表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第九章
445/630

19.陰の立役者3

 

 当時の医療処置の一つに、星占いによって適切な時刻を決め、「温、寒、湿、乾の体液」のいずれが病気の原因となるかを探るか、というものがある。四体液とは、人間の身体を巡る四つの体液、「血液」「粘液」「黄胆汁」「黒胆汁」をいう。一人一人配合が違っているが、誰でも生まれついてある一つの体液が優勢であり、それがその人の「気質」を決めると考えられていた。

 現在蔓延する流行り病は空気が汚されて毒気が発生したことに起因すると医学会では見なされていた。それが正しければ、全ての人が罹患するはずである。ところが、同じ汚れた空気を吸っても病にかからない人もいる。その違いを生み出すのが「体液」であると考えられていた。

 水の聖教司はそれら体液の循環は自分たちの領域だと奮闘した。流行り病が席巻する今、自分たちこそが頑張るべきだ。

 どんなところに病気が生まれ、どんな体液からそれが生じたかは影響を受けやすい属性や星の巡りが関与する。

 血液は木星が司り、影響を受けやすい属性は風、性質は湿温だ。

 粘液は月が司り、影響を受けやすい属性は水、性質は湿冷だ。

 黄胆汁は地星が司り、影響を受けやすい属性は火、性質は乾温だ。

 黒胆汁は獣星が司り、影響を受けやすい属性は土、性質は渇冷だ。

 人によってこの四体液の混合具合は違っている。この配合によって人の性質も変化するのだ。

 血液が多い人であれば「多血質」となり、大柄で気前が良く、赤ら顔の愉快な人物である。

 粘液が過多な人は粘着質で湿っぽくて冷たい。鈍重だが独創的なところもある。

 黄胆汁が優勢であれば、細身で怒りっぽい。

 黒胆汁は常に貪欲で悪口が多い。

 四体液説では、それぞれの体液がバランスよく混合されている状態を健康とみなされる。どれかひとつが過剰に増えると病に陥るのだ。また、体液が汚れている人ほど毒気の影響を受けやすい。

 従って、この体液を浄め、増減させたり滞った体液を循環させることが必要であった。

 そのため、瀉血や発汗、ハーブを使った治療法が用いられた。

 しかし、飢えで弱った体から血を抜き、より多くの発汗を促すことが果たして正しいことなのかと水の聖教司は困惑した。ただでさえ体力が低下している患者を痛めつけることになりやしないかと思うのだ。

 その直感に従って、水の聖教司は瀉血や発汗を促す処置を取りやめ、ひとまず水の循環がスムーズになるように魔力を操作した。

 そうやって試行錯誤するうち、神殿の入り口付近がにわかに騒がしくなった。休憩がてら部屋を出て通路を歩く。患者につきっきりだったので気分転換にもなった。

 客人かもしれないと、色とりどりに染色された貫頭衣を整え、気休め程度に髪を手櫛で直す。

「どうかしましたか?」

「聖教司様! 今、こちらに翼の冒険者の支援団体から物資が届いたのです!」

 べそをかきながら、副聖教司補佐のまだ年若い少年が物品を指し示す。

「お、おお! これはありがたい!」

「まだ大量にありますからね。どこに運びましょうか?」

 翼の冒険者は以前、神託が降りた対象ではないかと噂された。それはもはや確信に近い。その神の使者とも言える存在の支援団体が喉から手が出るほど必要としていた物資を渡してくれた。

 聖教司は思わずその場に跪き祈りを捧げた。副聖教司補佐もそれに倣う。

「あー、いや、その、俺たちは偉くもすごくもないんで。兄貴がすごいだけなんですよ」

「あとティオ様とリム様もお忘れなく」

「その他の幻獣様も色々頑張ってくれました」



 商人たちの一部は罪悪感めいた感情を抱いていた。

 翼の冒険者からもらった新大陸の新種の樹木の伐採権。それはとてつもない富をもたらすことを予想された。誰ももたなかった物品を取り扱う。鳥肌が立ち、落ち着かない気分になる。けれど、一部の商人はそれ以上を求めて奥地へ足を踏み入れた。一攫千金を求めて新 天地へ行くのは冒険者も商人も同じだった。

 自己責任だ。けれど、そのせいで多くの無関係の者が被害を被るとは。

 同じ商人として忸怩たる思いである。



 翼の冒険者の評判は高まった。

 当の本人たちは精いっぱい頑張りながらも、楽しみながら支援物資を整えた。

 きゃっきゃきゅぃきゅぃきゅあきゅあきゅっきゅしながら行った。幻獣たちとともに精霊たちも惜しみなく協力した。

 彼らは他人の評価など何のその、軽やかに乗り越えて行った。

 けれど、彼らの要がくずおれたらどうだろうか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