアンたちが発つころには既に見違えるほどの場所になっていた。

「何とまあ……」

「幸い木材となる木々は沢山あったので、開墾し、各施設を建築する必要はありますが、そこはもう割り切って仕事があると思っていただけると」

「いえ、もちろんです。人は食べられれば良いというものではない。やり甲斐の仕事があってこそ。それに、迫害から逃れてきたのを受け入れ、食料その他を整えてくれるというのだから、とんでもない恩恵を受けることが出来るというものです。各地で凶作は続いているのですからな」

 こうして、シアンは魔族と商人、双方の協力を取り付けることに成功した。

 シアンは幻獣たちの実力を誤魔化すのに気を取られて、肝心なことを話すことを忘れていた。そのため、手紙にしたためることになる。その手紙を渡す者に驚かれるだろうと思いつつ、異世界の不便な一面を感じつつ、自分のうっかりを猛省することになる。




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