15. フィールドワーク ~孫/歩行訓練/マイペース~
足下を峻厳な岩山が流れていく。高い塔のような切り立った岩肌が、垂直に落ちていくように削られた斜面が、見る間に後ろに流れていく。
身が竦み息を飲む景色ももはや慣れたものだ。それだけにティオの飛行と精霊たちの助力に全幅の信頼を置いていた。傍らを飛ぶ鸞もその飛翔には余裕がある。
以前、炎の精霊に会いに行った火山のある南東の大陸を南下する。
途中、砂漠の薔薇で一泊した。再び来訪したグリフォンに、大地の民は大歓迎だった。
門を潜るとティオの威容はすぐさま人の口々に伝わっていき、取り囲まれた。中には、炎の民に特別な茶を飲まされそうになった際、助けてくれた大地の民代表や冒険者ギルドの受付である前大地の民代表の姿もあった。
『すごい人気ぶりだな』
『前回はこうではなかったんですがね』
物珍しげに周囲を眺める鸞に九尾が答える。
『そうなのか?』
移住の挨拶をするために天帝宮に向かった際、麒麟の隠ぺいを用いて街中へ入って闇の神殿で転移陣登録をして回った。その際は麒麟を守らねばと気を張っていた。傍らにいるティオやリム、九尾はもちろんのことだが、シアンがいてくれるお陰で随分リラックスして人の営みを眺めることができた。
集まって来た大地の民たちは、家で休んでいけ、これを食べろ、飲め、これを持っていけ、とナタとは別の事象が起きている。少しでもシアンらに何かをしてやろうと押し合いへし合いした。
それを大地の民代表と前代表が押し止める。
「済みません、前回お越しの際にはきつく接触を咎めておいたのですが」
大地の民代表の顔見知りが経営するという酒場に連れてこられて一息つくシアンに、大地の民代表が謝罪する。
まだ店を開ける前で客がおらず、当然のごとくティオを中へ招じ入れた。
彼らからすれば、シアンの方が添え物で、ティオに対して非常に恭しい。
彼ら大地の民は元はエディスの天空の村に住んでいた。どういった経緯で遥か南下した別大陸に移り住むことになったかは不明だが、時折様子を見に人を使わせていたところ、ティオの大地の太鼓の音に精霊の力を感じ取ったのだという。
大地の民は大地の太鼓の音と共に生き、大地の太鼓の音で死後の旅に立つ。祭祀の意味合いが強いのだろう。それで、この歓待ぶりなのだ。
「あれからわしらも翼の冒険者の噂を集めましてな。何でも幻獣のしもべ団という支援団体をお持ちだとか」
シアンは話の流れに嫌な予感を覚える。
「それで、わしらもこちらの大陸で翼の冒険者を支援する結社を作ろうとなりましてな」
「あ、いえ、もう手は足りていますので」
咄嗟に断ったシアンに前大地の民代表は消沈し、大地の民代表は苦笑する。
「まあ、私たちも手出し無用と神殿から言い付かっておりますから、お気になさらないでください。ただ、何かあれば遠慮なく我らを頼ってください。力になることは喜びです」
シアンはスマートに引いてくれたことに安堵した。
神と精霊、仕える者が違い、仕え方が違う者たちではあったが、その行動を阻害したいというのではないのはありがたい。
マウロに幻獣のしもべ団の手勢を増やすことは一任している。マウロ率いる集団だからこそである。彼らが必要に応じて増員するのならば、シアンとしてはその手助けをするまでだ。
大陸を南下することを話し、周辺の情報を尋ねる。
向かう先にはあまり人里がないと心配される。雄大な土地だけあって、そちら方面にも大地の民が住んでいるから彼らを頼れ、グリフォンを連れていたらシアンを粗略には扱わないという。
そうして、砂漠の街を出た後、ティオの悠々とした飛行で砂の海を渡った。途中、何度かオアシスにあるセーフティエリアで休憩を取り、シアンは度々ログアウトした。幻獣たちがドラゴンの翼と蛇の尾を持つ雄鶏の姿をした魔獣を倒したりもした。
