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天地無窮を、君たちと  作者: 天城幸
第八章
367/630

7.遠出の準備2 ~増えちゃう~

 

 リリピピが帰って来てネーソスに試し乗りをさせて貰ったことから、にわかに遠出が現実的に思えてきた幻獣たちは準備に勤しんだ。

「こういうのって準備も楽しいよね」

 シアンの言葉通り、幻獣たちは浮き浮きと取り組んだ。

 ユエは魔道具に魔石を内蔵し、その内包する魔力で動くという仕組みを知り、では、魔力を蓄積させ、それを必要な時に必要に応じて取り出すことはできないかという取り組みを行っていた。

 これが可能になれば、麒麟も魔力不足に陥る心配がなくなる。ネーソスもまた、独り海を渡るのだ。相当魔力を要するだろう。それに自分やカランもまたそう魔力保持量が多くはない。リリピピは小鳥に見えて炎の神の眷属だ。あれほど遠方に旅することはユエには出来ない。ならば、できる道具を作るのがユエの特性を活かしたやり様というものだ。

 幸い、一角獣が発見した魔力溜を内包する洞窟で得られる魔晶石がある。これを加工して魔力の出し入れができないかという研究を行っていた。

 魔石は生前その主だった魔獣の属性と合致する魔力を籠めることができる。条件を満たせば魔法を閉じ込めることも可能だ。無論、魔石自体も相応のものが必要とされる。

 魔石を内蔵した魔道具は魔力供給が続く限り効果を及ぼす。

 魔晶石に同じ役割をしてもらおうというのだ。

 独りで抱え込まず、鸞や九尾、カランの知恵を借りて行った。

 良い着眼点だと褒め、様々に力を貸してくれた。

 同族たちも流行り病の時もそうだが、常に尽力してくれる。彼らはフラッシュにも共に道具作りに励む仲間として接していた。フラッシュが道具作りに情熱を注ぐ姿を見ているからだろう。

 そうして作り出した石は光の加減で白とも黒とも見えた。白っぽいのに黒い輝きを発するのだ。

 ユエは自分で試した他、鸞や九尾、カラン、そして麒麟にも魔力の出し入れをやって貰った。

『気分が悪いとかはない?』

『大丈夫だよ』

 不思議そうに小首を傾げてみせるが、麒麟は上手く魔力を吸い上げ、更にはその魔力を戻すことに成功した。

 最高品質の魔石並みに何度も使用できる。

『これは便利だにゃ!』

『さしずめ、魔力蓄石とでも言うところでしょうかね』

『そのまんまにゃ!』

『きゅっきゅっきゅ、何を言う。こういうのは分かりやすいのが一番!』

 賑やかに騒ぐ幻獣たちを余所に、鸞が出来上がった不思議な色合いの石を矯めつ眇めつする。そのやや硬い表情にユエは意見を求める。

『何か欠点がある? 遠慮なく言って!』

 自分では完璧な出来栄えとは思うが、これほど知恵のある幻獣たちが揃っているのだ。ユエが見落としている点に気づいたのかもしれない。

『いや、カランの言う通り、良いものだと思う。しかし、素晴らしすぎるのだよ。これは老婆心から言うのだが、あまり公然としない方が良いのではなかろうか』

『そうですねえ。これほどのものならば、人の世に争いをもたらすかもしれません』

 鸞の大げさな物言いを笑うことなどできなかった。聖獣であり人の世の統治の是非を下すと言われる九尾が言うのだから、確かなのだろう。

『折角の発明を世に知らしめることができないのは口惜しいが』

『ううん、自分はレンツやネーソス、カランが魔力不足に陥ることなく、遠出をみんなと一緒に楽しむことができるように作ったのだから、それは良いよ。考えてもいなかったし』

『ユエ……』

『俺のことも考えてくれていたのかにゃ』

 麒麟が目を潤ませ、カランが素直に礼を言う。

 カランは島に来た当初から随分変わったとユエは思う。自分もそうありたい。

 館に住まう者には伝えておこうと鸞が幻獣たちを集めた。

『これで安心して遠出ができるね』

 ティオが重々しく頷くのがユエを認めてくれているように思えて面映ゆい。

『ユルクのおじいちゃんの所も行っちゃう?』

『それはちと遠すぎるから、またの機会にしよう』

 リムが浮き浮きと言うのを鸞がいなす。

『いつかゼナイドにも連れていってほしいな』

 麒麟が頼むと一角獣が快く案内を請け合う。

 わんわん三兄弟が不思議な輝きを放つ石に見とれ、いつになく静かだ。

 ネーソスがユエに礼を言い、ユルクが良かったねと笑う。

『自分もカランも魔力保持量が少ないからね。リリピピのようにはいかない。出発までにできるだけの量を作っておくよ』

『わ、私などはそんな』

『何を言うのにゃよ。自由自在にあちこちを飛び回る風の精霊王の坐す所へ行けるのにゃ。とんでもなくすごいことにゃよ』

 思いがけないユエの言葉にリリピピが謙遜し、カランが否定する。

『そうだよ。リリピピはもっと自信を持って良いよ。その歌声は楽しい気持ちと共に風の精霊王へと届いているのだから』

 九尾の言葉にリリピピが目を見開く。

 シアンだけでなく、幻獣たちもこうしてリリピピのことを認めてくれていたのだ。

 遠出だって不在がちなリリピピを待たずして出掛けて行ってしまうこともできた。けれど、みなで行こうと誘ってくれた。

 この嬉しく弾む気持ちをまた次に風の精霊を訪ねて行った際に歌に乗せようと密かに誓う。彼らが信じてくれたように、きっとできるはずだから。



『ユエ、炉は持っていけないにゃよ』

『ネーソスの上では火は焚かないよ。でも、シアンは夜は長時間、昼間も日によっては半日いないと言うじゃない。だったら、炉に火を入れる時間はあるもの』

『それ、工房の備え付けにゃからね。台もにゃよ』

『じゃ、じゃあ、これを……』

 ユエとカランの攻防は続く。

 これをきっかけに、ユエは簡易炉を作れないかと考え始める。

『シェンシ、そんなに器具を持っていくの?』

『う、うむ、出先である程度は薬を煎じられるようにと思ったのだがな。……やはりちと多すぎるか』

『うん。ディーノが用意してくれたマジックバッグの容量を超えてしまわない? 素材も沢山入っているんだよね? 遠出でも珍しいものが見つかるかもしれないよ?』

『その確率は高いな。いや、マジックバッグは容量が増えているようなのだ。しかし、レンツの言う通りだ。多すぎるゆえ、荷を減らそう』

『書も減らした方が良いんじゃないかな』

『そ、それは……』

 麒麟に諫められて鸞が慌てる。

 鸞と麒麟のやりとりも続く。

『マジックバッグに工房も入ったら良いのに』

『……それはやりすぎにゃよ。同族は一緒に行かないのにゃ?』

『図書室を丸ごと持っていきたいものだ』

『あは。スケッチブックだけにしておいた方が良いよ』



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