『ほう、こやつは力のある魔獣だ。ひと睨みで生き物を石に変える』
『確か、雄鶏が産んだ卵を蛇やヒキガエルが孵したら生まれてくる魔獣ですよね』
鸞も九尾も詳しいなと思いつつ、獲物をマジックバッグに仕舞う。
『ユエたちにお土産できたね!』
『エリアボスだと思しき魔獣も単なる獲物! お土産の一種!』
『良い素材になりそうだね』
茶化す九尾に取り合わず、ティオが喜ぶリムに同意して見せる。
蛇の王の弱点と合体することでさらに強力になった魔獣もティオに掛かれば一撃である。
砂漠は初めてだという鸞の体調を気遣ったが、シアンの傍は環境が整えられているからという九尾の言に同意していた。
『シアンのお陰で暑さや渇きに苛まれることなく、砂漠を堪能しているよ』
シアンがログアウトしている際に周辺の生態系を調べているそうだ。念のため、セーフティエリアを離れる際には必ず別の幻獣に付き添って貰うように伝えておいた。
「シェンシも高位幻獣だと知っているんだけれどね」
心配性のシアンに、鸞は素直に頷いた。
砂漠を超えた後、乾いた大地は峻厳な岩山に取って変わった。
切り立った岩の塔が林立する下方向から時折唸り声をたてて突風が吹く。
鸞が超えられないと言っていた地域だ。
「シェンシ、大丈夫? 英知、風を弱めてくれる?」
『分かった』
もはやティオは強風でも普段通りの飛行ができると知っているシアンは鸞を案ずる。
鸞は自分では超えられないと思っていた山を越えられそうで、我がことながら驚いていた。魔力溢れる島に滞在していたことや精霊の助力があるからこそで、嬉しい誤算だった。
『シェンシも疲れたらぼくの背に乗る?』
ティオも途中、鸞にそう声を掛けた。
『おや、珍しく親切』
シアンやリムではないのに、と茶化す九尾に取り合わず、ティオが続ける。
『定員オーバーだけれど、そこは狐を下すから気にすることとはないよ』
『きゅっ! 殺生な! きゅうちゃん、こんな強風の中を飛行できませんよ!』
『じゃあ、きゅうちゃんが落っこちそうになったら、ぼくがないすきゃっちしてあげるね!』
『落ちる前提で言わないで!』
『やれ、騒々しいな』
「ふふ、賑やかでいつも楽しませてくれているよ」
三頭のやり取りに鸞が笑い交じりに言い、シアンも同意する。鸞とうふふと笑い合っていると、リムが肩に乗って来て一緒に破顔し、ティオも笑みを浮かべ、九尾も同じくだ。
ふと、ここに麒麟も一緒にいたら良かったのにと思った。そうなれば、一角獣も自分も同行すると言っただろう。
わんわん三兄弟も過去にこだわらずに今を楽しんでほしい。ユエやカランは島でのんびりする方が性に合っているかもしれない。ユルクやネーソスとも空の旅をしてみたい。水の中とはまた違う光景に驚いてくれるのではないだろうか。リリピピは今吹いているような突風に巻き込まれていはしまいか。いや、精霊たちが力を貸してくれるのだ。シアンは心配せずとも大丈夫だろう。
『シアン、どうしたの?』
「うん、こんな風にシェンシやベヘルツトとも遠出をできたら良いなと思っていたんだよ。できれば、他の皆とも」
『楽しそう!』
『ふむ、リリピピが戻った時にみなで出かけるのも良いな』
リムが顔を輝かせ、今回の遠出を満喫している鸞も頷く。
『カランを動かすのが一番骨が折れるかもしれませんねえ』
『その時はベヘルツトの背中に乗せれば良いよ』
九尾が前脚を組んで首を傾げると、ティオが事も無げに言う。
『きゅっ! 流石はティオさん、辛口発言! 痺れる!』
一角獣はカランを背に乗せていても獲物を見つければ突進する。勢い、カランも瞬間移動のような速度を体感するのだ。
「はは。カランがその気になってくれる誘い文句を考えておかなくちゃね」
『シアンが誘ったら一緒に来るよ!』
「ふふ、そうだと良いね。でも、無理強いは駄目だよ?」
リムがぴっと片前脚を上げるのに、念のため言っておく。
『大丈夫。カランはなんだかんだ言って、ベヘルツトのことも好きだから』
ティオの言葉に九尾も鸞も頷く。
岩山を超えると、大陸を横断する巨大な谷が広がっていた。
並行に走る断層崖が延々と続く地溝である。
高高度を飛ぶティオの背の上から見下ろす景色は圧巻だった。
下に降りれば体感できない眺めだ。
ティオはもちろんのこと、その背に乗るシアンと九尾も、傍らを並走するリムも鸞も、高高度を高速で飛行しても支障がないのは精霊たちが力を貸してくれているからだ。
幅数十キロメートル、長さは数千キロメートルにも及ぶ。落差が百メートルを超える崖が無数にある。
まさしく、雄大なスケールの大地の様相が広がっていた。
『一千万年前、マントルの上昇が原因による地殻変動で高い山が生まれている。初めは小さな亀裂から広がった』
風の精霊の言葉に、規模だけでなく悠久の時間を経てできた姿なのだと知り、声もなくただただ見つめた。
「すごい眺めだね」
『大きいね』
『ずーっと続いているね!』
『まさしく、壮大ですな』
ため息交じりに言うシアンに、ティオが頷き、リムがはしゃぎ、九尾もどこか感じ入った様子だ。
『ああ、こんな眺めを見ることができるなんて。シアン、改めて礼を言う』
「僕? 僕は何もしていないよ。シェンシは自分で飛んでいるもの」
感激する鸞にシアンは小首を傾げる。
『らんらんは全ての鳥を生み出したとされる聖獣ではありますが、さすがにこんなに高い位置をこの速さで突き進むのは難しいですよ。それにこの地域の暑さ風の強さは生物にとっては厳しいものです。それら影響を受けないのは全ては精霊たちの力の賜物。そしてそれが叶ったのはシアンちゃんがいるからこそ』
「ああ、英知たちにはいつもお世話になっているからなあ。みんな、僕が気づかない点を補ってくれているから。ふふ、英知はシェンシのことを気に入っているんじゃないかな。シェンシくらい物知りだと、教える方も張り合いがあるだろうしね」
万物を知る風の精霊の好意を得ることができるなどと、と鸞は恐れ入った。鸞もまた風の属性を有する。その最上位存在に教えを乞うことができるのは僥倖以外の何物でもなかった。
広大な谷には草原も森も大河も湖もあった。
強いアルカリ性を持つ湖では生き物が育ちにくい。そんな中でもアカシアが林を作り、いつでもどんな場所でも、強く生きる者があるのだと思い知らされる。
アルカリ性の湖は熱水泉もあり、藻類が緑の筋をなし、それを餌にするフラミンゴが大挙し、湖はピンク色に染まる。
湖水自体が赤く染まるものもある。有害な濃度の高い化学物質を湛える湖だ。だが、ここでも独特の生態系を有している。
『水温は四十度以上あり、湖水の色は微生物によるものだ。腐食性の強い水域で、耐性のない生き物の皮膚や目は焼けただれてしまう』
『シアンは近づいちゃダメ!』
風の精霊の言葉に、興味津々でティオよりも大分下降して飛行していたリムが慌てて戻って来る。
途中、セーフティエリアで休憩を取る。
動植物も初めて見るものが多かった。
鳥もシャベルのような、はたまたラッパみたいな、鉛筆の先のごとくとがった嘴を持つ者、傘のような羽を持つ者など、様々な姿かたちをしている。
鮮やかな色彩の花をつけた低木がある。
『これは鳥媒花だが、一部は哺乳類によって受粉されるという特異な生態を持つ』
『この種は形態も色彩も多様な変異を見せる』
シアンの視線を辿って鸞が説明し、風の精霊が補足する。
『シアンちゃんは賢者に囲まれていますなあ』
「きゅうちゃんも色々教えてくれるしね。カランも物知りだし、こんなに個性豊かな知者に教えてもらえて楽しく勉強できるよ」
聖獣として人の世の治世に是非を問う九尾は人の営みに詳しかった。だからこそ、この世界の知識レベルを知っており、鸞や風の精霊のする説明がどれほど現実に即しているか、また、世の人間が迷信や思い込み、過去からの踏襲によって実際と乖離した認識であるかを知っていた。それを知らないシアンは風の精霊や鸞からもたらされる知識を鷹揚に受け入れている。九尾からしてみれば、その落差が面白く、また、シアンにはそのままでいて欲しいと思う。
このゲームは現実世界の中世ヨーロッパ文化に魔法や風変わりな生き物の要素が加わった世界だ。知識レベルも現実世界とは隔たる。
シアンは風の精霊や鸞という知者が身近にいることで実感は薄い。
『他のプレイヤーは現実にそぐわないこの世界の学識に四苦八苦しているんですけれどねえ。こんなところでもシアンちゃんはチートなんですね。本人、全く気づいていないけれど、自覚がないのはもはや定番! 天然最強伝説を爆走中です!』
「きゅうちゃん、おやつ食べよう」
『はーい』
独り言にしては小声ではない九尾の述懐に、変わった言動はいつものこと、と気にしないシアンであった。
鸞はシアンが用意した軽食そっちのけで模写に勤しんでいた。
多肉の楕円形の葉が地面に被さるようにして広がる。二枚の濃い緑色の大きな葉の上から赤い花糸が幾筋も伸び、その上に黄色い葯がついている。原色の色合いが非常に鮮やかで目立つ。
「変わった形だね」
シアンが背後から覗き込む。
『ああ、ユリ科の球根植物だ。折角連れて来て貰ったのだから、出来るだけ記録しておきたくてな。もう出発するのか?』
時間を取らせてしまっては、と鸞がスケッチブックを片付けようとするのをシアンが押し止める。
「ううん。急ぐ旅ではないんだし、好きに描いてくれていたら良いよ。軽食を用意したんだ」
「キュアー」
リムがフォークにパンケーキを突き刺して差し出す。
口を開けて見せるのに、鸞が釣られて嘴を開く。その中にパンケーキが差し込まれ、自然、口の中のものを咀嚼して飲み込む。
『ぼくが食べさせてあげるから、シェンシは絵を描いていると良いよ!』
冷めると美味しさが減っちゃうもの!と言うリムに、作ってくれた者の労力も鑑み、鸞は一旦模写を中止して、みなで軽食を楽しんだ。
林の中では珍しい形のキノコも見つけ、リムが鸞に伝え、鸞はいそいそとスケッチブックを取り出した。近くのセーフティエリアでシアンは短いログアウトをする。
残った幻獣たちはキノコを取り囲んだ。外皮がヒトデみたいに開いている。
『これは食用にもなるが、刺激すると煙を噴出するように胞子を吹き出す』
リムが変わった形に興味津々で覗き込むと風の精霊が言うので、はっと息を飲み、素早く離れる。
『リム、どうしたの?』
『きゅっ! きゅうちゃんには分かりますぞ。リムはこのキノコの胞子がシアンちゃんの害になるのではないかと心配したのですな』
ティオが怪訝そうにし、九尾が含み笑う。シアンたちと行動を共にする間、何度も見て来た光景だ。
『だって、悪い菌がくっついちゃったら、シアンの肩に乗れなくなるもの!』
きゅっとへの字口を急角度にし、高難度超高速もぐら叩きのもぐらのように素早く行ったり来たりをする。
シアンがログインすると、幻獣たちはそんな風にして賑やかにはしゃいでいた。
目的地は谷に沿って南下した先にある。
何度目かのセーフティエリアでの休憩時にティオが言った。
『こんなに広大な場所だったら、雄大の君も気に入っているんじゃないかな』
『そうだな。ここは大地の粋が集まる場所と言えるだろう』
珍しくティオが大地の精霊に音楽と食事を捧げたいとねだった。無論、シアンたちに否やはない。
ただ、呼び出した大地の精霊はいつもの様子とは違った。
眼前の地面からぽこりと一抱えほどの土くれが膨れ上がり、うねうねと動いて人型を取る。
丸く突き出た額に柔らかく膨れた頬、頭が大きくてバランスのとりづらい全身、そう、大地の精霊を呼び出したはずなのに、現れたのは身長が一メートルもない一、二歳ほどの幼児だった。
『⁈』
『あれ、小さいね』
『どちら様ですか?』
『下位の大地の精霊か?』
幻獣たちが戸惑う中、シアンは茫然と呟いた。
「雄大?」
『えっ、こちらが大地の精霊王なんですか?』
『このような幼児の御姿に?』
ばっと音がしそうなほど勢いよくシアンを振り仰ぎ、九尾と鸞が驚く。
『本当だ、雄大の君だ』
ティオが茫然と呟く。
『広い広ーい場所に呼び出したのに、雄大の君、ちっちゃくなっちゃったね!』
リムの言葉にまさしくその通りだとみなの気持ちは一致した。
『あー! い-!』
大地の精霊もまた、リムの言う通りだと言わんばかりに両手を上げて笑う。頭が大きいせいでよたよたと歩き、ぽてん、と勢いよく尻餅をつく。その衝撃に泣き出しやしないかとシアンは冷や冷やしたが、ご機嫌に笑っている。
「これが雄大のもう一つの姿なんだね」
『あー!』
「さて、どうしようか。この姿の雄大は何を食べるのかな」
九尾と鸞はシアンが何を言っているのか一瞬分からず、よくよく考えてみて、ティオが大地の精霊に食事を捧げたいから呼び出したのだと思い出す。
度肝を抜かれる光景にすぐさま順応するシアンに、九尾も鸞も底知れなさを感じる。
ティオもまた、大地の精霊の加護を受けているせいか、戸惑いつつも嘴を小さな手で叩かれるに任せている。
「ふふ、雄大、あまり叩いては駄目だよ。力加減をしてあげてね」
『あ~う?』
分別がないのに強大な力だけがある状態なのか、と九尾と鸞が青ざめる。
リムはシアンが平静なのでこちらもすぐに落ち着きを取り戻し、シアンを手伝って料理を並べている。
その多種多様に並んだ料理から幼児の姿の大地の精霊が選び出したのはいわゆるご飯ものだった。オムライス、チャーハン、丼、炊き込みご飯、おにぎり、と健啖ぶりを発揮する。幼児がそれだけ食べるのは奇妙な光景で、それがまさしく精霊なのだと九尾と鸞に思い知らさせる。
シアンとリムに交互に匙を差し出されて丸い頬を大きく動かして咀嚼する。
『あ~、あ~あ、あう!』
気に入ったのか、小さい手でティオの嘴を掴む。ティオがあやすように揺らしてやると、満面の笑みを浮かべる。
釣られて、シアンもふふ、と笑う。ティオもリムも笑顔になる。
「今度、おはぎを作ろうね」
『おはぎ?』
「もち米を使うお菓子だよ。そうだ、きっと稀輝も気に入るよ」
『きゃう!』
「ピィ!」
「キュア!」
大地の精霊が両手を叩き、ティオもリムも喜ぶ。
大地の精霊は幼児らしく、歩くのが覚束ない。
そこで食後の腹ごなしとばかりにリムが歩行を手伝い始めた。
「キュア、キュア。キュア、キュア」
リムが一、二。一、二、と掛け声を掛けながら小さな両手を両前足で掴んで大地の精霊の歩みを補助する。
リムは中空に浮かびながら、時折黒い翼をはためかせながらゆっくりと後退していく。それに、大地の精霊がよたよたと一歩ずつ足を踏み出してついて行く。
「雄大、歩くのが上手だね。リムもお手伝いがとても上手いね」
「キュア!」
『あう!』
リムが喜びの声を上げると、大地の精霊も真似をする。
ティオが大地の精霊がつんのめったりでもしたらすぐに支えられる位置についている。二者の様子に微笑ましげに喉を鳴らす。
『どこかで見た光景ですなあ』
シアンの飛翔訓練と同じである。
『こ、これはどう表現すれば良いのやら』
『まさしく。どこからどう突っ込めば良いか分からないですが、ともかく、シアンちゃんたちの普通な接し様が異様なくらいです』
マイペースの権化に言われるのだから、相当なものだ。